江原勝行、「法令違憲と適用違憲」『法学教室』(476) p.p. 26 – 30、2020年5月

議論の出発点

芦部信善の適用違憲判決3類型(1)

    第1類型                 猿払事件第一判決

法令が合憲限定解釈(制限解釈)できない場合であるとき、違憲適用できるような広い解釈でもって法令を事件に適用することは違憲である。

 

         第2類型       全逓プラカード事件第一判決

法令の執行者が、合憲的解釈が可能であるにもかかわらず、違憲的に適用した場合に、その適用行為は違憲である。

 

          第3類型       第2次家永訴訟第一審判決

法令そのものが合憲でも、執行者が人権を侵害するような形で解釈適用した場合、その解釈適用行為は違憲である。

 

近時の憲法学において、①審査方法の概念規定に関してみられる不一致、②審査累計の追加という理論的動向が絡み合って類型化している。

 

しかし、第1類型として観念されうる適用違憲という判決手法は取られていない。

猿払事件の上告審判決(2)では、「被告人の本件行為につき罰則を適用する限度においてという限定を付して右罰則を違憲と判断する」、すなわち、「法令が当然に適用を予定している場合の一部につきその適用を違憲と判断するものであって、ひっきょう法令の一部を違憲とするにひとしい」。

 

学説の精緻化

類型の縮小

第1類型:法令の一部を審査対象とし、法令の当該部分を違憲と判断する

 

第2類型:            

1.       法令の文面・内容に着目して合憲限定解釈を施す

2.       限定解釈された法令と執行者による適用行為ないし処分との適合性を審査

3.       合憲限定解釈に不適合の処分を違憲とする

 

第3類型:執行者による適用行為ないし処分の憲法適合性を審査し、その結果として当該処分に対して違憲判断を下す

 

第2類型と第3類型は、適用行為を対象とした審査=処分審査に基づく当該処分のそれぞれ違法性と違憲性を帰結する。

当該事件に適用される限りにおいての当該法令の一部の違憲性を問題にする第1類型のみが本来の適用違憲なのではないか。

(個別的・具体的国家行為に対する違憲判断が法令の憲法上の瑕疵の存在を前提としているか否かの区別を重要視する観点から、第3類型は「処分違憲」と説明する見解が有力化している。(3))

 

適用違憲と部分違憲

 

「法令の部分違憲(一部違憲、その帰結としての部分無効)」という判決手法と適用違憲との異同が問題となりうる。

 

適用違憲

当該事件における具体的事実への着目を契機とした判断

当該事件の司法事実を審査の中心に据える具体的・主観的審査の帰結

違憲判断の対象は法令であるが、「違憲の範囲を当該事件への適用に限る」(4)

 

部分違憲

当該事件において合憲性が問われている法令の可分な文言なり意味なりへの着目を契機とした判断

解釈によって法令から除去することができない違憲的適用部分の違憲無効を宣言し、合憲的適用部分の範囲で法令の有効性を維持(5)

法令の内容や構造を審査する一般的・客観的法令審査の帰結

一定類型に適用される部分が違憲という、より射程の広い判断(6)

 

  • 「違憲の範囲を当該事件への適用に限る」という「ピンポイントの判断」は現実性があるか
  • 具体的な訴訟において裁判官が、実際に規制を受けた行為それ自体を念頭に、当該規制と特定の憲法規定とを照合させることによって合憲性判断を行うという想定は、裁判官の現実的な推論過程として適切といえるのか
 

部分違憲によって統合されるのか

 

ある事案における自由権侵害の有無は、規制を受けた当事者の行為を類型化し、その法律の目的との関係で、その類型の行為を規制することができるかを審査して判断される。規制された行為の「明確なカテゴリー」化は、違憲審査そのものの前提である。(7)

 

これは、部分違憲概念による適用違憲概念の統合または無効化を帰結しうる(8)(そして最高裁判例と平仄が合っている)。

 

付随的違憲審査制との関連

 

違憲審査の実態

入り口の段階では「付随的」であるが、法令に対して実態審査を行う段階では「一般的・客観的」である。(9)

 

違憲審査制の活性化という実践的意図によって適用違憲の手法を重視することは、その前段階の審査レベルにおいて、法令の文面審査よりも適用審査を先行させるべきという適用審査優先原則の主張を時として付随させている。(10)

 

適用違憲とは

 

法令の文言や意味について合憲的適用部分と違憲的適用部分とを明瞭に仕分けることができなかった場合にとられる手法。

 

訴訟当事者の権利・自由を救済することに役立ちうる。

法令違憲判決と比較して政治部門に対するメッセージが穏当と評価しうるという点において、実際の裁判における採用を期待させるほどのポジティヴな側面をもつ。

 

注----

1) 芦部信善(高橋和之補訂). (2019). 『憲法[第7版]』. 岩波書店. p.p. 399-401

2) 最大判昭和49・11・6 刑集28巻9号393頁

3) 土井真一. (2018). 「違憲審査の対象・範囲および憲法判断の方法」. 著: 土井真一, 『憲法適合的解釈の比較研究』. 有斐閣. p. 237

4) 曽我部真裕. (2020). 「部分違憲」. 著: 同ほか, 『憲法論点教室[第2版]』. 日本評論社. p.p. 75-76

5) 宍戸常寿. (2016). 「(シンポジウム・憲法適合的解釈についての比較法的検討)日本」. p. 6

6) 曽我部・前掲注 4)p. 6

7) 木村草太. (2013). 「憲法判断の方法ー『それでもなお』の憲法理論」. 著: 『現代立憲主義の諸相(上)』. 有斐閣. p. 517

8) 木村・前掲注 7)p. 518

9) 佐藤幸治. (2011). 『日本国憲法論』. 成文堂. p. 655

10) 君塚正臣. (2018). 『司法権・憲法訴訟論(下)』. 法律文化社. p. 489