神はまた言われた。「水は魚の群れで満ち、鳥は地の上、天の大空を飛べ」。神はこれらを見て良しとし、また祝福して言われた。「生めよ殖えよ。魚は海の水に満ちよ、また鳥は空に殖えよ」。

 神様は海には魚を、空には鳥を、それぞれあるべきものとして創られたそうだが、そのとき何かの手違いで、海に放り投げられた鳥、空に飛びたたされた魚がいたかも知れない。エラを持たぬ鳥も羽を持たぬ魚も、間違った場所で喘ぎながらも、結構生きながらえていっただろう。もっとも、そこにあるべくしてある連中に比べれば何倍もやりにくかっただろうけれど。

 

 そうして、「やりにくかった連中」にだって「うまくいった一瞬」はあったはずだとわたしは思うのである。

                                    本文 海の鳥・空の魚 あとがきにかえて より引用



ここにあるのは小さな、本当に、小さな心です。

それは、痛みだったり、憧れだったり、憤り、優しさ、感謝   あるいは、言葉に出来ない何か。


「どんな人にも光を放つ一瞬がある。その一瞬のためだけに、そのあとの長い長い時間をただただすごしていくこともできるような―――」


作品中で語られるのは、決して華々しい物語ではありません。

上手に息が出来ない。そんな閉塞間の中で、それでもフンと笑って生きているような人たちと、その人たちの環境や人に当たることなく、ひたむきに歩き続ける姿。

だから地味、だけど胸を打つのです。


短編集で、ほとんどの作品は8枚ほどの短い話です。ふっと疲れたときに、お勧めの一冊です。

海の鳥・空の魚 (角川文庫)/鷺沢 萠
¥460
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 世界的名作と言われるこのお話ですが、私は最初に読んだとき、何が何だかサッパリわかりませんでした。
最後まで読み終わって 「なんという夢オチ!!」 と叫んでしまったくらいです。

 でも、子供の頃に見た夢、感じていた世界そのものというのは、まさにこんな感じだったかもしれません。
ジブリの「トトロ」に通じるところがあるように思います。

―――と、そのときなんだ、ふいにピンクの目をした白ウサギが一ぴき、すぐそばを通り過ぎていった。

 それだけなら、べつにどうってこともないやね。またそのウサギが、「たいへんだ、たいへんだ、遅刻しそうだ!」ってつぶやくのがきこえたって、アリスはべつにふしぎだとも思わなかった。でもね、そのウサギがチョッキのポケットからほんとに時計をとりだして、時刻をたしかめて、またせっせとかけだしたときには、さすがのアリスも思わずとびあがったよ。…(中略)…めずらしさにかられて、アリスはウサギのあとを追ってかけだし、原っぱをつっきると、ちょうどウサギが生垣の下の大きな巣穴へピョンととびこんだのが目にはいった。


 アリスもすぐさまつづいてとびこんでね。出るときはどうするかなんてことは、てんで頭になかった。

                                                           (本文より引用)







不思議な夢の世界へ、今一度。





不思議の国のアリス (新潮文庫)/ルイス キャロル
¥500
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① CDショップに入りびたり
② 苗字が町や市の名前であり
③ 受け答えが微妙にずれていて
④ 素手で人に触ろうとしない――そんな人物が身近に現れたら、死神かもしれません。
一週間の調査ののち、対象者の死に可否の判断をくだし、翌八日目に死は実行される。

クールでどこか奇妙な死神・千葉が出会う六つの人生。

                                (文春文庫出版 「死神の精度」 カバー裏の解説より引用)



 映画化された作品なので、知っている方も多いかもしれません。

「人間が作ったもので一番素晴らしいのはミュージックで、もっとも醜いのは、渋滞だ」と断言する死神、千葉。

人間の死には興味が無く、徹底してクール。でも、結構人間臭くてカッコいい死神です。

ステーキを頬張る青年に「死んだ牛はうまいか?」と聞いたり、現地へ派遣される死神に人間の情報を提供する部署「情報部」の不親切さに憤慨したり…。


文章は6つの短編構成になっていますが、ところどころに前に出てきた人物が再登場していて、思わず「あっ」と言ってしまうような小ネタがちりばめられています。


読み始めたら、思わず一気に読んでしまいたくなる。

そんな作品です。

死神の精度 (文春文庫)/伊坂 幸太郎
¥570
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・・・ちなみに。同じ伊坂作品の「魔王」で、千葉が登場しています。

それが、先の展開を暗示しているわけです(つまり調査中)。
うーん。にくい演出!!