初めてのデート(?)から数日後。

土曜日。


由利加は晃に会いたくなり、

≪ねぇ、休日って日曜日だけなの?≫

とメールを送った。


≪今日は14時からなら暇だよ。≫

と晃から返事が帰って来た。


≪もう仕事終わりなの?会える・・・?≫


≪うん。14時くらいに行くよ。≫


普段晃は日曜日しか休みではないが、

その日は大型台風が関東を直撃していたので、

午後からの仕事が休みになったのだ。


雨の日は憂鬱な気分になるので嫌いだったが、

由利加は雨の日が少し好きになった。



晃はものすごく緊張していた。

初めて彼女の部屋に上がるのだから。

『ピンポーン・・・』晃はインターホンを押した。

『ガチャッ!』由利加が出てきた。


「どうぞ!あがって。」

「おじゃましまーす・・・」


由利加の部屋は二階の突き当たり。

入ってすぐベッドがあり、平行してテレビが置いてある。

ゲームもなければ、これと言ってすることもないので、

「何する~?」と晃に聞いた。

晃は壁際のカラーボックスの中に『シティーハンター』のビデオを見つけた。

「これ見たい!」


由利加は昔から『シティーハンター』が好きで、

勿論単行本も全部揃えていたし、

TV放映されていたものをビデオに撮り溜めしていたのだ。


一方、晃も単行本を全部持っており、同じくファンであった。


由利加は不思議な気分だった。

自分がずっと好きなものを、同じように晃も好きで。。



部屋が狭く、テレビを見るときはいつもベッドの上なので、

「座っていいよ?」と由利加は晃に言った。

晃はベッドの端っこの方に座り、途中何度も落ちそうになった。

「もっとこっちに座れば?」と由利加に言われたが、

緊張して由利加の傍には座れなかったのだ。



ビデオを見終わり、音楽を聴きながら、

由利加は「何がきっかけだったの?」と晃に聞いた。

「・・・優しそうだな~と思って・・・///」

と恥ずかしそうに晃は答えた。

その時、由利加は『ずっと見ててくれたんだ・・・』と思った。



19時から菅野と飲みに行く約束をしていたので、

17時頃、晃は一旦帰宅した。

帰ってからも、晃の心臓はまだドキドキしていた。



『何か、あんなにカッコ良くて純情で優しくてO型で山羊座の理想の人が

自分の隣にいるって信じられなかった。

でも、手すら握ってこないけど、チェリーボーイだったらどうしよう・・・』

少し心配になった由利加であった・・・。


ずっと想ってきた由利加とやっと付き合うことが出来た晃だったが、

仕事が忙しく、なかなか『魚八』にも行けず、由利加にも会えないまま、

一週間が経過した。



その日、晃は熱を出した。

会社までは行ったのだが、どうにも頭が痛く、早退して帰る途中、由利加からメールが入ってきた。


≪何かこんなに幸せになれると思ってなかったから、むしろこのまま一生孤独に生きるのかなくらい覚悟してたから、夢みたい…≫


≪俺もだよ。俺の場合は付き合うのも初めてみたいなもんだから、ぎこちないけど。熱があるから長居は出来ないけど、今から少しだけ会えない?≫


晃は晃なりに、かなり勇気を出して由利加を誘った。



晃は由利加の家の大体の場所を教えてもらい、車で迎えに行った。

数分後、由利加が出て来た。

いつも思っていたが、由利加は晃好みの服装をしていた。

久々に見る由利加は、いつもの薄暗い『魚八』の店内で見る由利加とは違って、

太陽の下、一段と可愛く見えた。



二人は地元のファミレス『Jimmy's』へ。

朝の9時だったので、客は少なく、店内はがらんとしていた。

晃と由利加は窓辺の席に座った。


お互いに緊張していたので、ぎこちなかった。


晃は「ビール頼んでもいい?」と聞いた。

緊張し過ぎて、酒が入らないとまともに由利加の顔を見ることも出来なかった。

「うん。私唐揚げ食べたい!」と由利加が言った。

由利加の方は、平静を装おうとしていた。



注文を終えると、沈黙。



朝日が窓から射し込み、夜型の由利加には眩しかった。


すぐにグラスビールが運ばれてきた。



由利加はちらりと晃の顔を見た。

実のところ、付き合い始めたと言っても一週間も会っていなかったので、

晃の顔を忘れかけていたのだ。

「やっぱりカッコイイなぁ・・・」と思った刹那、晃と目が合った!


ビールを掻っ込んで一息ついた晃は、ずっと聞いておきたかったことを由利加に聞いた。

「ねぇ、結婚願望ってある?」

由利加はドキッとした。

『付き合って一週間で結婚!?しかも初めてのデートで!?!?』

“晃と”かどうかはさておき、結婚願望自体はあるので、

由利加は「・・・あるよ?」と答えた。

すぐさま「いつぐらいにしたいとかある?」と晃に問われた。

「・・・早ければ早い方がいいかな///」と由利加が答えると、

晃は満足気ににっこりと笑った。



晃は由利加のことが好きで好きで堪らなかった。

結婚するならこの子しかいないと本気で思っていた。



この先、二人の間に障害が待ち受けていようとは知る由もなく、

のん気に晃は浮かれていた。

その日、晃は告白を決意し、一人店の外で待っていた。

緊張したが、逃げ出したかったが、絶対に由利加と付き合いたかった。

メールの返事をちゃんと返してくれるし、笑顔が可愛いし、ポッチャリした体型も、時折見せる暗い表情も全て好きだから。


一時間後、やっと由利加が出て来た。

晃に気付いた由利加は、ドキッとした。

『11時前に帰ったはずなのに・・・もしかして待っててくれた・・・??』


「お疲れ。」晃が声を掛ける。

「こんな遅くに何してるんですか?」

「うん。待ってた。」

「えっ、あの時間から!?」

「うん。」

「ごめんなさい!今日ホントは11時までだったんですけど、12時までやってくれって言われて・・・」

「気にしないで。俺暇人だから。」


『待っててくれるなんて・・・』

今までして欲しかったのに、されたことのなかった由利加は嬉しかった。

夢のようだった。



沈黙。



「えっと・・・付き合って下さい。」

突然晃が告白した。

『えっ!いきなり??どうしよう。メール始めてまだ3日しか経ってないし、まだアキラさんのことよく知らないし・・・出会ってから3ヶ月くらいは様子見して付き合った方がいいって言うし、あ、知り合って1年以上経ってるか。。』

由利加は悩んだ。そして、言った。

「考える時間を下さい・・・」


晃は快く承知してくれた。

けれど内心、また振られた・・・と思っていた。



由利加は家に帰ってから朝まで考えた。

『カッコ良くて優しくて、不器用で、真面目で、何よりも私のことを好きになってくれて、待っててくれて、そんな人他にいないよね。

O型の山羊座で、理想の人だと思う。

人間は、学歴じゃない。職業でもない。

作業員だって別に関係ない。

私はアキラさんのことが好きなんだ・・・。』



翌朝。由利加はメールを送った。

≪おはようございます。昨日は待っててくれてありがとうございます。涙が出るくらい嬉しかったです。

昨日まで、アキラさんの気持ちに薄々気付いていましたが、半分冗談かと思ってて・・・本気なんですか?

ここ数年恋愛なんてしてなかったので、どうしたらいいのか全然分からないです。
ていうか、何で私なんですか?アキラさんカッコイイから絶対モテるのに…≫


≪おはよう。かなり本気だよ!しかも俺モテないし・・・今まで一人しか付き合ったときないよ。俺はこういった事がすごく苦手で、でも好きだよ!はっきりしてないね(*_*)手が震えてる。≫


由利加は晃の気持ちを受け入れ、

≪一晩考えました。私もアキラさんのことが好きです。こんな私ですが、これから宜しくお願いします。≫

とメールを送った。


≪ありがとう!すごく嬉しいよ!まだ手が震えてる。≫

と返事が来た。


由利加はずっと聞きたかったことを晃に聞いた。

≪ところで、名前、何ていうんですか?^^;≫


≪小渕 晃 こぶちあきら だよ。≫


付き合ってから晃のフルネームを知った由利加であった。

次の日の朝。晃からメールが来た。

由利加は、晃からのメールを心待ちにしていただけに、心底嬉しかった。

とりあえず、晃の誕生日を聞いてみた。

すると、≪1月19日だよ。≫と返事が来た。

晃は、山羊座だったのだ!

由利加は、『もうこれは運命の人に違いない!』と感じた。



その日。晃は菅野と『魚八』に飲みに行った。

当然、目当ては由利加だった。

由利加は緊張して晃の顔をまともに見れなかった。

晃の視線が気になって・・・。


晃のテーブルへ料理を運んで行くと、菅野が言った。

「コイツ仕事になんねぇんだよ。仕事中メールばっかしてるし、由利加今何してるのかなぁとか気にしてばっかでさ。」

由利加は恥ずかしくて仕方がなかった。

けれど、晃の気持ちが自分と同じなんだということに気付き、嬉しくもあった。


23時前に二人が帰ってしまい、ガッカリしていると、店長が

「岡田、今日12時まで残れる?」と聞いてきた。

今日は店がすごく込んでいて片付けが追いつかないので、23時であがれるはずだった由利加は、残ることにした。



24時にあがった由利加が店から出ると、外で晃が待っていた!


由利加は髪をピンクベージュに染めた。

気分転換というのもあったが、金髪の晃に少しでも近付きたいという気持ちもあったのだろう。



この日、晃は菅野と『魚八』に来ていた。

勇気を出して、由利加に話し掛ける。

「髪、染めたんだね?^^」

「あ、何か明るくなり過ぎちゃって・・・」

「そんなことないよ!似合ってるよ!」

「・・・そうですか?///」

嬉しかった。他にそんなことを言ってくれる人は多分いないだろうと思った。



由利加は、ファッション雑誌の占いを真剣に読んでいた。

‘誰とでもステキな純愛を楽しめるけど、牡羊、獅子、射手との結婚はタブー。恋愛&結婚ともに好相性なのは牡牛、乙女、山羊。特に乙女と山羊との結婚は最高の結果になる暗示が。’と書いてあった。

『乙女座か山羊座かぁ・・・。』



別の日。晃は加藤と『魚八』に来ていた。

由利加がオーダーをとりに行くと、加藤に「血液型何型?」と聞かれた。

由利加は「A型です・・・」と答えて、「何型ですか?」と晃に聞いた。

晃は「Oだよ。」と答えた。

その瞬間、由利加は嬉しくてたまらなかった。

A型女とO型男は相性がいいと聞いていたからだ。


それから晃は勇気を振り絞り、

「今度呑み行こうよ!番号とか聞いていい?」と由利加に聞いた。

「いいですよ^^」と顔がほころぶのを抑えながら由利加は答えた。

が、教えるといってもペンも何も持っていなかったので、裏で紙切れに自分のアドレスだけを書いた。

電話が苦手な由利加は、電話ではなくメールをしたかったからだ。


次のオーダーでそのメモを晃に手渡すと、

加藤がペーパーナプキンを一枚渡してきた。

そこには、“アキラ 080-○○○○-××××”と書いてあった。

『ん?』由利加はよく分からないという顔をすると、

加藤が、「晃のケータイ番号。」と言った。

「アキラって言うんですか!?」と由利加はキンパに聞いた。

「うん。そうだよ。」

この時、初めて晃の名前を知った。


由利加はこんなことがあるのかと思った。

‘総一郎’やら‘彰典’などといった“長い名前”を由利加は好まず、3文字の名前の男性を探していたからだ。



『アキラ、O型・・・』

由利加は運命を感じ始めていた。



アドレスを教えたにも関わらず、その日、晃からメールは来なかった。

由利加は不安になった。

『ホントに呑みに行くためだけに番号聞いたのかなぁ・・・』


晃は番号を聞くのに緊張して飲み過ぎ、帰ってすぐに爆睡していたのであった。。