介護美容(美容福祉)とは
介護美容、または福祉美容という言葉をご存知ですか?まだまだ十分に認知されていない分野なので、知らない方の方が圧倒的に多いと思います。介護美容(福祉美容)とは主に高齢の方にメイクやネイルなどの美容を行うことをいいます。私たちは、例えば落ち込むことがあって「誰にも会いたくない、何もしたくないな」と思っていても、口紅やチークひとつで「外に出て、前から気になっていたあのお店に行ってみようかな」と思ったり、眉毛が上手く描けたとか美容院でカットしてもらった髪型が思いのほかステキに仕上がると「前から会おうねと約束していた○○さんに連絡をとってみようかな」と、自然と前向きな気持ちになります。美容は女性にとって一瞬で気分を前向きにしてくれる魔法のようなものですよね。この魔法は、とし若く、自分で自分の美容を行える人のためだけのものではないのです。実際に、私は現在介護施設で働いているのですが、利用者さんに「○○さん、今日のブラウスとても素敵ですね。」「△△さんの今日の髪型、とてもよくお似合いです!」と声をかけると、少し恥ずかしそうにされる方も中にはいらっしゃいますが、皆さんとてもにこやかにお話してくださいます。「このブラウスね、娘が買ってきてくれたの。」「昔はこれよりよっぽど凝った髪型もしていたのよ」と、お話が膨らみ、今まで知らなかったご家族との関係性やご本人の意外な一面を知ることもよくあります。そんな話になると、仕事も放り出して、みんなで椅子に座って気がじっくりとお話したくなります。こういったファッションや髪型ももちろん美容の一部です。このように、女性にとって自分の施した美容を他人から気にとめられることは、自己肯定感を上げてくれます。これは、高齢の方も同じであると介護施設で働いている私は実感しています。しかも、介護が必要となった方に対する美容の提供は、単に自分の気持ちを明るくするだけでなく、もっとすごい効果があるのです。認知機能の低下予防もその中の一つです。私は2020年の10月から、東京・原宿にある「介護美容研究所」という学校に1年間通い、そこで介護美容を学びました。カリキュラムの中で介護美容の技術を学び、いくつかの介護施設に実習に行かせていただきました。そこでは認知症の方もたくさんおられ、実際に施術させていただいたのですが、皆さんとても喜んでいただけました。中にはネイルをしたことで自ら身だしなみを整えるようになった方や、簡単なポイントメイクをするだけで表情が生き生きとし、施設スタッフの方も「見たことない!」とおっしゃるようなとびきりの笑顔を見せてくださる方もいらっしゃいました。「介護美容研究所」の先輩方の実習体験の話を聞いても、「たった数時間の関わりで、そんな変化が?!」というようなびっくりする変化ばかりです。もちろん、人によって効果の程度や変化が現れるスピードは違います。しかし、木谷佳子先生も著書「福祉美容の世界」でおっしゃっていたように、人間誰しも、誰かに「大切に扱われている時間、その実感」がとても大事だと思うのです。人はだんだんと老いを重ねるにつれて、自分に課せられていた仕事や役割から解放され、いつの間にか日常で当たり前にやっていたことからも遠ざかっていきます。それと比例して自己肯定感・自尊心も少しずつ低くなっていき、誰かの手を借りなければ日常生活がままならなくなってくると、人の手を借りてまでお化粧をしたいなんて言いづらい、おしゃれだけどちょっと複雑なデザインのお洋服を着たいなんて言うと着させにくいと思われるのではないか、と考えるようになります。自分でお化粧をしても以前のように上手にできないから、お化粧しても恥ずかしいと思う方もいるかもしれません。自分の身なりに自信がなくなると何となく外に出づらくなり、刺激が少ない生活になり、認知症もひどくなるケースもたくさんあります。介護美容はその時間、その方と丁寧に接する時間を持つことができます。その方の表情や言動から自分の美容をどのように思っていらっしゃるのか、本当はどのような自分でいたいのか、好きな色や好きな雰囲気はどのようなものか、言葉が少なくても赤と青ならどちらに好みが傾いているのかをよみ取り、その方がワクワクしときめく時間を提供することに全力を注ぎます。こうした時間は、その方にとって若かりし頃の自分を思い出したり、その時好きだった歌手や趣味、お友達とした何気ない会話を思い出すなど、大きな刺激になっていきます。ネイルやお化粧をせず、お話だけでも良いのです。逆にネイルやお化粧で変化していく自分を感じ、お話が全然できなくてもかまいません。「美容」という面からその方にとってたくさんの刺激になったり、お気持ちが前向きになったらとても嬉しいです。また、日々自分の役割を果たしながら介護を担っているご家族様や、介護に携わる職種の方々にとっても、私たち介護美容家が少しでも負担を軽減する一因になれたらと強く願っています。そして、介護美容がご利用者様に良い影響を与えられたら、この願いも十分に叶えられると思っています。介護美容は現在、介護施設のレクリエーションや訪問サービスで提供されることがほとんどです。中には「美容ルーム」が設置されている施設では常駐の介護美容家がいるところもあるとか・・・。すごすぎる!でもとっても素敵ですよね。介護美容は現在保険外サービスとなっており、利用するにはお近くの介護美容家を検索していただき、その者に直接アポイントメントをとって利用することになっています。インスタグラムやTwitterなどのSNSで「介護美容」と検索していただくと、見つかりやすいかと思います。私は現在2歳と4歳の子どもの子育て中であり、積極的に介護美容家として活動することはなかなか困難な状況なのですが、少しずつ介護美容で高齢の方と関わる機会を持てたら、と思っています。将来、この介護美容が日本の介護の世界に当たり前になって、介護保険内で使えるようになったら嬉しいなと思います。そのために、私もブログや自身の活動を通して介護美容やその素晴らしさを皆さまにお伝えできればと思っています。