映画「シチリアーノ 裏切りの美学」 令和2年8月28日公開 ★★★★★

(イタリア語、シチリア語、ポルトガル語、英語; 字幕翻訳 岡本太郎)

 

1980年代初頭のイタリア。

マフィアの争いが激しさを増す中、パレルモ派の大物であるブシェッタはブラジルに逃走。

祖国に残された家族や仲間はコルレオーネ派に報復され、ブシェッタも逮捕されてイタリアに引き渡される。

帰国したブシェッタにマフィアの撲滅を目指すファルコーネ判事が協力を依頼。

麻薬取引と殺人が横行する犯罪組織コーザ・ノストラに幻滅していたブシェッタは、

判事への協力を決意する。                                 (シネマ・トゥデイ)

 

1980年9月4日。  イタリアのヘロイン市場、シチリア、パレルモ。

麻薬取引で激しく対立していたコーザ・ノストラのパレルモ派とコルレオーネ派ですが、

聖ロザリオ祭りのこの日ばかりは、新旧マフィアも休戦となり

盛大なパーティで顔をあわせます。

 

パレルモ派の幹部、トンマーゾ・ブシェッタは、3人目の妻クリスティーナと参加していましたが、

身の危険を察した彼は、前妻の息子たちを永年の友人ピッポ・カロに託し、リオに向かいます。

 

彼の予感通り、パレルモ派の主要メンバーは、トト・リイナに命じられたコルレオーネ派の殺し屋に

次々に残忍な殺害方法で消されてしまいます。

残してきた息子たちも行方不明になり、カロとも連絡が取れなくなってしまいます。

 

ブシェッタはブラジルには偽造パスポートで入国し、偽名を使ってビジネスをしていたんですが、

ある日突然、麻薬取引容疑で警察に踏み込まれて、妻ともども拘束されてしまいます。

過酷な拷問や、妻をヘリコプターから吊って海に落としそうにするのを見せたり、

口を割らせるためのブラジル警察のやり口はなんでもあり、なんですが、

それでも彼は「血の掟」を守って黙秘を続けます。

 

イタリアに送還直前に彼は毒を飲んで自殺を図りますが、未遂に終わり、

1984年7月14日、ブシェッタはローマに送還され

マフィア撲滅に燃えるファルコーネ判事の取り調べを受けます。    (あらすじ 前半ここまで)

 

最初のパーティーシーンでは「ゴッドファーザー」を連想するような

豪華なファミリーのそろいぶみなんですが、

あまりにたくさんいすぎて、誰が誰やら・・・・

一応名前がどんどんクレジットされるんですが、スピード速いし、

名前長いし、サルバトーレみたいな名前だけでも4人くらいいたかも。

 

 

あとでこの相関図を見つけて、「予習していけばよかった!」と後悔しましたが、

知ってる俳優がキャスティングされているわけでもないから、

やっぱり覚えるのは私には無理です(涙)

 

右上のブシェッタがブラジルに行った後も(この時彼は仮釈放中だから、逃亡というのが正しいかも)

反コルレオーネ派がどんどん殺されていくのですが、

その数が半端ない!

画面の左下に数字のカウンターが映し出され、あっという間に3桁を越え、156?まで!

そして前妻の息子たちも、やっぱり殺されていました。

なんと、信頼していたカロが敵方に寝返ってその殺しの片棒を担いでいたことを知って

ブシェッタの気持ちが揺らいでいきます。

 

ヤクザ映画でも仁義が大事、マフィアの世界でも、仲間を売ったりするのはもっての外で

取り調べでもブシェッタは

「私は改悛者でも密告者でも恥知らずでもない」

と、何も話すつもりはないと言い切るのですが、

取り調べにあたったファルコオーネ判事は 彼に敬意の心を忘れず

時間をかけてブシェッタの言葉を引き出していきます。

 

あらすじ続き ネタバレです。

 

ブシェッタは自分のプライドを尊重してくれる判事に対して心を開き、

だんだん信頼の気持ちが芽生えてきます。

自分は名誉ある男として、組織に入った経緯から

ここで告白することで代償を払うべきと考えるようになりました。

 

ブシェッタの話は自身の「身の上話」のようなもので、たとえば

「16歳の時、はじめて人を殺すように命令されたものの

その男には幼い息子がいたので殺さなかった。

自分は女性や子供には手をだすことはない」とか

「自分は女好きだが、権力には興味がない。

リイナにとっては女より権力。それで彼ににらまれた」とか

話したいことを話しているだけなのですが

ファルコーネ判事はカギのない個室を用意して

リラックスして話せる環境を整え、

辛抱強く聞き役に徹してくれます。

 

「判事のどぶさらいを手伝ってやろう」

つまり、この後、ブシェッタは司法取引に応じて、仲間の実名や悪事を判事に売ったのです。

なんと120もの犯罪を暴露し、

コルレオーネ派からなんとか逃げ切ったトトゥッチョ・コントルノも 捜査協力者として加わります。

 

お陰でマフィアの一斉摘発が進み、次々に大物が逮捕されますが、

世間的にはブシェッタは裏切り者なので、マフィアとは全く関係のない

彼の姉の家族が殺されるなどの、報復にもあいます。

 

1986年、マフィア幹部を裁く裁判がはじまりますが、

ブシェッタやコントルノは前の方のガラスで仕切られた

(コロナの感染予防の隔離ブースみたいな)証言席にいて、

一方、たくさんの被告たちは後方の檻に入れられて、ぐるりと取り囲んで、大声でヤジをとばしています。

コントルノが証言をはじめると、

「シチリア訛が酷くて聞き取れない」と弁護士たちまで大声で怒りだすし、もうめちゃくちゃ。

イタリアの法廷ってこんななのか?

あるいは、被告が多いからまとめてやろうとするとこうなるのか??

 

自分を裏切ったカロとも対決。

希望すれば、1対1で対戦(というか、罵りあい)できるシステムのようです。

被告たちには重罪が課され、協力者のブシェッタはアメリカに渡り、自由の身となりますが、

敵のボスのリイナはまだ捕まっていないので、常に報復におびえる日々でした。

 

1992年5月23日。
判事のファルコーネがパレルモ空港から車で移動中、爆撃により殺害されます。

爆弾が高速道路に仕掛けられ、判事だけでなく

妻や護衛の警察官など5人が殺され、たくさんの負傷者もでました。

もちろん首謀者はコルレオーネ派のリイナで、彼は翌年ようやく逮捕されます。

 

ブシェッタの回想

最初の殺しを命じられた男の息子が結婚した夜、

ブシェッタはその男のところへ近づき銃弾を放ちます。

覚悟していたかのようにゆっくり倒れる男。 

 

「最後はベッドの上で死にたい」といっていたとおり、

2000年に71歳で病死しました。               (あらすじ ここまで)

 

 

家に帰ってからネットで調べたら、なんだか映画でみたことと違うことが多くて

たとえば、ブシェッタは司法取引で刑を免れたと思っていたら、ちゃんと4年も服役していたとか・・・

なので上のあらすじも正しくない確率が高いです。

なんか内容は正確に把握できていない実感はあるんですが、

べらぼうにいい映画を観たという満足感だけが後を引く・・・・

そんな不思議な作品でした。

 

なに派だろうが、犯罪にかかわっている奴らは全員悪党なんですけど、

それなりに誇りや矜持があって、それは絶対に否定されたくないわけです。

殺せといわれた男を殺すのを「息子が結婚するまで待ってやった」っていうエピソードも

個人的にはなんだかな~という感想で、

「情けがある」なんて絶対に思えないんですけど、

それも彼にとっては、絶対に守るべきことなんでしょうね。

 

どいつもこいつも悪人だらけですが、唯一「人格者」として登場するのがファルコーネ判事。

彼は業務として正しいことを勇気をもってやっているのに

常にマフィアの報復を恐れなければならず、

充分用心していたにもかかわらず、「道路ごと爆破」というとんでもない方法で殺害されてしまいます。

これにはあきれるばかり。

 

ブシェッタの3人目の妻クリスティーナもよくできた女性ですよね。

「極道の妻」の鑑みたいな人で、彼女だけは今も健在とか。

彼女をヒロインにして映画が1本できそうです。

 

というより、この映画自体が10話くらいの長いドラマの「総集編」「ダイジェスト版」みたいで

同じような面構えの男が次から次へと登場しては、テンポよく(?)殺されていくので

すべての画面で情報量がすごく多いのです。

 

予備知識なく、ただただ一生懸命みていたので、音楽をじっくり聴き損ねました!

けっこう聞いたことある曲もあったはずなんですが、記憶に残らず。(マンドリンの曲、きれいだったな)

一曲だけタイトルがわかったのが「ある恋の物語」

ラテンのスタンダードナンバーで、日本語で歌ったことがあります。

実写映像でブシェッタ本人が歌っていましたが、けっこう上手でしたよ。

 

最後に

「マフィア」といえば「イタリアンマフィア」、「シチリアが発祥の地」、という認識だったのですが、

どうもここでは「コーザノストラ」と限定するのが正しいようです。

でも長いし、ついつい、マフィアと連呼してしまいました。あしからず。