映画「ホモ・サピエンスの涙」 令和2年11月20日公開 ★★★★☆

(スウェーデン語;字幕翻訳 大西公子 字幕監修 小林紗季)

 

 

 

数年ぶりに再会した友人に無視されたのを気にする男は、

再びその友人に出くわすも無視される。

銀行を信用せずに貯めた金をベッドとマットレスの間に隠すパジャマ姿の男は、

盗まれていないか気になってしまう。

理髪店の前に置いた植木に霧吹きをかける少女を、隣の本屋から目で追う青年がいた。

終わりの見えない一本道で車が故障してしまった男は、

助けを呼ぼうにも周囲に誰もおらず途方に暮れる。    (シネマ・トゥデイ)

 

ほぼ脈絡のないカットをつなぎ合わせた、かなり「イチゲンさんお断り」感の高い作品。

書いても意味ないんですけど、せっかく数えたので、

数えたカットをだらだらと記録しておきます。

 

① 丘のベンチで所在なげにすわる夫婦。足を投げ出しバックのふたも開いてます。

  「もう9月ね~」とつぶやく妻。 遠景に鳥のむれ。

 

② 両手にたくさんの荷物をもった男が階段を上り切って、こちらに語ります。

  「先週ここで旧友のスヴァルケル・オルソンに偶然出会ったので声をかけたけど、無視された」

  「昔あいつを傷つけたのをまだ怒っているんだな」

  そこへまたオルソンが通りかかり声をかけるも、またガン無視されます。

 

 

③ レストランで客のグラスにワインをあふれさせるウェイター

 

④ 後ろ向きにたつ中年女性

 「広報責任者の彼女は、恥じることをしらない」とナレーション

 

⑤ 銀行が信用できずに、ベッドの下に全財産を隠す男

 

⑥ 十字架を背負う男とそれを鞭打つ男たち。「はりつけにしろ!」と叫ぶ行列の群衆。

  坂の両脇の人たちはみてみぬふり

 

⑦ 夢にうなされ起きる夫 「手にくぎをうたれた」

 水を飲ませて気遣う妻

 

⑧ 店の前の枯れた木に水をやり、霧吹きをかける若い女性とそれをみつめる若者。

  「まだ愛を見つけていない若者」とナレーション

 

⑨ 精神医の診察室で

  「私は牧師なのに悪夢ばかりみる」 

  「神の存在が信じられなくなったからだと思う」

  「神の話をするのが仕事なのに」という牧師に

  「一週間後に来てください。イングリッドに来てもらうから・・・」と医者

 

⑩ 地雷を踏んで足を失った男がマンドリンを弾き、街かどで「オーソレミオ」を演奏

  足を止めることもなく、通り過ぎる人たち

 

 

 

⑪ 孫の写真をとる祖母と  必死であやす父親

 

⑫ ミサの準備中、こっそり葡萄酒をラッパ飲みする牧師

 「神はなぜ私をみすてたもうたのか」

 よろよろしながら信者に「これは神の体である、血である」といいながら配り

 「信仰を失ってしまった」

 

⑬戦死した息子の墓参りをする夫

「愛するトミー、お前が恥ずかしくないように墓を手入れしているよ」

 

⑭ 廃墟となった街の上を 抱き合いながらただよう男女

 

⑮ホームに電車が入り、みんなが出迎えの家族や恋人と去った後、

迎えのこない女性がひとりベンチにすわります。

やがて男がやってきてふたりはハグします。

 

⑯ビリー・ホリディの「オール・オブ・ミー」が流れる中

幸せそうにシャンパンを味わう女性、見つめる男性

 

⑰「サラ・ショーンさんですか?」と女性に声をかけるが、

そこへ連れの男がビールをもってやってくる

「男は道を間違えた」とナレーション

 

⑱ 棒に後ろ手で縛られる男

 「やめてくれ」と命乞いするも、兵士たちは去ってしまう

 

⑲音楽にあわせて踊りだす3人の若い女性

1曲踊るとテラス席の客たちが拍手喝采

 

⑳ベビーカーの母親。 靴のヒールが折れ、はだしで歩きだす

 

㉑胸から血を流して死んだ女性を抱いて泣く男

「家族の名誉を守ろうとしたが今は悔やんでいる」とナレーション

 

㉒魚屋の店先

「やつと話がはずんでたな」と男が叫び、女にビンタ。

まわりの客たちがそれを止めるが、やめようとしません。

「オレの愛を知ってるだろ」

「知ってるわ」

 

㉓熱力学の第一法則ですべてのエネルギーの総量は変わらない、変化するのは形だけ」

と熱弁をふるう若い男。

「君と僕もまた巡り合うかもしれないけど、

その時は君はジャガイモの姿かも。トマトかも」

すると女性は

「わたし、トマトがいいわ」

 

㉔爆撃音が聞こえる部屋で

「世界征服の野望が砕け散るのを悟った男」とナレーション

ヒトラーの姿をした男が姿をあらわす

 

㉕電車のなか突然「自分の望みが分からない」と泣き出す男

「あわれな奴め」 

「泣くことも許されないの?」

「ここで泣くな」と口々に・・・

バスはまだ発車しそうもなく、この状況でいつまで待たされるの?

 

 

㉖大雨のなかで娘の靴紐を直す父親

「誕生会に向かう親子」とナレーション

 

㉗精神科医のドアをたたき

「信仰を失ってしまった、助けて」という患者に

受付の女性は「今日の診察はもうおわり」「あなたの予約は来週よ」

医師が登場するも「次のバスに乗りたいから帰る」

とふたりして患者を力づくで追い出してしまいます。

 

㉘「治療には麻酔が必要だな」と歯医者

「注射はいやです」

「じゃあ、麻酔なしで」

激痛にさけぶ患者に、「さようなら」と医者は帰ってしまう

「今日は機嫌が悪いみたいでごめんなさい、先生も問題を抱えているみたいで」

と助手の女性

 

㉙雪のちらつく日、立ち飲みバーに白衣のまま酒を飲む医者

うしろで「すばらしい夜だな」としつこく同意を求める男

 

㉚極寒のシベリアの地。

戦いに敗れて捕虜収容所に向かう兵士の長い列がどこまでも続きます。

 

㉛「スパンクル・オルソンは成績悪いのに博士号をとった」

料理をしながら夫がいうと

「あなただってナイヤガラとかピサの斜塔とかエッフェル塔とかいったじゃない」と妻

「スヴァルケンもきっと行ってるよ」

「負け犬のくせに博士号とったのが癇に障るんだ」

 

㉜何もない道で脱輪した車

直そうとするも無理、助けを呼ぼうにも誰もいない

「彼は車に問題をかかえていた」とナレーション

 

                                     (あらすじ おしまい)

 

 

 

あ!一生懸命数えていたのに、1カット足りないですね、ショック!!

 

もしかしたら、最後の車のシーンにカットがかかって、

曇り空の鳥の群れ(ファーストカットにもありました)が映し出されたのが

33番目のカットだったのかもしれません。 違うかもしれないけど、一応そういうことで…(笑)

 

それにしても、今回もまたそれぞれのシーンの関連性や物語の整合性はないに等しく

ラストでうまくつながるのかと期待してみていた人にとっては

「なんじゃこりゃ!」「オチはないんかい!」と思われてしまうでしょうけど、

これでいいんです!

23区では武蔵野館とニューマントラスト有楽町だけの公開なので

「うっかり見に来ちゃいました」という人は少ないでしょうが、

それでも、エンドロールになると同時に席を立つ人続出。

いちげんさんだとバレてしまいますよ!(笑)

 

私はロイ・アンダーソン監督の「さよなら、人類」も観たし、

「散歩する惑星」「愛おしき隣人」もDVDで予習したので「いちげんさん」ではないけれど、

確信したのは

「これは映画館で観るべき作品」ということ。

美術館で本物の絵画を見るのと、タブレットをスワイプしながらみるのくらい違いますね。

76分で33シーンだから、それぞれは2分くらいの短いシーンですが、

これ、私が美術館で一枚の絵を鑑賞するくらいの時間かもしれない(もっとじっくり見るのもあるけど)

 

CG処理では表現できないような、確かな質感、奥行き感、完璧な構図・・・

これはやっぱり絵画ですね。

 

なかには、全然意味不明のエピソードもあったけれど、

すべてのシーンを書き出してみると どれもが印象深く愛おしいです。

2分程度で短いんですけど、固定カメラで(そこそこ引きの映像で)長回しです。

だから、どこを注目するかも私たちに委ねられています。

 

㉒では、店の通路ではとっくみあいのけんかが始まってるんですけど

私はこの台の上の深海魚みたいな魚がずっと気になってしかたなかったです。

 

このシーンも、もちろん市場でロケしてはいないし、

そのほかもすべてがセット撮影で、

遠景も手書きの絵(マット・ペインティング)だったり、手作りのミニチュアだったり・・・

ともかく、CGなしの手作りアナログの世界です。

 

画像処理だけで「効率的に」誰もがそれなりの映画をつくれようになると

美術デザイナーや大道具係の仕事とかどうなるのか、心配になっていました。

本作は巨大なスタジオで膨大な規模での「ものづくり」が展開されたようですが

ベルリンで銀獅子賞をとっても「世界的ヒット」というわけではなく・・・

ペイできたのかな? 心配・・・

 

    この下の廃墟も、ぜんぶジオラマだそうですよ。 ↓

こちらは元ネタのシャガールの「街の上で」

 

 

 

原題はOM DET OÄNDLIGA(星が動いてこの文字になるオープニングカットも素敵!)で

「永遠性について」という意味。

まさにこの作品の意図しているところなんでしょうが、

私は「ホモサピエンスの涙」という邦題も嫌いじゃありません。

「さよなら、人類」とも関連づけられるし、国や性別や時代やそういうものを取り払って

悩んだり争ったり喜んだり絶望したりする姿を、

人類(ホモサピエンス)以外(神とか宇宙人とか?)の目線で

眺めているように思えます。

彼らが「ホモサピエンスを知るための学習教材」にも思えます。

 

 

 

前作ではそれぞれのシーンにオチらしきものがあったし、

サムとヨナタンという冴えないけど愛らしいセールスマンコンビのコント仕立てになってたから

本作よりはハードル低かったかも。

 

これ、日本やハリウッドで似たようなものを作っても、きっとダメな気がします。

雲におおわれた暗い空やクラシックな街並み、冴えない人たち・・・・

スウェーデンが舞台だから、きっとしっくりくるのでしょう。

絵ハガキを作ったらいいのに。。。と思ったら、

今日の入場者にはステッカーのプレゼントがあったそうです。(上の⑮か㉜)

昨日見てしまって、残念でした。

 

万人におススメはできないけれど、好きな作品でした。

「散歩する・・・」も「「愛おしき・・・」もDVD鑑賞でイマイチ入り込めなかったので

映画館で集中してみた方がいいと思います。

 

有楽町の空も映画の世界観を再現したかのような

色を失った曇り空でした。