彼の目の前に座っていたその子の名前は

 

まさると言った。まさるは大人向けの本を

開き、目を見開いて読んでいるようだった。

 

 日笠氏は彼を連れてきた佐々木先生に

こう尋ねた。

「彼は本を読めるのですか?」

 

 佐々木先生「まさるは本を読むふりを

するのが好きなんだ。

彼の1日の仕事は数十分、本を開き

あとは食べて寝ているだけなんだ。」

 

 これを聞いた日笠氏は思わず、

可哀想…と言ってしまった。

 

 この言葉を耳にした佐々木先生は激怒

した。

 

  「可哀想とは何事だ?!

 

まさるは確かにただ座っているように

見えるが、これが彼の体の限界なんだ。」

 

 彼は怒りが収まらない。

「ここにいる子どもたちは自由に動く体も

ない。寿命だって30歳まで持つかどうか。

それでもこの子達は誰一人として

 

自分を可哀想なんて思っている子はいな

い。

 

 日笠氏は唖然とした。

「まさるにお前の脳みそがあったのなら、

まさるはノーベル賞を受賞するだろう。

しかしお前はなんだ?今まで死にもの狂いで

汗と涙を流して泥臭く挑んだことがある

のか?」

 

 

 佐々木先生は怒りで手が震えている。

「おそらくないだろう。お前はいつも

言い訳やできない理由並べるだけ。

この子達と同じ毎日を生きているのに、

不満ばかり。」

 

佐々木先生は震えた肩と涙ぐんだ目で、

「お前はこの子達にとって奇跡みたいな

当たり前の日々をもらっている。

 

 五体満足の何が不満なんだ?!

 

悔しかったらまさるの分まで命を削って

何かを成し遂げてみろ。」

 

 日笠氏は呆然と立ちすくみ、まさるは

彼を見透かすように微笑んでいた。