鎌倉王子のブログ
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テニスから美雪へ(4)

 山口はクラブハウス前にある駐車場を眺めた。6台ほどの車が停まっていた。

その中で、一番クラブハウス寄りに、気になる車が停まっていた。太陽を浴びて

光り輝くボディー。手垢一つついていないガラス、メタル部分は鏡のように美しく、

タイヤは真っ黒のピレリ。一目でこだわっている人が乗っていると判る、白い

フォルクスワーゲンビートル、カブトムシと呼ばれる名車だ。しかも新車に見える。

山口は強烈な興味に導かれ車を覗いた。ボディーも内装も新車そのもの、機械

類は、古そうな形状であるが、新車である。もう何十年も前に生産中止になったも

のが、何故?などと考えながら車を見ていると、美佐子は、クラブハウスに一人

で入っていった。クラブハウスの入ってすぐのところで、美佐子が誰かと話してい

た。美佐子が話している人は、遠めで見ると髪はドレットヘアーで、肌は黒く身長

は、175cm位、テニスプレーヤーと言うよりは、むしろボクサーと言った感じであ

る。全体的に細いのだが、肘から先が異常に太いのが、目に付いた。二人は遠目

からでもわかるくらい朗らかに話していた。一見怖そうに見えたが、優しそうな人だ。

と言うのが山口の第一印象だ。

美佐子に呼ばれ、恵美子と山口はクラブハウス前の二人の方に行った。「初めまし

て、中島 聡です」と丁寧に挨拶をされた。美佐子が、「こちらが、同僚の恵美子と

山口君です」と紹介してくれたので、二人は慌てて自己紹介をした。


中島は、「今日は、17時までレッスンがあり、それまではコートが空いていないの

で、着替えなどの準備をして、16時50にコート前のスペースに集合してください。

トイレ、更衣室、など自由にお使い下さい」と言い残して、おば様達に呼ばれてクラ

ブハウスに入っていった。三人も続いてクラブハウスに入ると、中島が三人のおば

様と談笑していた。三人のおば様たちは、山口たちを見て、「こんにちは!!」と笑

顔で挨拶してくれた。おば様たちは歓迎ムードであった。「こんにちは!!」と言うよ

り、「いらっしゃい」と言われた感じがした。正直いい気分だ。クラブハウスの中から

見ると、テニスコートは2面で、青い色をした、ハードコートである。所々はげている

が割と綺麗だ。コートの回りを10メートル位のフェンスが覆い、コートとフェンスの

間に、目隠しの為か、背丈以上のもこもこした木がびっしり植わっている。

クラブハウスは、平屋の一軒家のような作りだが、小さなバーらしきものと、フロント、

トイレ、ロッカールームがあり、古いが、綺麗に掃除されている。


テニスから美雪へ(3)

  二子玉川駅のロータリーは、世田谷区イメージにぴったりな、ハイソな感じ

であった。駅構内にはブランドショップ、スターバックスコーヒーが有り、山口に

は場違いな感じがした。しかも、これからテニスに行くのだ。何か、新しい風が、

人生に吹いてきた気がした。社会人2年目を過ぎ、これから学生時代とは違っ

た人生があるのかな、と考えてみた。やはり車が欲しくなってきた。大人イコー

ル車を所有するという分かりやすいイメージが浮かんだ。特に昔から車が好き

だったので、思いは強くなった。

三人は、成城学園駅行きのバスに乗り込んだ。二人掛けの席に、美佐子と

江美が座り、山口は一人前の席に座った。二人はマックから引き続きずっと

話し続けている。恋愛話や、会社の話し、話題は尽きないようなので、車窓を

眺めていることにした。バスが出発すると、世田谷区だけあって、外車が多く走

っている。その中に大好きな車が通った。プジョー406だ。あの美しい、流れる

様なボディーライン。学生時代からの憧れの車だ。いつか買いたいと思ってい

た車だ。プジョーに見とれていると、バスは、出発した。ロータリーを出ると、

先程見た、駅のイメージとは違って、車一台通るのがやっとの様に見える細い

道に出た。

前方からメルセデスベンツSL500がこちらに向かってくる。この道は一方通行

じゃ無いのか?と思いつつ、すれ違う様子を見ていた。バスとベンツはお互いに

20キロくらいまで減速したが、さほど苦になる様子も無くスムーズにすれ違っ

た。二台の運転手の技術に感動しながら、車に対する思いを強くした。

バスを降りると、世田谷区には似つかわしくない、畑が広がっていた。畑の間を

100mほど進むと、ポコーン、ポコーンという軽快な音とともに、植木に囲まれた、

テニスコートが現れた。外からでは分かりづらいが、植木の間から覗いてみる

と、青い色のハードコートだった。けして、綺麗とは言えないが、ワクワクしてき

た。

美佐子はと言うと、興味なさそうに、クラブハウスの方に歩いていた。恵美は植

木の間から、コートを覗き、おばさま達のプレーを見て、微笑んでいた。

tennisから美雪(2)

 山口は、軽い興奮状態で、二子玉川に着いた。実際は、少しさめてきた。


新しい人間関係を作るのは、かなりのストレスである。テニスの皆さんとは


うまくコミュニケーション取れるだろうか?ふと不安になりながら、マックに


向かった。店内に入り、席をぐるっと見回すと、江美がこちらに向かって、手


を振っていた。山口は軽く左手を挙げて、江美のもとに近づいた。席に着き、


時計を見ると、まだ14時30分を少し回った所であった。江美はチーズバーガー


セットを食べていた。山口もフィレオフィッシュセットを買ってきて、一緒に、少し


遅いランチをとった。山口は、マックのハンバーガーが苦手で、というより、


肉料理は、胸焼けするので、魚派である。ベジタリアンではない。


「二子玉川まで、結構近かったよ。」


「船橋からだと、錦糸町乗換え?」


「大井町乗り換え。大井町線て何かいいよねー。来年から一人暮らししようと


思ってるから、ちょっと見てみたかったんだ」


「大井町線沿線は高いんじゃない?」


「高いみたいだね。ちょっと調べたら、ワンルームで7,8万みたい・・・・」


会話の途中で、江美が入り口のほうに目をやった。山口もつられて入り口の方


に視線を送ると、美佐子が目を細めながら、店内を見回していた。


山口は、すっと立ち上がり、美佐子に近づき、挨拶をした。山口なりの気遣い


だった。


「二人ともなんか食べた?うちも、何かこうてこよつと」と挨拶もそこそこにレジの方


に行ってしまった。腕時計に目をやると、15時10分を少し回ったところだった。


トイレに行き、戻ってくると、女性二人は、全開でトークに花を咲かせていた。


15分か20分ぐらい、相槌を打ったりしながら、女性二人の会話に紛れていると、


「そろそろ行こっか」と美佐子がいいだした。ここから、テニスコートまで、バスで


15分くらいらしい。ふと山口は車欲しいなと考えていた。