「彼氏の考え方が合理的すぎて怖いの」

 

大学の近くのこじんまりとしたカフェで、直美はコーヒーをかき混ぜながら話した。

 

「昔の友達のことも、会っても意味ないからと言って会おうとしないし。研究室の飲み会もいつも断っていて、とにかく人間関係がドライ過ぎてなんか怖いんですよ。ドライすぎて、いつか私もそんな風に切り捨てるんじゃないかって思っちゃって。」

 

そう話しながら直美は視線を上に向け、英介の顔を見た。英介は直美のゼミの先輩で、今日は直美の相談に乗るということで一緒にカフェに来ていた。

 

「うーん、ドライすぎると確かにそう思っちゃうよね。直美ちゃんは結構情に厚いタイプだもんね。」

「そうなんですよー、それで、この前彼氏が、、」

 

ひとしきり相談した後に直美は次の用事へ行くため、また相談させてください、と英介に言い店から出て行った。

 

一人店に残った英介はカバンを探って何かを探しながら頭を働かせていた。

 

相談中のかすかな目の動きと仕草から、自分に対する憧れと若干の好意を感じた。このまま行けば直美はおそらく今の彼氏と別れるだろう。自分の側からも少しずつ仄かに好意を匂わせて、機を見て踏み込めば成功する確率はかなり高い。しかし直美の彼氏というのは全く非合理的だな、粗悪品と言ってもいい。本当に合理的ならば、彼女に自分のドライな一面など見せないはずだ。それが彼女の自分に対する心象を悪くして、自分の不利益につながっているというのに。中途半端に合理的なのはいかにも人間らしい。

 

そう結論を下しながら、英介はカバンからリチウム電池を取り出し、自身の背中に嵌め込んだ。