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次の日から彼女の母は勤務日数を減らして1日中病院に居る日が多くなり
オレがムカついていたことは馬鹿だと思った
元々医者から10歳までしか生きられないと聞かされていた彼女の両親は
とうの昔に覚悟を決めていたんだろうと。
しかし、両親が見舞いに来る日が多すぎて
流石に悟られてしまうと担当医から注意を受けていた
今日も面会に行くと笑顔で迎えてくれた。
学校の話・テレビの話・仕入れた面白い話を
ひと通り話して久しぶりに勉強を教えようと
大量の本がある棚から彼女のノートと参考書を取り出して
何処まで進めたのかノートを見た。
しかしそこには勉強の跡は無く、日記が書かれていた。
その後直ぐに彼女に取り上げられて
内容は余り覚えていないが1日分の日記が1ページ程使って書かれていた。
「まだ、見ちゃ駄目」
日記を書くと考えがまとまって、
気分がいいらしい。
その事を褒めてあげていると急に彼女の顔が苦痛に歪んで胸を押さえた
何かまずい事を言ったのかと思ったがそれは違い、
急いでナースコールを押して看護婦さんを呼んだ
直ぐに安定したが看護婦さんに呼ばれ別室で話を聞いた。
腎臓障害が心臓に影響しはじめて不整脈が起こりやすい事、
もう時間が無い事 人間として最後を迎えさせる事。
オレは忘れてはいなかったが、
あえて考えないようにしていたのかもしれない 彼女の時間が迫っていることを。
その後面会謝絶になり、2日程逢えなかったが直ぐに逢えるようになった。
オレはいつも通り毎日学校帰りに面会に行った、
彼女の無邪気な笑顔を作る為に ノックをすると返事がある、
今日も大丈夫だ ドアを開けると黄昏に染まった病室でオレに背を向けて
夕焼けに染まった町を眺めていた
その横に静かに座りオレも黙って見ていた、
窓に反射している彼女の顔を 彼女もそれに気が付いたのか照れくさそうに笑って話し出した。
「いつも来てくれてありがとう。もう大丈夫だから」
ひっかかる事があったが気にするなと言って、
窓に反射している彼女の顔を見つめた。
ふと、部屋の中を見渡すと本棚にあった大量の本が
数冊を残して空っぽになっていた 聞くと、
片付ける時お母さんが可愛そうだと笑って言った。
彼女はいつもの無邪気な笑顔では無く、悟った様なやさしい笑顔だった。
不意に目が熱くなり、
トイレに行って来ると言い訳してその場を離れようとすると
彼女の母親と入れ違いになりオレは顔を隠すように軽く会釈をして出て行った。
病室から彼女のビックリしたような声が聞こえる、
どうやら外泊許可が下りたようだ
どんな顔で喜んでいるのか見たかったが既に逢えるような顔ではなかった。
日記を書くと考えがまとまって、気分がいいらしい
「いつも来てくれてありがとう。もう大丈夫だから」
整理された本棚 悟った様なやさしい笑顔。
彼女は既に知っている、もう時間が無いことを。
最後の外泊許可で帰ってきた日は両家で食事会が開かれた
食事制限が厳しいながらも母親たちが、
がんばって作った料理が食卓に並ぶ
誰かがちょっとでも予感させる事を言えばその場で食卓は凍りつく。
そんな雰囲気で 会話は交わされていた。
普通の話でも大げさに笑いリアクションも大げさだった。
オレも嫌いではない胡麻和えを嫌いと言い、
話を盛り上げようとがんばった
彼女を見ると両親たちに向けてまた無邪気な笑顔で笑っていた
両親たちとオレに向ける笑顔を使い分けて
問題なく食事会は終わり帰ろうとすると彼女に呼び止められお礼を言われた
「付き合ってくれてありがとう。」
意味は分かっている。
7月に余命を宣告されて今は12月
最後の外泊許可を貰った彼女に会いに行く。
病室で見る笑顔より輝いていたのがすぐにわかった
外泊許可を貰っても免疫力の落ちた彼女を人ごみに連れて行く訳にはいけないので
近くの森林公園に行くことが多かった。
森林公園と言っても中にはちょっとした博物館や美術館があるのだ
16歳の普通の女の子なら退屈で悪態をつかれそうだが、
何も知らない彼女はニコニコして楽しそうにしていた 今日の彼女はよく喋った、
幼稚園の頃の話・2人で行った映画の話・体調の安定していた頃の通学中の話
オレは何となく覚えているが彼女は細かく詳細に覚えていて驚かせる。
不意に黙った彼女を見ると、
白すぎる頬を赤らめ目に涙を貯めてオレに感情を爆発させた
「まだ死にたくない」
オレはたまらずゾッとするほど華奢な彼女を抱きしめた
何て言えばいいのか馬鹿なオレには分からずただ抱きしめてキスをした。
「ありがとう」
長期外泊許可が終わった今日、彼女は帰っていく その後、
彼女の体調は緊張の糸が切れたように日に日に状態が悪くなる一方だった。
今彼女の覚醒時間は短い、あらゆる激痛が彼女を襲い
それを和らげる為にモルヒネが使われているのだ。
ちょっとした風邪でも肺炎に進行し後が無い、
感染症・合併症・言葉で表すのは簡単だが現実は想像を絶する。
念入りに消毒して黄昏さえない彼女の無菌室に行く。
彼女の顔は浮腫んでやっと高校生らしい感じになっていた。
荒い息使いで額にうっすら汗が出ていて透明なビニールのカーテンを開けて拭いてあげる。
不意に彼女は目を開け笑顔にならない表情を見せまた眠りについた。
その日の夜、病院から電話があった。
彼女が移された病室には今まで見たことのない親戚と無数の機械、
枕元には彼女の両親が立っていた。
彼女は虚ろな目で来てくれた人にお礼をしていてた。
モニターを見ていた医者に促された彼女の両親は、
オレを枕元に手招きする。彼女の手を握って話す、
痛みは?苦しくない?寒くない?ゆっくり話した。
彼女は後で日記を見てねと言って、日記を出して穏やかな笑顔を見せた。
「私、がんばったよね?」
「ああ」
彼女は早朝に亡くなった。
アルコールのニオイがする彼女の日記には色々な事が書いてあった。
オレが話した学校の話・友達の話・テレビの話どうでもいい話、
その時のオレの表情 まるで、書きもれるのを恐れている様に細かく書いてあった。
2ページ程の空白あと、彼女の感情がぶつけられていた。
文字にならない文字で吐血の事・胸の痛みの事、
既に文字ではなかったが彼女の気持ちが分かる。
夜中の病室で1人、孤独と不安と戦っていたんだろう。
その後何事も無かったように最後の外泊許可の日々まで書かれていた。
そして最後のページには1文だけ書かれて終わっていた。
「今日キスをした、もう怖くない・・・愛してます」
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