恐ろしいほどの仕事の忙しさにかまけて、だいぶブログをご無沙汰しておりました。

ようやく平常に近い仕事のペースに戻ってきたので、久しぶりの書き込みです。

今年6月9日から『道~白磁の人~』という映画が全国ロードショーになります。

映画『道~白磁の人~』公式サイト

この映画は、明治半ばから昭和の初めにかけて生きた一人の男の生涯を描いたものです。

主人公の浅川巧(あさかわ たくみ/1891~1931)は、山梨の八ヶ岳山麓の出身で、若くして朝鮮美術を研究する兄を慕って、日本に強制併合された朝鮮半島に渡ります。

そして、農林高校で培った林業の知識と技術を活かして朝鮮林業試験場の林業技師の仕事に就きながら、朝鮮の土に馴染む種苗とその育苗法を発見し、生涯を朝鮮半島の荒れ果てた山の再生のために力を尽くしました。

その朝鮮の大地と自然に学ぶ真摯な姿勢や朝鮮の人たちに対して謙虚で誠意を持って接する姿勢、そして朝鮮の民衆工芸に対する熱いまなざしが、朝鮮の人たちの心を打ち、多くの人たちから慕われ、死後も朝鮮(韓国)の心ある人たちによって大切に墓地も守られてきました。

これまで浅川巧は知る人ぞ知るという存在で、知る人には兄の伯教(のりたか)とともに、朝鮮の庶民が日常雑器として使用してきた「白磁」の美しさを発見し、民芸運動の創始者・柳宗悦に紹介し、民芸運動の「美意識」の基本をつくった一人として評価されています。

しかし、この映画では、むしろ林業技術者としての彼の姿をクローズアップしています。

当時の主流は生産性の高い外来種の導入による植林苗の増産でしたが、それに異を唱えて「朝鮮の土には朝鮮で育った木がいちばん適しているはずだ」との考えの元で、在来種の採取し、試行錯誤を繰り返しながら、「露天埋蔵法」という朝鮮五葉松の育苗法に到達します。

また、この映画がもう一つのテーマ(伏線)として描くのは、植民地政策のもとで多くの朝鮮の人々が虐げられ、日本人により差別される中で、朝鮮の人々やその生活に寄り添って生きようとする彼の姿です。これについては林業試験場で助手として一緒に働くチョンリムという青年との友情を軸に描いていますが、植民地支配という現実が二人の友情に暗い影を投げかけ、大きなクライマックスを迎えることになります(映画をぜひご覧下さい)。

以上のように、舞台は朝鮮半島ではありますが、山づくりという点からも、人と人が民族を越えて理解しあうという点においても、多くのことを投げかけてくれます。

「露天埋蔵法」という技術をとってみても、当時の日本山林会の技術雑誌にも画期的な方法として何度か発表されており、韓国では今でも基本技術として林業の技術本には登場してくるものだそうです。

私の職場で制作する農業高校生むけの季刊雑誌『リーダーシップ』最新号で、主演の吉沢悠さんのインタビューを取り上げています。ご参考までにご覧下さい。


かいたん☆かいたん 八ヶ岳縄文人への道


浅川伯教・巧兄弟資料館ブログ


※露天埋蔵法については、次のサイトが詳しく紹介しています。
朝鮮五葉への旅