☆   それぞれのものがたり   ☆

 

        人間は、転生をしながら、魂の成長を目指します。

        転生の数は、人それぞれ。

        多いとか少ないとか、そんなことは関係なく、必要な数だけ。

        一瞬ごとに変わっていく時の流れの中で、刻まれた尊い記憶は、

        人生の宝物。人と比べることなく、誇りを持って生きていきましょう。

 

         ところで、この少女。私に、話しかけてきました。

        どうしても、伝えたいことがあって … …。 

        じっと見つめる真剣な眼差しに、引き込まれてしまいました。

        今日は、少女の過去世を書いてみようと思います。

 

 

        私は、7歳。生まれつき病弱で、外に出たことはありません。

        お医者様は、外気は身体によくないので、家の中で過ごすようにと

        言われました。両親は、そんな私の為に、すべてのものを揃えて下さり、

        何不自由なく生活できました。

        お勉強は、家庭教師から教わり、大好きなピアノは、毎日、練習しました。

        お友達と遊べない分、寂しくならないようにと、小さな犬を買ってくれました。

         犬が、部屋中を駆けずり回るのを見ていると、羨ましくて仕方がありません。

        つい忘れて、追いかけていき、息苦しくなって、ベッドでお休み。

        お家でのなに不自由ない生活は、心を不自由にしてしまったのです。

 

         ある時から、私は、口を利かなくなりました。

         突然のことに、両親は、びっくりして、何人かのお医者様を呼びましたが、

         首をかしげて帰っていくばかり。

         「ごめんなさい。」 そう心で謝りながら、人との接触を絶ったのです。

          食事も喉を通らなくなり、やせ細った身体は、召される日を待っていました。

         

        

 

        7歳の誕生日を迎えた日。私の枕元には、一冊の本が届けられました。

        本の上には、メッセージが。

        「親愛なるわが娘よ。私たちは、何もしてあげられない。

         この無力な親を許してほしい。この本は、せめてものプレゼント。

         どこにも行けない子が、扉を開けて旅をするお話だよ。

         気に入ってくれたら、嬉しいよ。」

          

         やっとの思いで、手にした本は、遠い昔から知っているような懐かしい

        匂いがしました。やせ細った手は、1ページめくるのも大変なほど。

        それなのに、夢中になった私は、しっかりと持って読んでいたのです。

         いくつもの扉の絵の先には、いろんな世界が広がっていました。

        広い平原や、お花畑。森へと続く道、噴水の庭園。 … … 。

        初めて見るものばかり。

        外の世界は、こんなにも美しいもので溢れているんだと知ったのです。

        私は、ひたすら読み続けました。

 

        そして、どれだけの時間がたったのでしょうか?

        いよいよ、最後のページとなった時、扉の向こうから眩しい光が差し込み、

        一瞬のうちに呑み込まれていったのです。

        「 さぁ、怖がらずにいらっしゃい。私は、光の天使です。

         ずっと、あなたを見守っていました。

         どんな苦しみの中にいても、 生きていくことは大切。

         その人生を全うしたあなたは、もう、卒業です。

         さぁ、私の手を取りなさい。」

         光の中から差し出された手をつかんだ私は、

         本の中に吸い込まれていったのです。

         ベッドの上には、私の姿も、本もありません。

         光の国の住人となったのです。

 

       

         この扉の本は、天国へと導く魔法の本。

         あなたがこの世を去る時、この本を届けます。

         安らかなる魂の為に。

 

 

 

   ★ 魂は、永遠の旅人です