使ってるコインロッカーは、大体いつも同じところなんだろうか。
いっくんは、ナンバーを探すことなく、すぐに見つけた。
2124。
ということは、渋谷駅には2124個以上のコインロッカーがあるということ?
数えようと思ったことはない。
これからも、数えることはないだろう。
「ここ?」
「うん」
鍵を差し込む。
当たり前だけど、簡単に開いた。
どうでもいいけれど、コインロッカーのコインが気になった。
「スーパーのとかは、使ってもお金、返してくれるじゃん?」
「あー。そうだね」
「でも、此処のは、そうじゃないよね」
「お金を呑み込んだままだ」
ぼくのどうでもいいじゃ話に、いっくんは付き合ってくれる。
「吐き出させる?」
「そういう意味じゃない」
慌てる。
いっくんなら、やりかねない。
しかも、それは犯罪だ。
「ただ、此処のコインロッカーは、優しくない」
「しょうがないんじゃない?それで生活してるんだ」
「生活?」
コインロッカーが?
「うん。お金、稼いでんの」
コインロッカーの一つ一つが。
丁度良く、手が届きやすいところにいるヒトの方が、いっぱい使ってもらえて稼げるのかな。
一日どころか、一週間も使ってもらえないヒトもいるのかな。
商売あがったり、かな。
生活、大変だろうな。
そんなことを考えたら、ぼくはつい、外れを使ってしまいたくなった。
自分で使ったこと、そんなにたくさんはないけれど。
「スーパーのは、其処で買い物してくれた人の荷物だから」
と、いっくん。
「ロッカーくらい、サービスで使ってもらって構わないってことじゃないの」
現実は、そうなんだろう。
でも、ロッカー目線で考えた話、ぼくは嫌いじゃない。
「駅のだって、鉄道を利用してくれた人じゃないの?」
基本的に、そうだと思う。
わざわざ駅に用事がないのに、コインロッカーだけ使いに来る人なんているだろうか?
「・・・・・・いる、けど」
それが、ぼくたちだ。
「一応、電車乗ってないわけじゃないし」
遠方からの、遠方への旅客じゃないけど。
そんな大したもの、預けてないけど。
「中、何?」
いっくんが取り出したのは、『Altena』の袋に入った何かだった。
「中華鍋」
と、いっくんは笑いもせずに答える。
「中華鍋?」
そんなもの、いっくんはどうするのだろう?
本格中華に目覚めたの?
将来の夢は、中華な料理人?
そういえば、作ってくれたのは、美味しい炒飯だった・・・・・・。
「嘘」
「嘘なんだ」
ちょっとしたボケだろう。
立花兄弟は、時々思いついたように漫才に走る。
役も、何となく決まってて。
ツッコミ担当が、まぁくんと奏多だったりする。
あとは、全員がボケ。
ツッコミの二人は、相当疲れるらしい。
特に、最大の不思議ミステリィのゆきちゃん。
彼が何を突っ込んでほしいのか、分からない。
というか、ボケてんのか地なのか、それさえもう。
「伝説の剣」
「コインロッカーから、手に入れるの?」
凄い緩い感じだ。
きっと、ラスボスは右利きの人が無理くり左手で書いたような線の、鳥だろう。
画伯が描いたという、鳥だろう。
フォルムからして、ダチョウか何かかと思いきや、実は鳩だったりするアレだ。
「冗談」
「冗談なんだ」
そう思った。
てか、本気だったらどうしたらいいのか。
いっくんは、その伝説の剣で一体誰を倒すの?
事務所の社長?
それとも、心花に群がった汚くて悪い大人たち全員?
この世界を狂わせるもの?
「人体」
「えっ・・・・・・」
それは、一番困る。
事件だ。
死体遺棄事件。
奏多が殺したの?
「樂夜」
「入れない」
がっくんは、縦に大きいから。
兄弟で一番、長身だった筈。
「折り畳んで」
「折り畳んだ時点で、もう息がないよね?」
人体は、折り畳み傘とは違うのだ。
そんな方向に、関節は曲がらない。
「小分けにして」
「え・・・・・・血みどろ?」
そういう話は得意じゃない。
早めに切り上げる。
「奏多に頼んでたものって、ぼくの服でしょ」
あっさりネタバレ。
もうちょっと引っ張ってほしかった?
ごめんね、限界。
スプラッターは怖いし気持ち悪くなるから、駄目なんだ。
流血が苦手なの。
「マルコのトイレで、ちょっと着替えてくる」
流石に、此処では拙い。
だって、誰かに下に着てるセクニャン衣装が見られちゃう。
それは、非常に恥ずかしい。
「行ってくる」
「うん。行ってらっしゃい」
いっくんと一旦別れ、ぼくはマルコのトイレに駆け込む。
用を足したいわけではないが、行ける時に行っておく。
これでも、その辺でするわけにはいかないので仕方がない。
いっくんの紫パーカーを脱ぐ。
次にセクニャン衣装だ。
一緒にして、『Altena』の袋に入れる。
代わりに、中から着替えの服を出す。
まだ、確認してなかった。
奏多が何処からか調達してきたみたいだけど。
まさか、今日買ってきた?
『Altena』は十代半ばまで女子向けのブランドだ。
普段の奏多が、行くとは思えない。
いや、奏多は可愛いから、普通にしてれば女の子に見える。
何食わぬ顔で、これを買ってきたんだろう。
ぼくの好みを知っているんだろうか。
何気にリサーチ済みだったんだろうか。
ぼくの好みど真ん中なワンピースが一着、それとトップスとボトムスが二着ずつ、靴が一足、下着類が三枚、入っていた。
それと、日常生活を送るにあたって必要なもの。
髪を結ぶゴムとか、髪を梳かすブラシとか。
「・・・・・・」
気が利く、とは思う。
いっくんでは、多分用意が出来な方だろう。
彼が女の子の下着とか、買えるわけがない。
奏多なら、女の子のふりが出来る。
たとえ女の子に見えなくても、何食わぬ顔でいるだろう。
服とかを女の子に贈る意味とか分かってて、くれるんだろう。
此処だけの話、ぼくはセクニャン衣装の下は何も着てなかった。
だって、いきなり拉致だから、そんなの換えがあるわけがない。
だからって、同じのを繰り返し穿けるわけがない。
着てたものは、洗濯中だ。
下着までもらえたのは、本当に助かる。
でも反面、ぼくは、奏多のそういうところが怖い。
気が付き過ぎなのだ。
そういう小学生の男子って、どうなんだ?
「!」
個室の外で、人の声がする。
声と話し方からして、女子高生か。
数人、入って来た。
メイクでも直しに来たんだろう。
彼女たちは、本当に連れションが好きだ。
絶対にひとりじゃ、入ってこない。
だから、一気に賑やかになる。
これ以上、ゆっくりもしていられないか。
黒いリボンにピンクのトップスと、黒いミニスカートを選び、ちゃんと下着もつけて、ぼくはトイレの個室を出た。
敢えて明記しなかったが、当然水は流してある。
新しい靴は、ちょっと厚底だ。
今までより、目線が高い。
とはいっても、元が元だから悲しいものがある。
女子高生三人組と、目が合った。
瞬時に品定めされる。
ぼく、女子のこういうところ、嫌い。
すぐに順位を決めたがる。
自分とどちらが上か。
どっちでもいい。
ああ、きみの方が男子にはモテるよ。
その身軽なお尻を振ってれば、ホイホイついてくるだろうから。
なんて思うぼくも、相当性格に難がある。
何度も言うが、ぼくは好きでもない人に好かれたってめんどくさい。
ぼくが好きな人に好きになってほしいだけなのだ。
じゃないと、意味がないもの。
手を洗いながら、今の自分の姿を確認。
ちょっと、髪が乱れてる。
折角だから、ブラシで梳かそう。
パウダールームの方へ移動する。
別の女子高生たちがいた。
やっぱり、目が合う。
気にすることなく彼女たちは話し続ける。
『ガリューク』の話をしている。
やっぱり、彼女たちくらいの女子は、『ガリューク』が好きなのだ。
ぼくは、いっくんに似てるという理由で、アカリがちょっと気になってる。
でも、本物のいっくんの方が、ずっといい。
だって、アカリは凄くかっこいいけど。
ぼくの頭を、ぽんぽんしてくれない。
ぼくが泣いちゃっても、心配してくれない。
ずっと遠くの人だもの。
ぼくは、一番近くにいてくれる人がいいもの。
トイレを出る。
いっくんが、待っていた。
「あ。ごめん」
時間がかかり過ぎただろうか。
いっくんを待たせてたのに、のんびりしてたかも。
「いや、そういうことじゃない」
と、いっくん。
「俺だって、トイレくらいは行くし」
人間だから。
猫型ロボットじゃないから、食べればちゃんと排泄がある。
「だから、ちっとも待ってない」
ちょっと向きになって言うところが、・・・・・・いっくんは可愛いのだ。
「ホント、待ってないから!」
「うん。分かった」
そういうのだから、そう言うことにしておこう。
こんなことで揉めるつもりはない。
「・・・・・・」
ふと、いっくんの視線に気づく。
ぼくを、上から下までじーっと見てる。
「は、恥ずかしいんから、あんまし・・・・・・見るとかしないで」
声が震える。
「あ。・・・・・・ごめん」
謝りながらも、まだ見てる。
多分、半分はぼくの言ってること、耳に入ってない。
「奏多の用意した服・・・・・・」
「うん」
サイズは、ぴったりだ。
採寸された覚えはないが、多分いつだったか触られた時に感覚で把握されたんだろう。
てか、一番小さいのを買えば問題ない。
ぼくは、まるでお人形みたいに、小さく出来てるから。
「似合うと思う」
「!」
其処に触れられるとは、思ってなかった。
何か、言ってくれるとか。
普通に流されると思ってたのに。
「可愛いし・・・・・・」
言いながら、もう頬が赤い。
いっくんって、本当に照屋さんだなぁ。
女の子を褒めるとか、そういうスキルはなかった筈だけど。
奏多から特訓でもされたかな?
「うん・・・・・・可愛い」
「・・・・・・」
繰り返されるとか。
ぼくまで、恥ずかしい。
可愛いと言ってる、いっくんにキュンキュンする。
「スカートが短すぎるけど」
「うん」
それは、ぼくも思ってた。
そういうデザインだ。
つんつるてんじゃない。
「うーん・・・・・・セコムに入りたい」
だけど、それは実際不可能だ。
「でも、奏多に選んでもらって良かった」
奏多の女子力、半端ない。
「俺だと、ジャージとかになるし」
「うん・・・・・・」
