ひとりの手品師がおりました
彼が赤いハンカチをかぶせると
造花はみずみずしい薔薇に変わりました
おもちゃのカエルはゲコゲコ鳴き出し
小麦粉は生クリームたっぷりのケーキに
ぼろぼろの靴は新品に
小石はダイヤモンドに
それはある年の
梅雨明けのニュースが流れた日の夕方のこと
いつも通りお客もまばらなショーの終わりの時刻
彼は大きな赤いハンカチで自分を覆って
横になりました
しばらくすると
ハンカチの下から
赤ん坊がふたり
裸のままで這い出してきたのです
ふたりは男の子と女の子だったとか
そして
それきり
手品師を見かけたものはなく
ふたりの赤ん坊はすくすく育ち
いつしか美しい若者になり
互いに愛し合うようになったとか
おしまい