「ねえねえ、坂口健太郎に似てるよね?」
そこそこお酒も入っている頃、僕の目の前で、綺麗な白いドレスを着た女は言った。
「え?坂口健太郎?似てないやろ」
そう言いながらカッコつけてグラスを手に持つ。
グイっと焼酎水割りを飲み干す。
その頃ボクの心の中は本当はこんな感じだった。
「え!!!坂口健太郎!!
めっちゃ嬉しいやんけ!
抱ける?これもしかして抱ける!???
いや、あかん落ち着け!
キャバ嬢なんか抱けへん!
それがうちの家訓や!
落ち着けオレ〜。
ってか坂口健太郎ってどんな顔やっけ」
「え、ほんとほんと!坂口健太郎に似てるって!言われない???」
「いや〜あんま言われないかな」
そう言いながら俺は坂口健太郎に顔を寄せる。
俺の全細胞が坂口健太郎になろうとする。
なれ!!
俺の鼻、目、口、肌の色
なれ!!!!
キャバ嬢は俺を見つめる。
「ええ、もっとよく顔を見せてよ〜」
そのとき、俺は坂口健太郎に成りきった。
たしかに、俺はキャバ嬢にこんな顔をしていた。
俺の中では。
「似てる〜??」
気分も良くお酒も進んだ。
そうか、俺は坂口健太郎なのか
坂口健太郎ファンが火炎瓶を俺に投げてきたって、俺は言い張るんだ。
「俺こそ本物の坂口健太郎なんだ!」って。
「失礼します!またね」
そう言って女は去っていった。
俺は気分良く酒を飲む。
次の女が俺の席に着く。
隣についたその女は先程おれのことを坂口健太郎に似ていると褒め称えた女に比べたらルックスは良くなかった。
いいや、
おれはアメブロ読者の好感度を気にして文章を書いている。
そうだ、怖い。嫌われるのが。
だけど、本音でいこう。
おれの隣に来たのはブスだった。
そう、ブスなのだ。
角度をどう変えてもブスなのだ。
おいおい、おれは坂口健太郎だぞ?
ここの店は何を考えてるんだ?
坂口健太郎が来店したら、最高の女を隣につけろ!
こんなブスをつけたら
「いつかこのブスを思い出してきっと泣いてしまう」だろ!!!!
おっと、ドラマの見過ぎだった。
女は言った
「私もドリンクいいですか〜?」
ドレスを引きちぎろうかとも思った。
だけど、それは布に失礼だ。
生地が可哀想なのだ。
ドレスに罪は無い。
「はじめまして、リコです」
「ああ、はじめまして」
不思議とブスに対しては声のトーンも2トーン落ちる。
許せ、女ども。
お前らだってイケメンとブ男じゃまるで態度が違うだろ?
今夜は本音でいこうじゃないか。
仕方なく会話をやりくりする。
下手だ。会話も非常に下手だ。
俺を良い気分にさせろ!会話を広げろ!せめて褒めろ!雑談はいらねえ!盛りあげろ!←こういう客は嫌われるので良い子はマネしないように
酒が急に不味くなった気がした。
一気に飲み干す。
あと5分。あと5分我慢したらいい。
それでもう帰ろう。
付き合いで来ていたキャバクラだったので我慢する。
「なんか眠いんですか〜?眠そう」
「あーせやねん。ブスの前やと眠くなるねん」
とは言えない。
こう見えて人は傷つけない主義だ。
「えー、そう?お酒飲み過ぎたかな〜?あはははは」
笑い声が乾いている。
その時だった。
「あれ〜??お兄さん誰かに似てるって言われない?」
その瞬間、眠そうな顔をキリッとさせて
俺はこんな顔をして見せた。
「え〜誰かに似てるとか今まで言われたことないわ。ちなみに誰に似てる?」
完璧なアシストだった。
あとは目の前の女がゴールを決めてくれたら今日の夜はぐっすり眠れる気がした。
しかし、
女から放たれた言葉は俺の脳みそを思考停止させた。
「サバンナの高橋ぃいい!!!!!!!」
「え?」
「お兄さんサバンナの高橋に似てるよ!!!」
俺はトイレに駆け込みたくなった。
俺は心の中で叫んだ。
「ブラジルの人聞こえますかぁああああ!!!!!」
そうか、
俺のことを坂口健太郎に見える人もいれば
サバンナ高橋に見える人もいるんだ!!!
待てよ!
これは雲泥の差だ。
そうか!物事ってのは、ただ目の前にあっても
《ヒトによって解釈が全く違うんだ!!!!》
坂口健太郎(プラス1)と考える人もいれば
サバンナ高橋(マイナス1)と考える人もいる。
つまり、
その考え方の差は全く違う。
ビジネスもうまくいかない時こそ
チャンス(坂口健太郎)と思える人と
終わった(サバンナ高橋)と思う人がいるんだ。
みんなは、どっち!!?
物事を坂口健太郎と捉える?
サバンナ高橋と捉える?爆
これは雲泥の差やねん!!!!←もうわかったって。サバンナ高橋は辛かったんやな。
帰り道おれが坂口健太郎に成りきって帰ったのは言うまでもない。
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