☆  鎮魂歌  ☆

 

 

            海の底には、失われた世界が眠っている。

            地上で繁栄した偉大なる国も、

            自然災害で沈んだ大陸も、

            過去の歴史を伝える、海の資料館に保存されている。

 

            

            海の資料館には、受付がないから、いつでも出入り自由。

            魚が、ゆったりと泳ぎ、

            海の植物は、デザインの担当。

            決まりごとは特別ないから、好きなように生えるといいよ。

 

            

            時々、地上から、人魚の足をつけたお客さんが取材にくる。

            過去の探索ってやつさ。

            今更、それを知ったところで、何の意味があるのか、

            理解できないけど。

            自分たちのご先祖様が残した偉大さを、伝えたいらしい。

            まぁ、勝手にするがいいさ。

 

 

            ところで、知っているかい?

            海で、定期的に行われるコンサートのことを。

 

            

            司会は、我らが海の神様。 ポセイドン。

 

 

            1年に4回。 

            海の住人が勢ぞろいして、鎮魂歌を歌う。

            神殿は、音楽堂となり、

            取り残されたバイオリンやピアノは、本領発揮だ。

            魚たちは、体を揺らしながら歌い、

            植物たちは、漂いながら、コーラスをつける。

            銅像は、久しぶりに目を覚まし、大きな声で歌っている。

 

            その日だけは、協力協定を結び、争い事はご法度だ。

 

 

            海に眠る魂は、多くの悲しみを抱えている。

            「 会いたいよ。 会いたいよ 。 」 と、繰り返し、

            戻らない時間を、懐かしい思い出に変えていく。

            

 

            ラスト、クライマックス。

            明かりが一斉にともり、浄化された魂は浮上し、

            穏やかな世界へと旅立つ。

 

            ポセイドンは、祈る。 すべての生き物の、幸せを祈る。

 

            

            終わりの鐘が鳴り響く頃、海は元の姿へ。

 

            

            みなさん、又、お会いしましょう。

            その日まで、さようなら。

 

 

 

 

★ 波音に耳を澄まして。

鎮魂歌が聞こえるかもしれない