冬の訪れを告げるような寒さが、頬を撫でる。
ああ、もうそんな時期になってしまったのかと、一人コンビニの袋を持って夜道を歩く男は思う。
男はとくに毎日を必死に生きてきたわけでもないし、無気力なまま毎日をすごしているわけでもない。
ただただ流れる時に身を任せ、1日1日を過ごしているだけだ。
そんな彼を”特別だ”という者はいないだろうし、彼も自分が特別だと思っているわけでもない。
ふと男は、通りかかった公園のブランコが目に留まった。
とくに家に帰ってもすることがないと思った男は、誰もいない、唯一街灯だけが見守る公園のブランコに腰を下ろす。
そこでコンビニで買ったばかりのタバコを取り出し、いつものように口に咥え、火をつけて煙の混じった息を吐いた。
何気なく自分の吐いた煙を見ていたら、その後ろでいくつもの光が瞬いていることに気づいた。
その光は、空に輝く星たちだった。
澄んだ空気ではっきり見える星たちに、今まで意識すらしたことがなかった男は初めて、目を奪われた。
暗く、誰も感想を言わない、見向きもされることが少ない星たちはそれでも、そこで輝き続けていた。
男は自分の吐いた煙が鬱陶しく、いや、申し訳なく思い、つけたばかりのタバコを消した。
この星たちも、1日1日ずっと光り輝いている。
ただ誰からの声も届くことなく、褒める者もいない真っ暗な世界で、ただ輝きを放っているのだ。
男はブランコを揺らし、少し耳障りな鉄の擦れる音を聞きながら独りごちる。
ああ、やっぱり寒いな、と。
それに応えるように肌を突き刺すような風が男の指先の感覚を奪っていった。
コンビニで買った温かい缶コーヒーを取り出し、指先に当てながら、星を見る。
一つ一つ、輝きが違うことに気づく。一定の光り方をしていないことにも気づいた。
特に眩しい星にも目がうつった。恐らく星座と呼ばれるものであろうものも目についた。
少し目を向けただけで気づくことがこんなにもあったことに、今まで意識したこともなかった男は少し肩をすくめた。
そろそろと男は立ち上がり、ぬるくなったコーヒーのフタを開け、飲みながら家に向けて歩を進めた。
幾億もの星たちが瞬く空。
その中の一つの星の輝きは、どこか鈍く、今にも消えそうな光だった。
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