末期のがんで余命いくばく、という状態で入居された男性。

家族は「最後に本人の好きなことをさせてあげたい」と切実に願っていた。


私たちもできる限りその「好きなこと」を叶えようと、

みんなであの手この手でお手伝いしていた。

そしたら──あら、不思議。

なんと、ガン、消えたらしい。


医療の神様もびっくり案件。

今では認知症が主病歴になり、元気に暮らしている。


そんな彼、ちょっとした“男のプライド”もまだまだ健在。

男性職員にはやたら厳しくて、介護拒否も日常茶飯事。

でも、女性職員にはニッコニコで協力的。

若い頃は夜の街で羽を伸ばしていたという武勇伝もあり、

高齢になった今も「介護士=ホステスさん」説を信じてる節がある。


最近は少しずつ体力も落ちてきて、以前のような勢いは見られなくなった。

でも、つい先日──

いつも私のことを「おねえさん」と呼んでいたのに、

突然「姫!」と呼んできた。


・・・姫!?


どうやら、長年の“夜の習慣”が抜けきらないらしい。

もうその瞬間、思わず吹き出してしまった。

人生、最期までキャラはぶれない。

それがこの人の生きる力なんだと思う。