人生は後半からがおもしろい‼

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人生の後半を自分らしく生きる。そして心身ともに健康で、満足いく人生を生きる。そんな自分の軌跡を綴るブログ。Since 9,January 2009

~第10話~ 二人だけの外出

 

長い黒髪のレイを首からかけてもらい、親子揃っての超ロングヘアーの長さを測った体験は、坂本にとって生涯忘れられないものとなった。

坂本 「今日は素晴らしい一日でした。本当にありがとうございます」

母親 「いいえ、こちらこそです。結のために、これほど熱心にご指導頂いてますから、少しでも坂本先生に喜んでもらえたならば何よりです」

これ以上ない時間を過ごした坂本は、帰り支度を始めると、母親が何か話したいような素振りを見せた。

 

それを察して、坂本が母親の方に目を向けると、

母親 「坂本先生、実はお願いがありまして」

坂本 「どのような事でしょうか?」

母親 「結を外に連れ出してやって欲しいのです」

坂本 「連れ出す?」

 



母親 「ええ。このような母子家庭ですので、平日は仕事ですし、土日は家事に追われてしまって・・・。そんな生活ですから、結と出かけることができなくて。

 

家族で旅行や食事にも連れて行ってやれませんし、結は友達もいないので、同級生と遊んだりもできません」

坂本 「そうですよね。分かりました。それなら私が結さんを外に連れ出しますよ」

横で聞いてきた結は、飛び上がるほど嬉しかった。

結 「先生、本当に?」

坂本 「ああ、本当だよ。平日のほうが混雑しないから良いだろう。明後日の月曜日はどうかな?」

結 「先生、授業はどうするの?」

坂本 「そうだなあ、月曜日は課外授業にしよう」

結 「やった〜!」

坂本 「お母さん、これでよろしいですか?」

母親 「先生、ありがとうございます。どうか宜しくお願い致します」

結がニコニコしながら言った。

 



結 「先生、私ね、ショッピングモールに行ってみたいの。美味しいものを食べたり、好きなお洋服を見たり、色んなお店があって楽しめそうだから」

坂本 「よし、わかった。じゃあ、月曜日の朝10時に迎えに来るからね」

結 「はーい、先生、楽しみにしています!」


そして約束の当日になった。月曜日の朝、いつものように坂本が結の自宅を訪れた。

 

いつものようにチャイムを押すと、待っていたかのようにドアが開いた。

結 「坂本先生、おはようございます!」

 



ピンクのスカートにピンクのリュック。満面の笑顔で立っている結がいた。と同時に、その姿を見て固まってしまった。

 

何と言うことだ。驚きを通り越して、すぐには言葉が出て来ない。ようやく、振り絞って結に言った。

坂本 「ど、ど、どうしたんだ結! それは・・・」

結は自分の髪を手で軽く触りながら言った。

結 「お出かけするのに、長い髪だと大変だから」

 



何事もなかったかのような口調でサラッと答えた。しかし、坂本は合点がいかない。

 

先日、1メートル96センチの艶やかな黒髪を存分に味わった坂本にとって、目の前にいる結は、バッサリと髪を切ってしまっている。その短くなった髪の先が、胸の上あたりまでしかない。

坂本 「結・・・どうして突然そんなことができるんだ? 約束違反じゃないのか?」

目が充血して、少しばかり強い口調になった。その表情を見て、瞬時にこれは坂本の誤解だと悟った結は、ちゃんと説明しなければと思った。

結 「先生、それは勘違いです! 私、髪を切ったんじゃないの。これは母が使っていたウィッグなんです」

坂本 「えっ、ウィッグ?」

結 「そう。だから私の長い髪は、このウィッグの中にちゃんとありますから」

それを聞いて、坂本は全身の力が抜けるような感覚になった。そして近所に聞こえるほどの大声で叫んだことが急に恥ずかしく思えてきた。

坂本 「何だ、そうだったのか。まさか・・・と思ったよ。そんなにバッサリ切るなんて、どうしたんだろうと」

結 「驚かせてごめんなさい。だって先生、考えてみてよ。1メートル96センチですよ。お出かけするからって、バッサリ切れるわけないでしょ!」

坂本 「まあ、そうだけど。でも、結ならやりかねないからね」

結 「しません!」

顔をクシャクシャにして結が言った。安堵の表情に戻った坂本は、気を取り直して結と出かけた。

坂本 「それじゃあ、ショッピングモールに向けて出発するぞ」

結 「先生、宜しくお願いします」

滋賀で生まれ育ったにも関わらず、ほとんど自宅と学校の往復で過ごしてきた結。だから、見る景色も新鮮そのものであった。

 

坂本と楽しくお喋りしながらのドライブは、今までに経験したことがないくらい楽しかった。

しばらく走って、ショッピングモールの駐車場に着いた。車を停めて、二人は店内に入って行った。

坂本 「さあ着いたぞ。結、どこから見て回ろうか」

店内に入るや否や、結はウィッグを取った。そしてまとめていた長い黒髪を解いたのである。

結 「先生、やっぱりウィッグをしていると、何だか変な感覚になるの。それに暑苦しいから」

坂本 「おいおい、それで歩き回るのはちょっと・・・」

結 「ダメ?」

坂本 「しょうがないなあ。それならオレと並んで歩くようにしなさい」

結 「えっ、並んで歩く?」

坂本 「そう、並んで歩くこと。勝手にあちらこちらに行かないように」

結 「どうして?」

坂本 「こうするからだよ!」

結が髪を解いたので、その長い髪が足元まで流れ落ちて床に広がっていた。

 

坂本はその髪をしゃがんで両手で持ち上げ、胸元でしっかりと握りしめた。

結 「えーっ、先生が私の髪を持って歩いてくれるの?」

その光景を想像した結が大笑いした。

坂本 「だから店内を一緒に歩くこと。分かったね」

結 「はい、分かりました」

坂本 「まずはどこから見て行こうかな?」

結 「コーヒーショップに行きたい!」

坂本 「そうか。じゃあ、まずはそのお店に行ってみるか」

コーヒーの有名チェーン店に入った結が、真っ先に注文したのが和三蜜 アーモンドミルク フラペチーノだった。

 



結 「先生、これ飲んでみたかったの!」

それを手にした結は満面の笑みで席に着いた。坂本は普通にアイスコーヒーを注文した。

結 「先生はアイスコーヒーなの? もっと違ったものを注文すると思ったのに。何だか地味」

 



そう言って笑う結がとても可愛く思えた。

坂本 「コーヒーと本が大好きな人間だからね。これでも自分にとっては御馳走なんだよ」

結は坂本と色んな話をした。やはり話題の中心は、二人が出会ったあの日の出来事。あの出来事がなければ、こうして結は坂本と今一緒にいることはなかっただろう。

 

そして坂本も、バケツの水を頭から結にかける行動をしていなかったら、結が心を開くこともなかったと思える。二人にとって、あの出来事は運命を変える意味あるものだったのである。

 



コーヒーショップで楽しくお喋りをした二人。お気に入りのフラペチーノを飲み終わった結は、次のお目当てのお店に行こうとした。

坂本 「そろそろ次に行こうか」

 



結 「先生、お洋服を見たい!」

坂本 「OK、じゃあ、行こうか」

 



二人はコーヒーショップを出て、結のお目当てのお店に向かった。坂本は結の長い黒髪を両手に持ちながら歩いて行く。

 

この柔らかい感触をずっと味わえるなんて、我ながら幸せ者だなあと思いながら歩いた。すると、突然に結が

結 「先生、トイレに行ってきます」

 


さすがに坂本も女子トイレまで結の長い髪を持ったまま入って行くことはできない。

 

そう言われて、結の長い髪を解放した。すると結はそのまま歩き出し、お目当てのお店に直行したのである。

 

 

コーヒーショップでも、床に広がる結の長い髪を驚くような表情で見る客はいた。

 

そして結が長い黒髪を引きずりながら歩きだすと、周りの客たちの視線を一斉に浴びることになった。

 



レディースファッションの専門店に入った結は、さっそく欲しかったスカートを見て回った。

 

言うまでもなく、店員たちは結のあまりにも長すぎる黒髪に釘付けになった。後から入って来た坂本も、その視線を同時に受けることになった。

 



結 「先生、このスカートどうかなぁ? とっても可愛い感じなんだけど」

坂本 「そうかなぁ・・・。ファッションのセンスが無いのでねぇ」

 



そう聞かれても困ってしまうのだが・・・。やはり先程から店員の視線が気になっていた。

 

結がスカートを選んで、履いているスカートの上からサイズを合わせてみた。その様子を見て、店員が結に声をかけた。

 

  

店員 「とっても可愛くて似合いそうですよ。試着なさいますか?」

結 「はい!」

 


そう言われて、選んだ真っ赤なスカートを手に持って試着室に入った。そして試着したスカートを坂本に見てもらった。

結 「似合ってるかなぁ」

 



坂本 「ああ、とっても可愛いよ」

結 「本当? 嬉しい!」

 



結のとても嬉しそうな様子を見て、坂本は店員に言った。

坂本 「そしたら、これを」

店員 「ありがとうございます!」

結 「えーっ、本当にいいの?」

 



坂本 「勉強を頑張ったご褒美!」

 



とても嬉しそうな表情をしながら、足早に試着室に着替えに行った。

店員 「娘さんにおねだりされると、お父様も大変ですね」

坂本に向かって、ニコニコしながら店員は言った。さらに

店員 「娘さんの髪、長いですね! あんなに長い髪の女の子を見たのは初めてですよ。何年くらい伸ばしているのですか?」

坂本 「今13歳なんですけど、生まれてからずっと伸ばしていますよ」

店員 「うわー、それは凄い! それにとても綺麗な髪なのでびっくりしましたよ。やはりお父様の好みなんですか?」

坂本は照れながら言った。

坂本 「まあ、そうですね」

試着室から戻って来た結が店員に真っ赤なスカートを手渡すと、店員は丁寧に包装してくれた。そして結に言った。

店員 「とても長くて綺麗な髪ですね。お父様のお気に入りみたいだから、これからも大切に手入れしてね」

それを聞いた結は、「はい」と明るく返事をした。このやり取りが相当可笑しかったらしく、勘違いされて当惑している坂本を見て笑いを堪えていた。

結 「先生、本当にありがとうございます。こんなスカートが欲しかったの。

 

だから試着するだけでも満足だったのに。まさか先生が買ってくれるなんて思わなかった」

坂本 「試着した結がとても嬉しそうだったからね。それに、オレは結のお父さんだから」

店員に誤解された坂本の自虐的な言葉だったが、坂本自身も嬉しそうだったし、結もその言葉を聞いて再び笑いがこみ上げてきた。

結 「私たち、父親と娘に見えるのかなぁ?」

坂本 「う~ん、どうなんだろう。オレが35歳で結が13歳か。22歳の時に娘が生まれたことになるんだなあ。別に不自然でもないか」

そう言いながら、納得した。そしてもし自分が結婚して娘が生まれたら、結のように髪を長く伸ばしてもらうだろうなと想像を巡らせた。

 

結も店員の言葉が心地よく響いた。父親を知らずに育ったので、坂本が父親のような存在でも悪くないなあ、と。

楽しく過ごした二人は、車に乗り込み、ショッピングモールを後にした。知らない間に時間が過ぎ、もう既に昼下がりになっていた。

 

結の希望で、昼食はコンビニで調達して、自然が豊かな広い公園で食べることにした。

結 「先生の車、大きいですね」

坂本 「車は趣味でもあるからね。好きな車でドライブするのが楽しいんだよ」

助手席に乗った結は、ちょっと窮屈そうに体を左右に動かす。それを見た坂本が言った。

 



坂本 「結、どうしたの?」

結 「長い髪がシートベルトで締め付けられるような感じなの」

坂本 「そうか、長いからなあ、結の髪は。それなら後ろの座席に座ってもらおうかなあ」

結が助手席から後部座席に移動するまでの間、一旦車を停めた。

 



結 「うわ~広い! これならゆったり座れます。長い髪も、シートに広げられて快適!」

坂本 「いい感じだねえ」

坂本はルームミラーで結の様子を見たが、長い黒髪がシートの大部分を覆いつくしていることに改めて驚いた。

坂本 「結の髪の長さは凄いねぇ!」

 



結 「すいませんね、長すぎて。1メートル96センチもあって」

茶目っ気たっぷりに答えた。車内には、結の長い黒髪の甘い香りが漂っていた。

 

しばらく走ってから、ショッピングモールからほど近い自然公園にたどり着いた。

坂本 「さあ着いたぞ。ちょっと遅い昼食にしようか」

結「はい、お腹空いちゃった」

 



二人は車から降りて、公園のベンチに座った。さっきコンビニで調達した弁当を食べながら、自然の風景を眺めた。食事を終えると、時刻は午後3時を回っていた。

坂本 「さて、そろそろ帰ろうか」

結 「先生、もう一つ行きたいところがあるの」

 



坂本 「ここから遠いのか?」

結 「すぐ近くだと思います。琵琶湖を見たいの。滋賀で生まれ育ったのに、琵琶湖を見る機会がほとんど無かったから」

坂本 「そうだったのか。琵琶湖は日本一大きい湖だ。その琵琶湖がある滋賀で生まれ育ったのに、それを知らないなんてあり得ないからね。よし、それじゃあ、今から琵琶湖を見に行こう」

二人は車に乗り込んで琵琶湖を目指した。湖岸道路をひた走り、湖岸緑地公園のある場所に車を停めた。

 

夏なので、まだ日差しは高い。歩いて砂浜に出た。歩く度にギュッギュッと音がする。太陽に照らされて、その砂も暑かった。

 



砂浜に座ると、お尻が熱くなってきた。坂本が、砂浜に広がった結の黒髪を素早く両手で持ち上げた。

坂本 「砂の上に置くと、結の綺麗な髪がダメージを受けるぞ」

結 「あっ、いけない。先生、ありがとうございます」

結は笑いながら坂本を見た。

坂本 「何か言いたそうだなあ」

結 「先生は私より、私の長い髪に親切だなあと思って」

坂本 「結も結の長い髪も一体だからね。結が傷つくと悲しいし、結の髪が傷ついても悲しいから」

結 「優しいなあ、先生は」

二人でしばらく琵琶湖の景色を眺めていた。400万年前に誕生した琵琶湖。滋賀県の総面積の6分の1を占める。

 

およそ450本の河川が琵琶湖に流れ込んでいるが、流れ出る河川は瀬田川1本のみ。近畿圏1450万人の生活を支えている。

 

湖面は静かで、波もほとんど立たない。勇壮な太平洋と比較すると、とても穏やかであり、海と湖は、太陽と月の対比でも表現できそうである。

 

  

結は湖岸を歩いてみた。湖面を滑りながら吹く穏やかな風が、シルクのように艶やかな結の長い黒髪を持ち上げようとする。

 

ただ、あまりにも長いので、風には靡かず、湖岸の砂を撫でるように引きずりながら歩く。

結 「先生、琵琶湖って大きいですね~」



坂本 「そうだろう。何と言っても日本一だからね。結も日本一になってみるか!」

結 「ええっ、日本一? 私、そんな才能ありませんけど」

坂本 「いやいや、あるよ」

結 「本当に? どんな才能?」

 



坂本は結の後ろから近寄り、両手で長い黒髪を持った。

坂本 「これだよ! 結の長い黒髪は本当に美しい。そしてこんなに長い! 

 

この超ロングヘアーで日本一になるんだよ。このまま切らずに伸ばし続ければ、いつか必ず日本一髪が長い女性になるから」



結 「そうか。そうですよね。私、頑張ってみる! この髪で日本一か・・・」

結は心に決めていた。一生涯、髪を切らずに伸ばし続けようと。それを一日、一年、十年、二十年・・・と続けて行けば、いつかは驚くような長さになるだろう。

 

日本一になれるかどうかは結果だけど、髪を伸ばし続けるという信念は変わることはない。

坂本 「そうなって欲しいなあ。結には日本一の髪長美女 (かみながびじょ) になってもらいたい! そう思っているよ。ねっ、髪長結ちゃん!」

 



結 「分かった。親子で頑張ってみます!」

坂本 「結のこの長い黒髪がお互いを結び付けてくれたんだよ。文字通り縁結びだよ。

 

そして女の子の名前も結だからね。だから、いつまでも大切にして欲しいなと思ってるんだ」

 


結 「そうですよね。やはりあの日の出来事から始まったんですよね」

二人は夕暮れが近づいた琵琶湖を眺めながら語り合った。しばらくの沈黙が続いた後、ポツッと結が言った。

 


結 「学校に行きたいなぁ・・・」

ほとんど聞き取れないような小さな声だったが、坂本の耳にはハッキリと届いた。

坂本 「結、二人で個人授業をしているけど、やはり同級生の友達は必要だよね。いつもいつも、こんなおじさんと一緒じゃあ楽しくないもんなあ」

結は慌ててしまった。ほとんど無意識のようにつぶやいたのであったが、坂本の耳に入ってしまったのだ。

結 「あっ、先生、違うんです。今の個人授業は楽しいですよ。こうして色んな話も聞けるし、すごく為になるから」

坂本は結の長い黒髪を優しく撫でながら言った。

坂本 「結、オレは分かってるから。でも、無理をすることはない。

 

学校に行きたいと思う気持ちは自然なことだ。そして結が学校に行けるようになれば、オレだって嬉しいよ」

結 「本当に? でも、難しいなあ。こんなに長い髪をしていると、集団生活もできそうにないし、またいじめに遭うのも嫌だし。

 

そうだ! 先生が学校を作ってくれたらいいんだ。私でも安心して通える学校を作って欲しいなあ」

坂本 「そうだなあ。何百億円も資産がある大金持ちだったら、迷わずに作ってあげるけどね」

 



そう言い終わると、二人は顔を見合わせて笑った。程なく、比叡山に夕日が沈み、辺りが少しずつ更けて行くのであった。

 

 

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感謝 by Ryuta