オリジナルSS | 【弥勒記】

【弥勒記】

弥勒のあ~んなことやこ~んなことが分かってしまうかもしれない戯れ言ブログ。

日曜日に下の子にせがまれて作った怖い話です。

せっかくなのでここにもアップしておきます。

といっても小学生向けの内容なので怖くないです。(笑)


舞台は木造の小学校で弥勒の子と同じく小学五年生の男の子が主人公です。

自分と同じ学年だというだけで怖くなるものなので、本当に子供だましな内容です。(苦笑)

たま~にこういうのを書かされていたりします。

学校で回し読みしているらしいです。


アメブロの前に使用していたブログにも何作かSSをアップしていたので、今度それも載せようかな~。


それではどうぞ…






『学級怪新聞』




あなたは学校にまつわるこんな噂話を聞いたことがありませんか。

それは『放課後の四時四十四分になると現れる奇妙な学級会新聞があるらしい』という噂です。
この新聞を見かけた者は夕日が落ちてしまうまでに何が書いてあるのか、隅から隅まで全部読まないと、呪われてしまうと言われているのです。
そんな話は嘘に決まっていると思いましたか?
噂話とは火のない所にたたない煙と同じなのですよ。
それではこれからある小学生のお話をしたいと思います。


  *  *


四月に小学五年生になったばかりのハルという男の子は、宿題をクラスに忘れてきてしまったので放課後、学校へ取りにもどりました。
ハルのクラスは三組で、三階建ての木造校舎の一番上の階の一番奥でした。
今時木造の校舎なんて笑ってしまうでしょう?
さすがにとてもくたびれた校舎でしたのでもうすぐ建て替え工事が始まることになっていました。
それが終われば今風の鉄骨で出来た綺麗な建物へと変わるのです。
生徒も先生も早く新しい校舎で勉強がしたくて今から楽しみにしていました。
ハルもまた同じように楽しみで仕方ありませんでした。
誰しも古めかしい物より新しい物にわくわくするのは当然でしょう。
今の校舎はどこもかしこも朽ちていて昼間でもほんのり薄暗く陰気な感じだったから尚更ハルは心待ちにしていました。
ここまで読んで気付かれた方もいらっしゃるかと思いますが、ハルは少々怖がりな男の子なのです。

生徒達が帰った後の、夕方の校舎はしんと静まり返っていてなんだか気味が悪く感じられました。
何もかもが古びているからか、日が落ちて影を増した屋内は一層薄暗くて余計にハルの気持ちを暗くさせます。
「はぁ…誰かについてきてもらえばよかったかな…。でもそれもカッコ悪いしなぁ」
そう言って大きくため息をつくと、忘れ物をしてしまった自分が悪いのだからと気を取り直し、三階へ続く階段を一段一段上がっていきました。
体重がかかるとその重みでギシギシと木の軋む音がします。
それは階段が踏まれる痛みに悲鳴を上げているようにも聞こえます。
うすら寒くなったハルはぶるりと体を震わすと、再びのぼり始めようとしました。
すると突然、後ろから肩をぽん、と叩かれたのです。
「だ、誰だっ!?」
驚いたハルは叫ぶようにふり返りましたが、そこには誰もいません。
怖がりのハルは少しの間そのまま動けずにいましたが、忘れ物を取りに行かなくてはならないことを思い出し、慌てて向き直りました。
「わっ!」
「ぎゃあ!」
誰もいないと思ったらハルの正面に見かけない女の子が、にこにこしながら立っていました。
長い黒髪を耳の両わきで三つ編みにしている色白の可愛らしい女の子です。
驚かされてつい大きな声を出してしまったハルは、恥ずかしさからその女の子を睨みつけました。
「なんだよ、お前。びっくりさせんなよな!」
女の子はあい変わらず、にこにこしながらハルに話しかけました。
「こんな時間にどうしたの?忘れ物でもしたの?」
顔を覗きこむようにして早口できかれたハルは、変な女の子だと思いながらも返事をしました。
「そうだよ。宿題を教室に置きっぱなしで帰っちゃったんだ、悪いかよ」
まだ心臓がドキドキしているハルは口をとがらせて女の子の前を通り過ぎようとしました。
「ふうん。じゃあ私も一緒に行ってあげる!」
ちょうどすれ違いざまに女の子がハルの手首をぎゅっとつかんで、案内するように先を歩き始めました。
その手がハルにはひどく冷たく感じたのですが、たいして気にしませんでした。
それにしても見かけない子だな、と思って楽しそうにしている女の子の顔をまじまじとながめていると、視線に気付いて自己紹介をしてくれました。
「あ、私は五年・・・組の向島トメ子よ」
トメ子が何組か言った時に、踊り場の窓が風でガタガタとゆれて大きな音がひびき渡りました。
 ハルはクラスを聞き逃してしまったけれど、同じ五年生だと知って親近感がわいてきました。
「へぇー!お前オレと同じ五年なんだな。てか、トメ子って変な…」
名前、と言いそうになって思わず口をつぐみました。
なぜかというとハル自身も男なのに女みたいな名前だとよくバカにされていたからです。
それがすごく嫌なことだとわかっていたから途中で言うのをやめたのでした。
「ふふ。変な名前でしょ?七人兄弟の末っ子だからこれでおしまいっていう意味でつけられちゃったみたい。いやあね」
と、少し悲しそうな表情で笑うトメ子が一瞬だけ透けているように見えました。
そのまま消えてしまいそうにはかなく感じたハルは、慌てて自分の名前のことを話し出しました。
「そんなことないよ。オレなんか男なのにハルだぜ?そっちの方が変だよ」
「そうかしら?」
「そうだよ」
そうして三階まで階段をのぼりきると、二人は廊下をずんずんと歩いて行きました。
一番奥の自分のクラスの前までくると、トメ子は突然立ち止まってハルの手首から手を放し掲示板を指さしました。
「あれ…あの黒い紙は何かしら?」
声をひそめるトメ子につられてハルも指さしている先を目で追いました。
見慣れた掲示板の隅に見慣れない張り紙があるのです。
各クラスの新聞委員によって書かれた《学級会新聞》にまぎれて、見たこともない黒い紙がひっそりとその存在を主張しているのです。
「なんだ、あの張り紙…」
訝しげにハルは掲示板へ近づくとその黒い紙の前へ立ちました。
その後ろでトメ子が薄笑いを浮かべているとは知らずに顔を近づけてハッとしました。
「これは…!うわさの新聞じゃないか!」
目を見開いたまま、慌てて三組の教室までかけよると乱暴に扉を開けて中へ入りました。
黒板の上にある壁掛け時計を見つけるとハルは愕然としました。
あの噂通り、時計の針は四時四十四分を差していたのです。
ハルの額から脂汗が滲み出てきました。
「あれを見てしまったらどうすればいいんだっけ…」
たいして気にしていなかったうわさ話の内容を思い出そうと、必死になりました。
「四時四十四分に現れた学級会新聞を見た者はすみからすみまで全部読まないといけないのよ。そうしないと…」
背後からトメ子の声が聞こえてきました。
首を巡らすと薄笑いのトメ子がハルをじいっと見つめています。
何故笑っていられるのかハルには理解できませんでしたが、今はそんなことを考えている場合ではないのです。
トメ子の言葉をうわ言のようにぶつぶつとくり返し、よろよろと掲示板の前へ戻りました。
ごくりと生唾を飲み込むと顔を近づけて、真っ黒い紙に白い文字で書かれているその新聞を読み始めました。


「…本日の学級怪新聞は何度も飛び降りる三本足の話を取り上げたいと思います…って、怪談の新聞なのかな…」


こめかみをつつうと汗が流れるのをそのままに、ハルはその先を読み進めていきました。


「これは戦後まもない頃のお話です。夕方になるとどこからともなくぺたり、ぺた、ぺたりと奇妙な足音が校舎内にひびき渡る音がするのです。よく耳をすましてみると、それはゆいいつ屋上へと続いている階段のある場所から聞こえてくるのです。ですが、足音の正体を探してはいけませんよ。もしぐうぜん、探すつもりもなくその正体を知ってしまったとしても、驚いて大声を出してはいけません。息をつめて通り過ぎるのを待って下さい。もし万が一、目が合って話しかけられても見えないふりをして下さい。答えないで下さい。ただ黙って二ノ宮金次郎の銅像のようにじっとしていれば、やがてそれはあきらめて通り過ぎて行くのですから。一言でも声を出してしまうとその後はどうなってしまうのか、わたくしにはとてもここに書く勇気はありません。これを読まれている生徒諸君のご想像にお任せします。例えば背中に大きなこぶがあって顔中いぼガエルのようにいぼだらけで、目や鼻や口がうもれている老人に話しかけられるとか、一つの体に頭が二つある人の口から、ヘビのように細く長い舌の先が二つに割れていて、チロチロとたらしながらどこまでも追いかけられるとか、それぐらい恐怖なことが起こってしまうのです。ただ一つ、命にかかわるとだけ記しておこうと思います。いいですか、絶対に声をもらしてはなりませんよ。銅像のように、貝のように、ひたすら息を飲んでやり過ごすのですよ」


ここまで一気に読み終わると、どこからともなくぺたり、ぺた、ぺたりと奇妙な音が聞こえてきました。

たった今、読んだ話の足音によく似ています。
ハルの顔は一瞬にしてさあっと青ざめていきました。
花冷えの季節にしてはそんなに寒くもないのに、体がガクガクと小刻みに震えだしてきました。
なぜなら、その足音は階段をのぼって屋上へ行くのではなく、だんだんとハルに近づいてきていたからです。


 ―――ぺたり、ぺた、ぺたり…。


ぴたりと音がやみ、辺りが静まり返りました。
それでもハルは掲示板から目をそらせませんでした。
足音が鳴り止んだ場所が自分のすぐ後ろだったのです。
目玉が飛び出そうなほど見開いて、唇をぎゅっと噛み締めたまま震えていると、洋服のすそをくいっと引っ張られました。


『ねぇ、キミ…』
 
声をかけられ怖くて怖くてどうしようもないのに、油が切れたぜんまいのような動きでふり返りました。

「…っ!」
そこにはハルの腰の位置ぐらいの小さな人が立っていました。
だけど何かがおかしいのです。
よくよく見るとその人には足が三本あるのです。
右足のもものつけ根の部分からその小さな体に不釣合いな、大人の男性と同じぐらい太くて大きな足がにょきっと生えていたのです。
ハルは三本も足のある人を今まで見たことがありません。
それにその人の唇はうさぎの口のような形をしていたのです。
両目は血の色よりもまっかでぎらりと光っているから不気味でした。
危うく大声を出しそうになり、両手で口を塞いでそれをやりすごすと、そこに立っているものが通り過ぎるのを息継ぎすら忘れて頭の中で願いました。
(神様、どうかお願いします、この変な生き物からオレを助けて下さい!これからは忘れ物もしません、だからどうか、どうかお願いします!)
何度も何度もお願いしました。
すると、その三本足の人は『…なんだ、これは人じゃなくて銅像だったのか…』と、残念そうに呟くと顔をひきつらせながらニヤリと笑って、歩きづらそうに階段のある場所へと向かって行ったのでした。
ハルはその人がいなくなるまで目をしっかりと開けたまま見つめていました。
それで奇妙な音のわけがわかったのです。
普通に生えている二本の足は肉づきが悪くて骨と皮ばかりのひょろりとした足でした。
だから歩くのがとても大変そうなのです。
一歩足を踏み出すと体を支えられなくて、ぐらついたところで三本目の大きな足が踏み止まるのです。
だからぺたり、ぺた、ぺたりと奇妙な音がしていたのでした。
その人の姿が見えなくなると、ハルは金縛りからとけたように急いで教室の中へ入り、校庭が見える窓の所へ近づきました。
なんだかいやな予感がしたのです。
しばらくすると、夕日で橙色にそまった窓の外を黒いものが上から落ちていきました。
ドン、と大きな音がしたのを合図におそるおそる窓を開けて地面を覗き込むと、あの三本足の人がひき蛙がぺしゃんこになったような格好で倒れているではないですか。
ところがあっと思う間もなく、その人は体を起こしてまた校舎の中へ入っていったのです。
こうしてまた階段をのぼり、屋上まで行くと飛び降りては校舎の中へ入って、また階段をのぼることをずっと続けているのでした。
もうとっくに幽霊になってしまっていることに気づいているのかどうかはハルにはわからなかったけれど、この三本足の幽霊は毎日毎日永遠にそれをくりかえしているようでした。
ほんの少しの間、恐怖で呆然としていたハルは大変なことを思い出して、また掲示板の前へと引き返しました。
そこにはトメ子がひっそりとつっ立ったままでした。
ハルはトメ子から少し離れた場所で立ち止まると、勇気を出して大きな声でトメ子に向かって言いました。
「思い出したぞ!学級怪新聞は夕日がしずむまでにすみからすみまで読まないと呪われるんだったよな!」
ハルの声にトメ子の顔が、醜く歪みました。
目がつりあがり、歯と歯を噛み締めてぎりぎりきしむ音が聞こえてきても、ハルはその先を続けました。
「ひたすら息を飲んでやり過ごすのですよ。それではみなさまごきげんよう。向島トメ子記す。…これはトメ子が書いた新聞なんだな!これでオレは呪われない!どうだ!」
と、突然トメ子の両目が黄色くぎらりと光りました。


『…あともう少しでお前を食べられたのに…』


ぱかっと開いた口は頬まで裂けていてその中にある歯はサメのものと同じように尖っていました。
口内は干乾びた古井戸の底かと思う程真っ暗で吸い込まれそうです。
ハルは驚いて「うわあああ!」と、叫ぶと一目散に走って校舎を飛び出ました。
もう宿題どころではありません。
宿題を忘れて先生におこられる方がどんなにいいでしょう。
このままだと食い殺されてしまうと思ったハルはふり返りもせず、ただひたすら走って走って家へ逃げ帰ったのでした。


それからじきに木造校舎が取り壊されて建て替え工事が始まりました。
ハルはこの日以降忘れ物をしなくなりましたが、この話はだれにも言いませんでした。
信じてもらえないと思ったのは言うまでもありませんが、いつも誰かに見られているような気がしたからです。
だから新聞のこともトメ子のことも、三本足の小さな人のことも自分の胸にしまっておくことに決めたのでした。


  *  *


季節が巡ってハルは六年生になりました。
校舎も白くて綺麗な鉄骨の建物に生まれ変わりました。
新しい校舎はあの陰気な木造校舎に比べると何十倍も明るく感じられました。
新しい友達もたくさんできて毎日楽しくすごしていました。
そんな中、休み時間はいつも静かに本ばかり読んでいる、ツヨシという男の子の視線が気になり始めました。
気がつくと何か言いたそうな顔をしてハルのことを見ているのです。
といっても、ハルの肩ごしを見つめているようにも思えました。
物静かでおとなしいのに、名前がツヨシというものだから、クラスの男の子達によくバカにされていたけれど、ツヨシは全く気にしていないようでした。
ハルは同じクラスになってから一度もツヨシと話したことはなかったのですが、なんだかとても気になってある日自分から話しかけてみました。
「なぁ、お前、よくオレのこと見てるだろ。言いたいことがあるならはっきり言えよ」
睨みつけるように強い口調でそう言うと、ツヨシは読んでいた本から顔を上げて少しだけ困った顔をしてからハルに言いました。
「…キミ、もしかしたら学級怪新聞を読んだことがあるんじゃないかい?」
「えっ」
そう言われてハルは吃驚しました。
「…やっぱり。実はね、ボクも読んだことがあるんだよ」
キョロキョロと辺りを見渡したツヨシは周りの人に聞こえないよう、小声でハルにそう打ち明けたのです。
「お前もあの黒い掲示物を読んだことがあるのか?」
「うん。しかもキミはどうやら少しばかりヘマをしてしまったようだよ」
ツヨシは読んでいた本を閉じると真剣な顔でハルを見つめました。
「…どういうこと?」
噂通りに隅から隅まで全部読んでトメ子の魔の手から逃げきったから、こうして無事に六年生になれたのに。 
ハルにはツヨシの言っている意味がよくわかりません。
それなのに、ヘマをしたなどと言われたハルは途端に背中がすうっと寒くなってきました。
「ボクもあの新聞を読んでしまったからそのあと色々と噂について調べてみたんだよ。何十年も前にこの学校の生徒だった怪談話が好きな向島トメ子さんという女の子が事故にあって死んでしまったことを突き止めたんだ。トメ子は怪談についてまとめていた作り途中だった新聞のことが気がかりでそのまま幽霊になってしまって…毎月あの新聞を発行するようになったんだよ。トメ子はその新聞を読んでもらいたいだけなのに書いてあることが本当に起こるから怖くて逃げてしまう生徒を呪っているようなんだ。だから作った怪新聞を一度でも見かけてしまったら卒業するまで毎月あの新聞を隅から隅まで読まなくてはいけないんだ。そうしないとトメ子に…とり憑かれてしまうんだ」
「とり憑かれるって…オレはなんともないよ…」
最近背中が痛く感じることはあってもあの日以来、トメ子を見たことなど一度もないのだからそれこそただの噂だとハルは思ったのです。
ところがツヨシはハルの顔のすぐ横をじっと見つめていて、ハルと目を合わそうとしません。
それが気味悪くてハルは心臓がドキドキしてきました。
顔中に汗を浮かばせてツヨシを見つめていると、ツヨシは観念したようにたった一言呟きました。


「…でもボクにはキミの後ろにいつだってトメ子が見えているんだ…」と。



学級怪新聞の話はこれでおしまいです。
どうせただの噂話だろうと思うか思わないかは、あなたがたしだいです。
でもね、今もトメ子は新聞を作り続けているのですよ。


ほら、あなたの後ろにも―――。




〈了〉