「金木犀が香る季節になると君のことを思い出すの。」
The Jack Moves "Make Love"
吉祥寺の鄙びた映画館で3本立ての映画を観た。
客席は銀幕に向かって緩やかな下り坂。
投影機から真っ直ぐ伸びた光の帯は
薄暗い空間を異国の渇いた空気で埋めていた。
映画と映画の間には休み時間が設けられていて
昭和な意匠と忘備のために帳面に録る常連の姿が
ぼんやりとしたやわらかい電灯に照らされていた。
次の映画が始まる合図はベルだったのだろうか。
また空間に闇と静けさが訪れ、
かつては新かった光の礫たちが投じられるのだった。
人生の交差点の中で、人々は何度か交わりまた遠く離れていく。
縁というのは不思議なものだ。
会うはずのない場所で
会うはずのない人と出会う事がある。
全ての人の軌跡を辿れば
見えなかった何かが見えてくるのだろうか。
そこに意味を求めることに意味はあるのか。
宵闇の中、芥川が酔いどれて歩いた道を
ほろ酔いになった2人はぶらりと歩いていた。
もっと知らない路地を往けば良いのに
目抜き通りを選んで他愛もない会話で
ふわふわと続けて宙に浮き上がる時間を満たす。
久しぶりに出会ってもいつも僕らはそんな風だった。
そうして満たされた時間は積み重ねると
晩夏に食べる氷菓のように溶けていき
結局2人の間には何も残りやしないのだ。
金木犀が香る季節になると僕はそんな風に言う君の事を思い出すんだ。