ありえない
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ありえない2

居酒屋にいた。

前から約束していたのだ。

私は冷静に、今日は終始笑顔に徹しようと誓ってここに来ていた。
うまく行っていたと思う。
くだらない話をして笑った。
くだらない話なら得意だ。
いくらでも出てくる。

「で、ラブの話は?」
この調子ならいける、そう思って私から切り出した。
聞くのが礼儀のような気もしていた。
なんの礼なのかは不明だけど、私には変に律義なところがある。

のろけられると思っていた。
クリスマスの雰囲気に乗せられて付き合いだしたとか言う話なら、ありがち、とでもバカにして笑えた。
陳腐ですこと、そうひとりごちられればそれでよかった。

でも、私が聞いたのは、もっと陳腐な話だった。私が想像していたよりずっと陳腐で、突っ込み所満載の、実にばかげた話。


彼が知人に頼まれて小学生の子供の家庭教師を始めたことから話は始まる。

要点だけをまとめると、彼はその家庭教師先のお母さんと寝てしまったのだ。

彼曰く誘惑されたらしい。
夕食に誘われ、大好きなホッピーを沢山飲まされ(飲まされたのではなく飲んだのだと思うが)、終電を逃した彼はその家に泊まり、そのまま彼女と同じベッドで朝を迎えたとのこと。

ちなみにそのお母さんは離婚しており、不倫ではないらしい。

ラブ話がこの女性と付き合いだした、という顛末なら、私の反応はまた違ったものだったのだろうか?

ところが彼に全くその気はなく、彼女にはそう伝えたそうだ。

聞きながら、私は顎が外れそうだった。
話がてんで予想外な方向に進むことにショックを受けていた。

ありえない1

浮かれたメールが届いたのはクリスマスイヴだった。
当然私は仕事をしていた。

「ラブです!」
確かそんな文面だったと思う。

私は意外に冷静で、
「それはおめでとう」
とかなんとか気のない返信をした。

そしてそして深く脱力したのを覚えている。

その日は遅くに帰って、一人シャンパンとチキンを食べた。

友達に電話をしたりした。

「聞いて、聞いて、あの人彼女ができたらしいよ。
前に気になるって言ってたあの子みたい。」

目の前の細いグラスでしゃわしゃわと涼しげにシャンパンが弾ける。
目眩がしそう。

私は電話口で無意味に笑い続けていた。

「その笑いが逆に不気味だね。」
ひっそりと友達が言う。
「オレも付き合うよ。」
そう言って電話の向こうでもグラスにお酒を注ぐ音がした。

ひっそりとした、なかなか味わい深いクリスマスイヴだった。

思えばあの時私はまだ呑気で、あの時に感じた脱力感など今思えば屁でもなかった。

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