補論1-3 成立と非成立の狭間としての未承認国家について | 中国について調べたことを書いています

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2.香港・六七暴動
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4.浦東新区から雄安新区へ
5.尖閣問題の解決策を探る
6,台湾は国家か

(3)成立と非成立の狭間としての未承認国家について

(2)で述べた国家と非国家の間のグレーゾーンの、もっとも国家寄りに位置するのが未承認国家度といえる。未承認国家というのは、国家の成立要件としては承認を必要としないという立場、つまり宣言的効果説をとる立場からの言い方である。つまり、領土、国民、政府、外交能力という4つ(あるいは合法性も含めれば5つ)の要件を満たし国家であるが、承認はされていないという状態である。

 

ある国家の一部地域が一方的な分離独立を行う場合、国家としての要件を満たしていたとしても、法的親国の承認が得られない場合は、未承認国家という扱いになる。さらに法的親国が国家としての要件を認めない場合は、未承認国家とさえ認められず、法的親国の一部、法的親国の一地域という扱いになる。

 

 

宣言的効果説

創立的効果説

他国の承認あり

国家

国家

承認はないが、それ以外の要件を満たす

未承認国家

国家ではない

(法的親国の一地域)

承認はなく、それ以外の要件も満たさない

国家ではない

(法的親国の一地域)

 

この未承認国家の地位は木村によれば以下のとおりである。

 

「その政治的存在に基づき実現可能な事項に限定して、かつ現実に発生した個別の事案の処理に必要な範囲で、国際法上の権利能力を持つにとどまる。未承認国は、承認の法的効果を分割可能な範囲で限定的・断片的に享受するのである。未承認国であっても、その政治的存在に基づいて、とくにその領土保全・独立・維持・繁栄を確保するため、政治体制を組織し立法・執行・司法・強制に関する国家管轄権を有するのであり、それに伴う一般的な権利義務がみとめられる」(木村草二「国際法」201ページ)

 

 一方で「未承認国の国際法上の権利能力は、国家間の公式関係においても制限される」(木村草二「国際法」203ページ)として、以下のような例を挙げている。

 

「(a)未承認国による国際組織への加盟の申請については、外交上の承認を与えていない諸国が賛成票を投じるかどうか、多くを期待することはできない。また(b)これら諸国との公式関係の設定が必要かつ可能であっても、原則として正規の外交関係にはならず、具体的な必要に応じて随時、限定的・断片的な接触にとどまり、一般国際法上の規律にはなじまないものである。(中略)(c)両国間で国際法上の合意が締結される場合であっても、その内容は専門技術問題または緊急の政治問題に限られる」(木村草二「国際法」203-204ページ)

 

 つまり、この未承認国家は、限りなく国家に近い存在である。したがって、(1)で挙げた4つ(国際法上の主体、国連加盟、国益の最大化、それ以外)のいくつかを享受できる場合がある。また、すべてが得られなかったとしても、部分的に享受できる可能性があり、さらにその政治実体が政治的、経済的に強い力を持つようになれば、それを背景としてさらにその範囲を広げることもできる可能性がある。国家ではないという大きな制限を負いつつも、国益を最大化すること、特に経済的な力を最大化することは、十分に可能である。

 

 その結果、あえて国家として独立しなくてもいいという考え方が生じてもおかしくない。形としては法的親国の一部であるという立場は容認(あるいは無視?)して、自らが政治的にも経済的にも独自の道を歩み、独自の成長をし、国民が豊かな生活ができれば、国家であるか、そうでないかはそれほど重要ではなくなってゆくことも考えられるわけである。

 つまり例えば「未承認国家」であることを肯定的にとらえることも可能ではないかということである。あるいは、一部の国であっても承認国がある限り、それらの国と国家しての関係を保っていれば、国際社会で一定の地位を占め、一定の存在感を示すことができるということである。

 

 もちろん国家として承認され、もっとも厳しい要件を満たしたうえで国家として認められれば、主権を認められ、国連に加盟して総会で一票を投じることができる立場になれば、利益は大きい。しかし、それが得られなかったとしても、国際社会で一定の政治実体として存在感を示せるだけの経済的、政治的、軍事的、文化的な実体となれば、その国を承認しない国もその「主権」を全く無視するわけにはいかなくなる。

国家として認められていなくても、自由貿易協定のような経済的な協定を結ぶことは行われている。国際機関についてもWTОには台湾も参加しているし、他の機関でも未承認国がオブザーバーとして参加が認められるなど、ある程度国家に準ずるような形で扱われることはある。

 

 このように考えてみると、「台湾は国家か」という問いに「台湾は未承認国家だ」と答えたとしても、実質的な意味はあまりないように思える。要するに、台湾がさらに経済を発展させ、軍事力やソフトパワーを含めたパワーを増大させ、国際社会での存在感を高めていけば、ますます国家であるか否かはあまり重要でなくなっていくのかもしれない。

 

 ただ、未承認国家というのは実体上も、概念上もやはり不安定な状態である。

 もし未承認国家を国際法上の主体として扱えば、既存国家はこの「未承認」国家とも条約を結ぶなり、大使の交換を行う成り、そうした正式な外交関係を行うことはできるはずである。しかし、もし条約を結んだとすると、それは暗黙の国家承認を行ったということになりはしないか。そうすると、条約を結んだ時点でそれは承認済の国家となり、「未承認国家」という立場ではなくなってしまう。また、もし未承認国家だからという理由で条約を結ばないとしたら、それは国際法上の主体として認めていないことになるし、国際法上の権利義務も認めていないことになる。そうだとすれば、それは国家として扱っていないことになるのではないだろうか。

 

 ある意味では、「未承認国家」というのは過渡期の存在、あるいは暫定的な存在と言えるのかもしれない。「台湾は未承認国家である」という答えは苦し紛れの逃げでもある。