先週は、武富士の贈与税裁判の最高裁判決で、国税側が敗訴し、巨額(2,000億円弱)の還付がなされる話題がありました。

この事件は、武富士の会長が相続対策で、武富士株を外国株に転換させて(会長等が保有の株をオランダの会社に移す)そのオランダの会社の株を息子(贈与時は、香港在住)に贈与させるというスキームでした。

当時の税制においては、非居住者が贈与により受取った国外資産は、日本の贈与税の対象にならなかったからです。香港も贈与税ないですし。

他にもやってた方はそれなりにいらっしゃったと思うのですが、武富士の場合は、あまりにも巨額だったから問題になったわけです。

争点は、息子の住所は、香港かそれとも日本か。1年のうち3分の2ほど香港にいらっしゃったのですが、無理やりやっていますという感じだったみたいね。いかにも、贈与税はずしのためという意思が見え見え。

でも、香港に1年の3分の2ほど滞在しているという事実は曲げられない。どのようなことを腹の中で思っていたかなんて住所の判定には関係ないし、そんなことで判断が覆されると法の支配がおかしくなる。当時の法にあてはめて判断すると、やはり長男は非居住者といわざるを得ない。日本は租税法定主義ですから、おかしなことをさせないようにするためには、おかしなことができないような法律を作らないとだめ。

裁判官須藤正彦さんの補足意見として「結局、租税法律主義という憲法上の要請の下、法定意見の結論は、一般的な法感情の観点からは少なからず違和感も生じないではないけれども、やむを得ないところである。」

税の世界で20年くらい生きている人間としては、最高裁の判決は全くごもっとも。いや、そうじゃないと困る。

でも、金額が巨額すぎて、だって、2,000億円って、平成23年の税制改正で相続税等の増税による増収額と同じ規模なんでしょ。金持ちから税金とれないから、普通の人から搾り取るといわれそう。

確定申告の時期だし、国会も危うい状況なのにね。

逆に長男さんの立場にたつと、2,000億円ももらって焼け太りといわれそうですけど、還付加算金の400億円部分は、雑所得として、50%は税金にもっていかれるし、裁判費用も必要経費にならないみたい。それに、1,600億円の贈与税の納税資金を借金で賄ったとしても利息が必要経費になるわけでもないから、ほとんどお金は残らないのではないのかなあ。にもかかわらず、過払い金請求の人たちにぎゃーぎゃー言われて、武富士もつぶれちゃったし、ちっともいいことがない。

消費者金融「武富士」元会長夫妻から長男への株贈与をめぐる訴訟で、最高裁が約1330億円の追徴課税を取り消す判決を言い渡し、国税側が逆転敗訴したことは、税金をめぐる根本的な問題を提起している。

贈与があった1999年時点の税制では、住所が海外にある日本人が、海外にある資産を贈与された場合、非課税になる。長男は、元会長夫妻からオランダ法人の持つ武富士株を贈与され、東京国税局は05年、約1650億円の申告漏れを指摘。長男は当時、武富士と香港子会社の役員で、国税当局は「住所は日本」と判断したが、今回、最高裁は「生活の本拠が日本だとは言えない」との判決を出した。これで国税当局の敗訴が確定し、国税当局は他の税務訴訟も合わせ、2000億円を返還する。個人への課税処分への取り消しでは過去最高額。

確かに元会長夫妻と長男との間には、贈与税逃れの意図があったのかもしれない。ただ、問題は、日本の富裕層がわざわざ海外に住所を移し、実際にそこに住まなければならないほど税金が高いということだ。 贈与税は、贈与額が1000万円を超えると、50パーセントの税率がかかる(相続税は3億円超で税率50%)

創業社長が3億円以上の財産を築くケースはいくらでもある。それを子供の代に渡そうとしたら、半分は政府に取り上げられるということが公正な社会だろうか。「格差をなくす」ということなのだろうが、現実は3代にわたって相続なり贈与なりをすれば、ほとんどすべての財産が政府に奪われるということになる。日本から富裕層をなくす仕組みと言われても仕方がない。江戸時代は「五公五民」(税率50%)で重税だと言われたが、それと同じことが現代でも行われている。

武富士は強引な取り立てなどで社会問題にもなったが、贈与税、相続税の問題はそれとは別だ。

現在は法改正がされ、海外に住んでいても課税対象になるという。そこまでして財産をむしり取っていく国税当局の“執念”はすさまじいものがある。結局は、3億円以上持っているお金持ちは、日本人をやめるのが一番いい選択ということになる。


次は一般の女性の見解を乗せます。


最後に私の見解も書こうと思います。

武富士元会長の長男が起こした租税返還訴訟を例に、税務当局の論理と裁判所の判断を見ていこう。

一審(東京地裁)ではまず、香港に居住していたとされる3年あまり、税務当局が所得税を課していないことが争点となった。所得税も贈与税も住所によって課税の是非が判断されるのだから、所得税を課さないのであれば贈与税も非課税であるはずだし、贈与税を課税するのなら所得税分も追徴課税すべきだからだ。

これに対して税務当局は、「所得税の住所と贈与税における住所は必ずしも同一ではない」と反論した。所得税はその年度ごとに納める税金なのに対し、贈与や相続は通常1回かぎりであり、それ以前の個人史(居住暦)すべてが考慮の対象となるというのだが、この論理は一審判決では退けられている。

現実には、香港在任中の長男の所得は大半が香港に設立した法人から支払われており、課税は困難であった。そのため、住所の判断で二重基準(ダブルスタンダード)を導入せざるを得なくなったのだ。

次いで税務当局は、香港の法人に実態はなく、個人資産や負債が日本国内にあり、東京の実家には本人の部屋があったことなどを理由に、「居住地は日本と推定できる」とした。

だが判決は、長男は成人した独身男性であり、両親から自立していることは明らかで、帰国時に実家に戻ったとしても「国内に生計を一にする配偶者その他の親族」がいるとは言えないと判断した。職業に関しては、たとえ事業に成功しなかったとしても、父の期待に応えるべくベンチャーキャピタルで成果を上げようとしていたことは否定できないと認定した。

そのうえで、贈与前後の3年半の間で65.8%を香港で生活し、国内には26.2%しかおらず、香港のサービスアパートを2年契約で賃貸していることなどを理由に、追徴課税は「原告の租税回避意思を過度に強調したものであって、客観的事実に合致するとはいえない」と結論したのだ。

ところで、この判決を不服とした控訴趣意書で税務当局は、「住所複数説」という新たな法理論を展開した。それによれば、住所すなわち居所とは、「法律関係ごとに相対的に決められる」もので、「同一の法体系において複数の住所がありうる」とされる。これなら、一審判決が認定したように長男の住所が香港に存在したとしても、その事実は「同時期に日本にも住所があった」ことを否定するものではない。

一般的には、相続税(贈与税)は所得税の一部と考えられており、相続税法における「住所」は所得税法における居住者/非居住者の定義に従うとされている。それに対して税務当局は、所得税法上は非居住者であっても、相続税法上は居住者であり得るという新説を提示したことになる。

果たして法律上の住所はひとつなのか、複数なのか、高裁の判断が注目された。

逆転判決

結論からいうと、東京高裁は住所複数説にはなんら言及せず、古典的な居住意思によって一審判決を取り消した。住所とは「各人の生活の本拠」であり、生活の本拠とは「その者の生活に最も関係の深い一般的な生活、全生活の中心を指す」として、長男の住所は日本(東京・杉並の実家)にあったとしたのだ。

高裁は、住所の認定を以下のような手順で行なった。



1)生活場所

長男が帰国時に起居していた実家は法人所有になっており、長男はその法人の30%の株式を保有している。また長男の居室は家財道具を含め出国前のままの状態で維持され、本人が帰国すれば従前と同様にそのまま使用できる状態にあった。

それに対して香港のサービスアパートメントは長期の滞在を前提とする施設であるとはいえず、香港に携帯したのは衣類程度であった。

2)職業活動

長男は当時武富士の取締役で、故会長の後継者に予定されていた。香港の会社は武富士のIR活動などを行なっていたが、それは武富士の企業活動に資するためのものであり、職業上の比重は香港よりも日本(武富士)のほうがはるかに強かった。

3)資産の所在

長男の資産は武富士株1000億円相当、預金23億円、関連会社の株式などであったが、それらはすべて日本に預けられており、香港の資産は会社からの報酬5000万円程度であった。すなわち、資産の99.9%日本にあった。

4)外部から確認することのできる居住意志

有価証券報告書の大株主欄には香港の住所が記載されており、銀行3行にも住所の移転が通知されていた。しかし武富士の取締役就任承諾書や役員宣誓書には実家の住所を記載し、銀行7行、ノンバンク1行も日本の住所のままであった。

5)租税回避の目的

日本出国後、定期的に国別滞在日数を集計した一覧表を作成していたほか、日本での滞在が長くなると会計士から香港に戻るよう指導されていた。

こうした事実認定から裁判所は、長男は「香港滞在を長期間継続することを予定していなかったと認めるのが相当」と判断した。そして、「香港における滞在日数を重視し、日本における滞在日数と形式的に比較してその多寡を主要な考慮要素として」居住・非居住を判断することはできず、「生活全体からみれば」長男の住所は日本にあったと結論したのだ。

ところで、香港滞在中も長男が法的に日本の居住者であったとすると、なぜ所得税が課されなかったかが問題になるが、これについて高裁判決は、「被控訴人(長男)の主張する事実のみで被控訴人の住所が日本国外にあったとの判断を控訴人(国税)がしていたと認めることはできない」ので、その主張は「前提を欠くものであり採用することはできない」としているだけだ。

こうにして、居住・非居住の判断は最高裁に委ねられることになった。