数量詞の音変化について
このブログは私の子供の言語獲得の過程を観察するために立ち上げたのですが、まだ生後1ヶ月も経っておらず、日々更新するほどのネタがないため、音声学や音韻論を始めとする一般的な言語学のネタを適当に投稿しています。数量詞とその難しさ数量詞というのは、ものを数えるときに使う言葉です。紙のように薄いものには「枚」、ペンのような細いものには「本」、割と何にでも使える「個」、などです。我々日本人が日本語を話している分には特に不自由しませんが、外国人からするとこれは覚えにくいでしょうね。名詞を覚えるたびにそれの数え方もセットで覚えないといけない。中国語や韓国語にも数量詞は存在していて、私も覚えるのに苦労したので、その気持ちはよくわかります。ただし、日本語の場合には更に余計なおまけが付いてきます。数詞と数量詞を組み合わせた時の音変化です。つまり、「本」であれば「いっぽん」「にほん」「さんぼん」…と、変幻自在に音が変わっていきます。これは日本語学習者に追い打ちをかけるような現象だと思います。日本人としては意識せず使い分けていますが、なぜこうなるのでしょうか。今回は、この数量詞の音変化についてみていきたいと思います。おそらくこんなベタなネタは研究し尽くされているはずですが、敢えて自身で考察した結果を記録として書いていこうと思います。今回は、以下の2つの現象についてパターンを分けて考えます。 ハ行音で始まる数量詞の音変化 促音化1つ目は、先ほど例で出した「本」などの数量詞についてです。ハ行、バ行、パ行が入り乱れているように見えるので、これを紐解きます。2つ目は、「一回(いっかい)」のように、数量詞の最後の音が促音「っ」に変化する現象について考えます。1. ハ行音で始まる数量詞の音変化ハ行音で始まる数量詞と、その前につく数詞を色々変えて調べました。いきなりですが、結論から。 数 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 百 千 万 億 読み種別 チ 母 ン 訓 母 ク 訓 チ 母 フ ク ン ン ク ①匹、本、杯 p h b h h p h p h p p b b h ②発、版、拍、分 p h p h h p h p h p p p p h まず2行目の「読み種別」について説明します。これは数詞(1~億)の読みの最後の音を表しています。以下、色別に説明します。・黄色(ク、チ、フ) 漢字の音読みがク・キ・ツ・チ・フで終わるものを「入声(にっしょう)」と言います。 入声の漢字は黄色でマーキングしました。 ※「十」は、歴史的仮名遣いでは「ジフ」なので、「フ」としています。 ※韓国語読みが分かる方は、パッチムㄹ, ㄱ, ㅂ が付くと入声の漢字です。・ピンク色(ン) 漢字の音読みがンで終わるものは、ピンク色にしています。・緑色(母音、訓読み) 漢字の音読みが母音で終わるもの、または訓読みで数えるものです。 これについては以下で少し説明します。 (母音で終わる) これはどういうことかというと、昔の中国語読みで音節末子音がない、 つまりCV(子音+母音)の音節であるということなのですが、残念ながら 日本語の音読みだけからこのことを説明するのは難しいです。 ※韓国語読みが分かる方は、パッチムのない漢字がこれに当たります。 (訓読み) これはずばり、4(よん)と7(なな)です。 4個は「シコ」ではなく「ヨンコ」、7個は「シチコ」ではなく「ナナコ」と数えます。 他の数量詞でも同じで、4と7だけは音読みではなく訓読みで数える習わしです。 今は先行する数詞の末尾の音に注目して後続の数量詞の音変化を調べようと しているので、訓読みする数詞については分けて考えます。・h, b, p の表記について ハ行音で始まる色々な数量詞が、先行する数詞によってどのように音変化 するかを示しています。ハ行音のままなら「h」、バ行音に変化する場合は「b」、 パ行音に変化する場合は「p」を記入します。これを踏まえて冒頭の表を見ると、以下のことがわかります。【考察】 黄色の数詞(入声)はパ行音[p]に変化 ピンク色の数詞(「ン」で終わるもの)は、 数量詞グループ①はバ行音[b]に変化 数量詞グループ②はパ行音[p]に変化 その他緑色の数詞(母音、訓読み)はハ行音[h]のまま【不明点】 上記のグループ分けにおいて「億」だけは例外で、クで終わるので 入声なのですが、なぜかハ行音のままです。つまり「3億本」は 「さんおくほん」であって「さんおっぽん」とはなりません。この理由は はっきり分かりません。 数量詞グループ①と②の違いが生まれる理由は何でしょうか? 単なる慣用で片づけてよいのか、それとも音韻論的な理由があるのか …これもちょっと分かりませんでした。2. 促音化前項の表で「p」となっているものは数量詞の最初がパ行音に変化しますが、同時に先行する数詞の最後が促音「っ」に変化しています。例えば「一匹」は「いちひき」→「いっぴき」という具合です。この数詞の促音化は、数量詞がハ行音で始まるものに限らずみられます。色々な数量詞についてパターンを調べていくと、以下の4パターンに分類できることがわかります。以下の表で「+」は促音化が起こることを意味します。ハ行音以外で始まる数量詞を含めても、促音化は入声(黄色)の数詞でしか発生しません。また、「億」に関してはやはり例外的(?)に促音化しません。 数 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 百 千 万 億 読み種別 チ 母 ン 訓 母 ク 訓 チ 母 フ ク ン ン ク ①杯、回 + - - - - + - + - + + - - - ②体、着、章、冊 + - - - - - - + - + - - - - ③枚、面 ④円、番、台、合 - - - - - - - - - - - - - - 【考察】この4グループの違いについては以下のように説明ができると思います。それぞれの数量詞の先頭の子音の調音点に着目すると… ①[h], [k] ② [t], [ch], [sh], [s] ③ [m] ④ [∅](母音), [b], [d], [g]Wikipediaの調音点の分類でいくと①がGuttural(奥の方)、②がCoronal(舌先)、③がLabial(唇)のグループに属していることが分かります。また、④は母音と有声子音で始まるものです。なお、③の [m] はLabialですが、同時に有声音でもあるので、④に含まれると考えても良いと思います。従って、以下の法則が成り立ちます。 数量詞の先頭が母音または有声子音の場合、促音化は起こらない 数量詞の先頭の子音が無声音かつGuttural(奥の方)の場合、 入声(黄色)の数詞で促音化が起こる 数量詞の先頭の子音が無声音かつCoronal(舌先)の場合、 「ク」を除く入声(黄色)の数詞で促音化が起こる以上、長くなりましたが、数量詞の音変化についてでした。(以後、必要に応じて加筆・訂正予定)