海の底には、失われた世界が眠っている。
地上で繁栄した偉大なる国も、
自然災害で沈んだ大陸も、
過去の歴史を伝える、海の資料館に保存されている。
海の資料館には、受付がないから、いつでも出入り自由。
魚が、ゆったりと泳ぎ、
海の植物は、デザインの担当。
決まりごとは特別ないから、好きなように生えるといいよ。
時々、地上から、人魚の足をつけたお客さんが取材にくる。
過去の探索ってやつさ。
今更、それを知ったところで、何の意味があるのか、
理解できないけど。
自分たちのご先祖様が残した偉大さを、伝えたいらしい。
まぁ、勝手にするがいいさ。
ところで、知っているかい?
海で、定期的に行われるコンサートのことを。
司会は、我らが海の神様。 ポセイドン。
1年に4回。
海の住人が勢ぞろいして、鎮魂歌を歌う。
神殿は、音楽堂となり、
取り残されたバイオリンやピアノは、本領発揮だ。
魚たちは、体を揺らしながら歌い、
植物たちは、漂いながら、コーラスをつける。
銅像は、久しぶりに目を覚まし、大きな声で歌っている。
その日だけは、協力協定を結び、争い事はご法度だ。
海に眠る魂は、多くの悲しみを抱えている。
「 会いたいよ。 会いたいよ 。 」 と、繰り返し、
戻らない時間を、懐かしい思い出に変えていく。
ラスト、クライマックス。
明かりが一斉にともり、浄化された魂は浮上し、
穏やかな世界へと旅立つ。
ポセイドンは、祈る。 すべての生き物の、幸せを祈る。
終わりの鐘が鳴り響く頃、海は元の姿へ。
みなさん、又、お会いしましょう。
その日まで、さようなら。
★ 波音に耳を澄まして。
鎮魂歌が聞こえるかもしれない。