【後半】

 

残すは契約日を決めるだけだと思っていたところに

突然のお断りの連絡を受けて、小一時間後、

 

 

泣き崩れる僕に、出先から慌てて戻ってきてくれた上司が掛けてくれた

「カナタ、今からF様のところに行こう!」

という言葉。

 

 

率直にうれしかったのを覚えています。

と、同時に今から行ってももう、無駄なんじゃないか。

期待とあきらめ、半分半分。

 

そんな気持ちだったと思います。

 

 

 

突然の訪問だったため、F様宅に着くと奥様は驚いた様子でしたが、


「まあ!どうぞ、とりあえず上がって。」

と、応接間に通していただき、

お話をきかせてもらえました。

 

 

なんでも、息子様が務めている会社が

とあるハウスメーカーと関係が深く、

上司から圧力がかかっていたということでした。

 

 

F様としても迷いに迷った決断だったとの事。。

 

後追いで参戦してきたそのライバル会社は

僕達が長時間かけて作り上げてきた来た

間取りをほぼトレース

しかも、価格が安い。

 

そんな状況の中、

息子様の勤務先の上司からも圧力がかかる。

それが、最終的に僕に断りの連絡を入れるに至った主な理由でした。

 

 

そして、話しの終盤こんなやり取りが。

店長

「そうですか。。。ところで、いつが契約日なんですか?」

奥様

「急なんだけど、大安ということもあって、明日の夜なのよ。」

 

それを聞いた店長はカバンの中から暦表を取り出しその日を確認し、

 

店長

「おや?その日は大安ではありますが、不成就日でもありますね。。」

※大安:すべてにおいてよい日

※不成就日:何事もマイナスに働き物事が成就しない日

「大事な契約日が不成就日とはいただけないですね。。」

「せめて、日程の変更だけでも、されてはいかがですか?」

 


カナタ心の声

「ご家族にとっての一大イベントの住まいづくりのスタートだし、

最善を尽くしてほしい。どうせなら、満足いく家づくりをしてほしい。」

 


奥様

「え?そうなの?いい日だとばかり思ってたわ。。」

 


しかも、その日はすでに翌日に迫っていました。

 

僕は意を決して言いました。


「ここまで、F様たちと打ち合わせを重ねて来た僕としても

絶対に満足のいく家づくりにしてほしいですし、後で後悔しないためにも

日取りにもこだわってほしいです。」


店長

「実は彼、さっきまで泣いてたんですよ。。彼のためにも

妥協のない住まいづくりにしてください。」


カナタ心の声

「(えっ!?店長。泣いてたって言っちゃう?ハズイじゃん。)」

 

奥様

「日程の変更くらいなら、してもらえるわよね?」


店長

「それくらいはできると思いますよ。それに、それすら聞き入れてもらえなかったら

今後の住まいづくに施主の意向が聞き入れてもらえるかどうか不安ですしね。」


奥様

「そうよね。とりあえず、契約日を少し延期してもらえるように言ってみるわね。」

 


こうして、その日僕たちはF様宅を後にしました。

 



帰りの車中、店長はこう言ってくれました。


「カナタ、可能性が出てきたな。」ニヤッ


「契約日を覆す事は住宅会社は避けたいだろうから

もしかしたら、強引に明日契約を迫ってくるかもしれないぞ。」

「相手がそんな、自社都合ばかり考えるような会社なら、

うちにまだ十分チャンスはあるな。」

 



あきらめるのはまだ早いんだ!


そう感じ、希望が持てたのを覚えています。

(今思うと、あきらめない気持ちの大切さはこういう経験からも

育まれていたんだろうなと感じます。)

 

 その日の晩、

担当営業としての思いをありったけ

詰め込んだ手紙を

こっそりF様宅に届けに行きました。




そして、契約日に指定されていた日の翌日、

どんな結果であろうとも受け入れる覚悟で

午前中のうちに僕はF様宅を訪ねました。


 

精神的にも疲れているだろうと、

柑橘系のゼリーをコンビニで買って行ったことも今思い出しました。

コンビニのゼリーって、、、でも、これもいい思い出です。

 


ご自宅には奥様がいらっしゃいました。


奥様

「わあ、ありがとう。気を使ってくれて。」

思いのほか、ゼリーを喜んでくれました。

 

カナタ

「すみません。こんなものしか思いつかなくて。。」

 

奥様

「それでね、実は契約の件なんだけど、日程の延期は受け入れてもらえなかったの。」


カナタ

「えぇっ!そうなんですか?」

「じゃあ、もう。。」


奥様

「ううん。日程の変更をしてもらえなかったから、苦肉の策でその日の夜は

急用ができたと伝えて、居留守をしたの。。」


カナタ心の声

「(そこまでしてくれてたんだ。。)」


奥様

「そしたらね、何度も何度も携帯に電話がかかってくるし、

インターフォンも何度も押されるし、借金の取り立てみたいで、

途中からその会社のこと、怖くなっちゃった。」

 

カナタ

「それは大変でしたね。今日はゆっくり休んでください。」

息子様の職場のことも気になり、聞いてみました。

「息子さんは大丈夫なんですか?」


奥様

「うん。息子も自分のことは気にしなくていいから、建てたいところで

建ててと言ってくれているの。。」

「じつはね。家族全員カナタ君の会社に本心ではお願いしたいの。」

とおっしゃってくださいました。

 


 

そして、今回のことがきっかけとなり、

大どんでん返しの契約となりました。

 


契約当日は

おじいいちゃん、おばあちゃん、ご主人、奥様、息子様に囲まれる中で

約定を1文字ずつ読み上げて交わさせてもらいました。



約定をすべて読み上げ終わった直後、

おじいちゃんがにっこり笑って、

「お疲れさま。」

と言ってくださったのを

昨日のことのように思い出します。

 



息子様もその後、ブラック気味だった当時の職場を辞め、

ほぼ毎日定時に退社できる会社に転職し、幸せそうにされていました。

 



家を建てるというのは家族にとって

一大イベントであり、ほとんどの方にとって

人生で一番大きな買い物です。



そんな、買い物を決断するのはとても

エネルギーが必要だと思います。


15年間の間に私に家造りのお手伝いを

させていただいた全ての方達に

改めて感謝の気持ちが湧き上がって来ます。


ありがとうございました!


そして、長くなりましたが、

最後まで目を通していただき

ありがとうございました。

2003年の12月の想い出でした。