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 本作品は、東方projectの二次創作小説です。

 カバー画像 背景:ぱくたそ様

       天子:dairi様 

 

 

 

 

 私の周りには、いつも人がいなかった。

 周りの者を不幸にしてしまう、貧乏神——そんな私に近寄りたがる者など、いるはずがなかったのだ。

 だから、あの出会いは、私の世界を大きく広げてくれたのだと思う。

 あれは、まだ暑いある日の話。

「貴方、大丈夫?」

 転んで泥まみれになった私の目の前に、彼女は現れた。

 赤く燃ゆる瞳に、整った顔立ち——私の目に映る彼女は、救世主そのものだった。

 空にも負けない蒼い髪を靡《なび》かせ、彼女は笑う。

「え、えぇ……貴方は?」

「ん、私か? 私は比那名居天子。非想非非想天の娘にして、気高き天人だ……って、どこかで会ったことある?」

「天人様……!」

「なんて顔をしてるのよ……貴方、見るからに不幸そうね。私が助けてあげるわ」

 彼女は、すっと手を差し伸べた。その手を受け取ると、彼女はまた笑った。誰にも負けない——そう感じさせるような、力強く、優しい笑みだった。

「それじゃ、これからよろしくね……っと」

「依神紫苑、です」

「へぇ、いい名前ね。よろしく、紫苑」

 〝天人様〟は、私の手を引いて歩き始めた。

 

 

 

 幻想郷のあるスポットにて。

 ここは、私と天人様が待ち合わせをするのに使っている場所だ。景色が綺麗な隠れスポットで、早朝には鬼が酒盛りをしているらしい。

 雲一つない青空の中、天から彼女はやってくる。誰よりも優しい笑みを浮かべて。

「天人様、遅いですよ〜」

「あっはは、少しくらい勘弁してちょうだいな」

 天人様はバシバシ、と私の背を叩く。天人様の笑みにつられて、私も笑う——ここまでが、私たち二人に欠かせないやり取りだ。

「さて、今日はどこに行こうか?」

「天人様の行きたいところなら、どこへでも」

「それじゃ、博麗神社にちょっかいでも出しに行きましょうかっ」

 悩む素振りを見せた後、天人様は応えた。

 今日もまた、激しい一日になりそうだ。

 

 

 道中。何気ない雑談を繰り広げながら、私たちは歩みを進める。

「衣玖が言っていたんだけど、宇宙から見た地球って青いんですって。それと、幻想郷の外の世界にある、海っていう、広大な水の世界も青いの。私たちが見上げる空も同じ。朝は青くて、夜は蒼い。それでいて、夕刻だけ紅く染まる。不思議よねぇ……」

「天人様は物知りですね〜。確かに、なんで青いんでしょう。……まるで天人様みたいで素敵」

 ここでの恥ずかしい発言に気がついたのは後のことだったが、天人様も触れてこなかったのでそのままにしておく。

 しばらく歩いていくと、長い石段が目に映った。

「天人様〜、なんで飛んでいかないんです?」

「ん? こうして上っていくことに意味があるのよっ」

 ぴょん、と石段を何段か飛び越えて、天人様は答える。帽子を押さえて飛ぶ様子には、どこか愛おしさを感じた。

「意味?」

 天人様の言葉を繰り返して、私は問うた。石段を飛び越えようとするが、やはり足を踏み外してしまう。重力に従って、体が沈んでいくのがわかった。

「おっと! 怪我はないか?」

「えへへ……ありがとうございます」

 階段から落ちそうになる私の腕を掴んで、天人様は持ち上げてくれた。起き上がった際に、顔が近くなり——爽やかな匂いが、私の鼻腔をくすぐった。

「どうしたの? 幸せそうな顔して」

「い、いえ……ついつい」

「……? ほら、もう少しだから頑張るわよ」

 ぽふぽふと、私の頭に手を置くと、天人様は階段を駆け上った。

 それを見、焦って階段を上っていく。

「ふふっ。ほら、置いていくわよー?」

「待ってくださいよー、もう」

 今度は転ばないように気をつけながら、天人様の背中を追っていった。

 

 

 へとへとになって階段を上がった先には、境内の掃除をする博麗の巫女がいた。

「はいはい紫苑、お疲れ様っ」

「あんたら何しに来たのよ……私はまだやることがあるのだけれど……?」

「あぁ、ちょっかいを出しに来てやったのよ」

「ちょっかいって……この暑いのに、暑苦しいのが来たわー」

 季節は秋真っ盛りだが、陽が出ている時間帯に作業をしていれば汗をかくくらいには、暑い日が続いていた。

「いつ見ても閑散とした神社だ……どうせ暇していたんでしょう?」

「あら、境内の掃除中よ? ……まぁいいわ、ちょっとそこで待ってなさい」

 私たちを一瞥すると、博麗の巫女は神社の奥へと向かっていき、その数分後——お盆に三つの湯呑みを乗せて戻ってきた。お茶のほのかな香りが、私の心を癒してくれるような気がした。

「あら、気が利くのね」

「気まぐれよ」

「せっかくのもてなしだし、素直に礼を言っておくわ。ほら、紫苑」

「ありがとうございますっ」

 お茶を出してもらったのだから、礼を言うのは当然——私は、深々と頭を下げた。

「いやいや、そんなに頭を下げなくても……。調子狂うから勘弁してって」

 博麗の巫女は楽しそうな笑みを浮かべた。なんだかんだ、来客は嬉しいのだろう。こうして雑談にも付き合うところが、人妖(ほとんど妖怪だが)を魅了するぽいんと? か。

「あっはは、紫苑は相変わらずねぇ。ま、そこがいいんだけど」

「普段に比べて、あんたもあんたでちょっと変よ? 天界の毒草でも食べたんじゃないでしょうね」

「天人が毒草程度にやられる筈無いでしょうに」

 天人様はお茶を啜る。それに合わせて、私も。お茶の苦味が口内を駆け巡り、独特の感覚で体を満たしていく。ごくっ、と飲み込むと、温かみが全身に響いていき——とても心地の良い気分になった。

「しっかし、あんたも暇よねぇ。何してるの?」

「私がやらなければならないこと、なんてのは一つも無いわ。私がやる必要なんて無いもの」

「自由そうでいいわねぇ……。いや、そうでもないか」

「えへへ……このお茶おいし」

「あんたはどこまで気楽なのよ」

 なんだかんだ言いながら、飽きるまで談笑を楽しむのだった。

 

 

 雑談にも一区切りついた頃。石段を駆け上がってくる音が、私の耳に入ってきた。音の方から現れたのは、さらっ、とした翠緑の髪を靡かせる守矢の巫女——東風谷早苗。

「あら、早苗じゃない。あんたもお茶飲む?」

「あぁ、いただきます……ってそうじゃなくて!」

 守矢の巫女は空を殴った。何にも当たっていない筈なのに、ガコン、という音が響く。

「それで、どうしたの?」

 天人様が問うと、本来の目的を思い出したように、早苗は語り始めた。

 先月から、博麗神社と守矢神社が合同で企画していた、秋の収穫祭——それを目前に控え、最終準備を進めていたところに、いたずらを繰り返して調子に乗り、暴徒化し始めた妖精たちがなだれ込んできたのだそうだ。

 なるほど、空を飛べることを忘れ、わざわざ石段を上るくらいには緊急事態だ。

「……第一会場が人間の里で、第二会場が守矢神社だっけ。私は第一会場に行くから、三人は第二会場をよろしく」

「一人で大丈夫なの?」

「あら、誰も一人なんて言ってないわ」

 天人様の問いに、博麗の巫女はさらっと答えた。彼女の傍にいる、かけがえのない相棒——その人物と共に戦うのだろう。

 それだけ告げると、博麗の巫女は姿を消した。決断から行動の素早さは流石のもの——呆気に取られていると、天人様の一声が、私を現実へと引き戻した。

「ほら、何をもたもたしているの。私たち二人で、すぐに終わらせてあげましょう?」

「……はい!」

 天人様は、もしかして——自分を信頼してくれているのではないか?

 そんな淡い期待を抱きながら、天人様の背を追っていった。

 空を飛び、青に溶け込んで——。その光に、手を伸ばす。

 

 

 守矢神社に着くと、多くの妖精が会場まで押しかけている様子が目に入った。喧々囂々とした現場の対応に追われるは、妖怪の山を警備する天狗のようだ。

「えーっと、つまり……あの妖精軍団を蹴散らせばいいってことね?」

「はい、その通りです。って——」

 守矢の巫女が返事を終える前に、天人様は妖精の群れへと突っ込んでいってしまった。剣を勢いよく振り回し、立ちはだかる妖精を無力化していく。

「天人様、早すぎますよ〜」

「あっはは、そう思うならさっさとこっちへ来なさい! 私一人で終わらせてしまうわよ!」

 そう叫ぶと、天人様は身を翻し、次なる妖精の群れへと突っ込んでいった。

 妖精の波に呑まれる度、それを掻き切って非想の剣が振り回される。意気軒昂なその姿に、守矢の巫女は闘争心を駆り立てられた様子だ。

「あっはは、誰も私には敵わないわ——!」

 その時。油断する天人様に、背後から妖精が飛びかかった。完全に死角となっており、回避は困難——。

「⁉︎」

 微かな衝撃音と共に、妖精は弾き飛んだ。

「後ろには気をつけないと怪我しちゃいますよ、天人様」

「私の後ろを守るのが、貴方の役目よ」

 何気ない天人様の一声に、私の中の自信がみるみる満たされていくのを感じた。

 はい!

 喉奥から声を振り絞り、叫ぶ。彼女の傍にいるならば、これくらいの元気は必須である。

 そこから、激しい戦闘が始まった。

 神社側を天人様が、参道側を私が——背中合わせで守った。彼女が剣を振るうたび、私が敵を押しのけるたび——赤と青の光が、守矢神社を熱く照らす。

「いいわ、その調子よ!」

 この鎮静活動を楽しんでいる、といった様子で、天人様は声をかけてくれた。傷付けることを苦手とする私を想って、勇気付けようとしてくれている——そう解っていた私は、想いを受け止めて応えた。

「えぇ、頑張ります——!」

 背後から、物凄い熱気と斬撃の衝撃が伝わってくる。一振りごとに、勢いが増している——それを感じ取って、また自信が湧いてきた。だが、それと同時に——私の中に、一つの不安が生まれていた。

 

 

 舞台は切り替わって空中。

 私は文さんと共に、空から状況の把握を試みていた。

「あやや……想像以上の数ですね」

「えぇ、時間をかければ不利になるのは確実でしょう」

 下からは、剣を振るう天人と、邪悪な気を放って弾幕を展開する貧乏神の姿が見えてきた。

「もはや一つの異変ですよ……これ、後で記事にしても?」

「捏造は無しでお願いしますよ。私の文さんですもの、できますよね?」

「うっ…………善処します」

 風を切り、意味も中身もない会話を繰り広げていると——こちらの様子に気づいた妖精が、私たちを取り囲むように現れた。

「飛び回りすぎちゃいましたかね……文さん、準備はできていますか?」

「えぇ、もちろんです。あ、私の方には目を向けないでくださいね? 塵が入ってしまいますから」

「地理ならもうこりごりです」

 再び意味のない会話をすると、文さんは私と背中合わせに立った。文さんも、あの二人の影響を受けているのだろうか。

 文さんは腕を振り上げた。掲げられるは、天狗の団扇だ。

「ここまで調子に乗られていては、仕方ありません。風を支配する天狗の力、見せて差し上げましょう——!」

 天狗の団扇に向かって、風が集まっていく。私の肌を掠めたそれは、どこか冷たくて——秋の気配を感じるには、ちょうどよかった。

「さて、私もお相手して差し上げましょうか」

 咳払いをし、お祓い棒を横に携え——全身から、星型の弾幕を生成した。

 どこかの魔法使いのように甘い星ではないが、彼女よりもお洒落なものであると自負している。

 幻想郷の風が、空を舞って動き出した。

 

 

 舞台は地上に戻る。

 いくつかの妖精は空を舞って動き始めたものの、数が目に見えて減ったわけではなかった。それどころか、増え続ける一方である。

「天人様……、そっちは大丈夫ですか……?」

「えぇ、痛くも痒くもないわ……!」

 次に発する言葉を迷っていると、先に話し始めたのは天人様だった。

「……そっちの方が、数多そうね。変わりなさい、紫苑」

「いえ、それでは天人様が……!」

「私はいい。まだまだ暴れ足りないのよ!」

 天人様は、喉奥から声を振り絞り——枯れるほどの声をあげて、剣を振るった。彼女の想いに応えるように、非想の剣はうねり、妖精を薙ぎ払う。

 私の中に生まれた、一つの不安。

 彼女の背中を守る資格は、私にあるのか?

 得体の知れないその感情は、私の心を蝕んでいくばかりだった。

 不安が限界近くまで達し、弾幕の勢いが弱まったかに思えた、その頃——私の名を呼ぶ声が、一つ。

「……紫苑。貴方と共に戦っているのは誰?」

「てん……にん……様」

 唐突に投げかけられたその質問に、私は戸惑いを覚えた。

 言葉を絞り、答えると——天人様は私を持ち上げ、片腕で剣を振り回した。暴風に晒された木々のように、妖精は吹き飛んでいく。

「それじゃ、何を思い悩むことがあるの?」

 私はまた戸惑った。

 そのとき、暖かい感触が私を包んだ。天人様が、私を抱き締めていたのだ。

「これで十分。貴方の中に、私がいるわ。胸を張って戦いなさい!」

「はっ、はい!」

 相変わらずの無茶苦茶っぷりに振り回されながらも、なんとか返事をする。彼女なりに、私の不安を取り除こうとしてくれていた——そう知ることができただけで、胸が満たされるようだった。

 私が弾幕を放つと、それに合わせ、天人様も剣を振るう。士気が高まった私たちは、今まで以上の速さで、それを繰り返していた。

「紫苑!」

「はい!」

 天人様の掛け声に合わせて、私は身を空へ投げ出した。突然に飛ばされた斬撃を回避する暇もなく、妖精は気絶を繰り返す。

「さ、そろそろ仕上げといこうじゃない——紫苑、準備はいい?」

「……? はい!」

 何のことだがさっぱりわからなかったが、天人様が何か考えていることは明確だった。

「紫苑、いい感じの全体攻撃よろしくね——!」

 降ってきた私を、天人様は再び空へ投げ飛ばした。それと同時に、叫び、妖精たちの注意を引いている。

 ああ、そう言うことか——。

「天人様、当たっても知りませんよ!」

 貧乏神としての力を最大限に発揮し、負のオーラを一点に集中させる。蒼黒を纏うその一撃は、たった一人を除いて、誰をも不幸にさせてしまう、究極の切り札——。

「さぁ妖精よ、私に刮目なさい!」

 嬉々とした表情で、天人様は剣を振るう。何度も何度も、前より速く。

「私たちの力に震えるがいい……!」

「最恐の気質、見せてあげなさい——」

 天人様の合図に合わせ、全身全霊の一撃を放つ——。

「貧符「超貧乏玉」」

 天人様の熱気すら飲み込んで、蒼く黒いエネルギー弾が、妖精の群れを包み込んだ。

 地面に叩きつけられたそれは、音を発することなく——妖精の意識のみを奪い、消え去っていった。

 

 

 私が駆け寄ると(降りてきただけだが)、満足そうな表情で天人様が座り込んでいた。

 その様子に心配して、声をかける。

「天人様! 大丈夫でしたか……⁉︎」

「あっはは、私に不幸なんて効かないわ!」

 本当にノーダメージなのだろう——ケロッとした様子で、天人様ははにかんだ。

 私たちが戦闘の余韻に浸っていると、空中から降り立つ者が二人。

「あれだけの数をお二人で……⁉︎」

「当然。私と紫苑にかかれば、この程度楽勝よ。ねっ」

「えぇ、もちろんです。もう弱音は吐きませんよ、天人様」

「あら、弱音なんて吐いてた?」

 いつものような会話をして、笑い合った。やはり、こうして共に過ごせる〝仲間〟がいるのは素晴らしいことだと思う。

「あやや、私たちも見習いたいくらいのコンビネーションですねぇ……一緒に頑張っていきましょうか、早苗さんっ」

「また文さんってば影響受けて。単純なんですか〜?」

「あんたらも仲良いのねぇ」

 四人の間に、笑いが巻き起こった。

 何気ない、微笑ましいやり取りが、互いの疲れを癒してくれる。

 もしかしたら、天というのは、遠いようで、すぐ近くにある存在なのかもしれない。

 

 

 守矢神社からの帰り道。私たちは、あの場所へと向かっていた。

「そういえば、あの質問にまだ答えていなかったわね」

 質問? 何の事だろうか。

 いくつかの記憶が頭の中を駆け巡り、その正体に辿り着いた。

「石段をわざわざ上るのはなぜか、って」

 もう秋なのに、生暖かい風が吹く。沈んでいく夕日が、彼女の姿を美しく照らす。

 いつの間にか、私たちは、あの場所へと辿り着いていた。

「せっかく地上で過ごすのに、天ばっかり駆けていては勿体無いでしょう? ……それと」

 一拍置いて、天人様は続ける。

「一つ一つの何気ない、小さな時間を——貴方と一緒に、過ごしたいからさ」

 紅く染まる天が、私と彼女の肌を照らした。

 ふと、空を見上げると——空から、太陽が降ってきた。次に現れるは、夜の象徴——黄金に輝く、月であった。

 肌寒い秋の夜が、訪れようとしている。

 

 

 

 あれは、まだ暑いある日の話。

「天人様、遅いですよ〜」

「あっはは、少しくらい勘弁してちょうだいな」

 天人様はバシバシ、と私の背を叩く。天人様の笑みにつられて、私も笑う。

「さて、今日はどこに行こうか?」

 たとえ距離が縮まろうと、私の中の彼女は、私が抱く憧れの象徴だ。だが、憧れのままで終わるとは、限らない。本当に欲しいものには、手を伸ばさなければ届かないだろう?

 鮮やかな天を追いかけて、私は今日も腕を伸ばす。