また「この時期」がやってきました。

と言うのも、毎年この時期になると、たいていこんな感じの問い合わせを受けます。

「○○放送の◇◇という番組の△×と申しますが、今度番組の中で全国のお雑煮について取り上げたいと思っているんですが、全国のお雑煮に詳しい先生をご紹介いただけませんか?」

放送局に限らず、新聞社や雑誌(この媒体は週刊誌を除けば、もう少し問い合わせとしては早い時期)の編集部あたりからも来ます。今日は神戸新聞の方から問い合わせをいただきました。

本当に、これは恒例です。何度やっても、毎年正月時期にはお雑煮話題は欠かせません。それに、この話題は、知っていれば誰もがちょっと得意げに、東西の食文化や食の地域性についてウンチクを語れるところが、いつになってもお雑煮話題が受ける秘密かも!?

さて、以前私がやった仕事(お雑煮マップのパネル作成)を元に、3分で学べる全国お雑煮比べの解説をいたします。


かいたん☆かいたん 八ヶ岳縄文人への道
日本スポーツ振興センターからの依頼で作成しました


なお、これらの話題のすべては、郷土料理研究家・奥村彪生さんの受け売りですので、ご了解ください。出典は、(財)味の素食の文化センター が発行している「季刊ヴェスタ」No. 31に掲載する、奥村先生の論文「雑煮と組重」です。

かいたん☆かいたん 八ヶ岳縄文人への道
Vesta No31の表紙(この頃は非売品、No.32から販売物に)

かいたん☆かいたん 八ヶ岳縄文人への道
これがパネルの元になった奥村先生の図です

さて、始めます。

まずお雑煮の意味についてですが、これは、正月に幸福をもたらしてくれる年神様さまを迎えるために、神様に供える地域の産物(野菜、いも、魚など)をもちとともに一つの鍋で煮て、神様と一緒に食べる料理とされています。

ルーツは平安時代(794年-1192年)、公家たちが正月祝いに中国伝来のワンタンをもちに代えてあわびの汁で煮て食べていたものといわれ、室町時代(1397年-1573年)になって、はじめて雑煮と呼ばれて上流階級の祝いの席でよく出されるようになったとのこと。

お雑煮が正月祝いの食べものとして全国に広まったのは江戸時代(1603年-1868年)の元禄(1688年-1703年)以降だそうで、この頃から地方色豊かな食材を使って作られるようになります。

現在でも見られる各地のお雑煮の特徴は、どうも江戸時代のこの頃から続く、地域ごとの食文化の伝統を引き継いでいるようです。

それでは、次に地域ごとのお雑煮の特徴をいくつかの角度から分けてみます。

よく言われるのは、西の「丸もち」、東の「角もち」です。

丸もちは鏡もちの分身としての意味があるそうで、京都の文化を受けた古風なもの。一方、のしもちを切った角もちは、それを略したもので、江戸の文化を受けた新風と言えるようです。だいたい関が原を通るラインを境さかいに東西に分けられます。

丸もち、角もちの調理の仕方も少し違います。一般に、「煮る」丸もち、「焼く」角もちと言われます。

丸もちの地域では、もちを煮てから椀わんに入れてみそ汁を張ります。でも、九州では同じ丸もちでも、焼いて用いる地域が多くあるようです。切りもちは焼いて用いるところが多く、焼くことで香ばしさが増し、すまし汁の味が引き立ちます。

知るの仕立も違います。全国的には醤油による「すまし仕立て」が圧倒的に多いようですが、近畿には「みそ仕立て」が多いそうです。

なぜかというと、醤油をベースにした江戸のすまし仕立てが、江戸時代の参勤交代にともなって全国に広まったといわれています。一方、北陸(赤みそ)から近畿(白みそ)にかけての地域はみそ仕立てです。珍しい仕立てとしては、山陰の出雲周辺での小豆汁があります。

では、お雑煮をおいしくするだしについてはどうでしょうか。全国的におは「かつお節だし」が多いみたいです。でも、京都のように「こんぶだし」などもありますし、各地に独特なだしを使ったものもあります。

たとえば、いわしの煮干しを使う青森県、山形県酒田地区、宮崎県、焼きはぜ(を使う宮城県仙台地区、とびうおを使う福岡県、長崎県など、その土地で手に入る魚をだしとして用いているところもあります。

最後に、里いもを入れる地域です。もちをお雑煮に入れる以前は、里いもが主に用いられたといわれています。現在では、里いもだけでなく、もちも入れていますが、主に関東、近畿、九州の一部の地区に今でもその名残りが残っているそうです。

ちなみに、私のふるさとは、八ヶ岳の南麓にある山梨県北杜市長坂町というところですが、以上の分類がほとんどははまりますが、角もちなのに焼かないところは丸もち文化の影響なんでしょうか。仕立ては醤油で、だしはかつお節です。具は季節の野菜として、にんじんやはくさい、だいこんです。

皆さんのお宅ではいかがでしょうか。

いくつかの地域の見本を以下紹介します。

●北海道
家の祖父母の代がどこの地方出身かで 違ってくるようです。
●青森県
材料:角もち、ごぼう、にんじん、鶏肉、かまぼこ、ねぎ、せり、醤油
●福島県(中通地方)
材料:角もち、鶏肉、ごぼう、にんじん、だいこん、しいたけ、凍り豆腐、せり、さといも、ゆず等
●千葉県(山武地方)
材料:角もち、はばのり、あおのり、かつお節 醤油
●愛知県(尾張地方)
材料: 角もち、もちな、削りかつお、醤油、花かつお
●福井県
材料:丸もち、みそ、かつお節、だしこんぶ
●奈良県
材料:丸もち、雑煮だいこん、さといも、きんときにんじん、とうふ、白みそ、こんぶ
●島根県(出雲地方)
材料:丸もち、あずき、砂糖、塩
●高知県(中央部)
材料:角もち、さといも、みずな、かつお節とこんぶのだし汁、みりん、薄口醤油
●鹿児島県(薩摩地方)
材料:丸もち、干しくるまえび、さといも、だいずもやし、にんじん、しゅんぎく、乾しいたけ、かつおだし、えびのもどし汁、醤油
●沖縄
雑煮で新年を祝う伝統がないそうです。