叔父は医者で海外を飛び回り、出張が長期になるといつも私を連れて渡航を繰り返した。私の語学力が長けているのはそのおかげだろう。
だけどいつもどこでも叔父が側にいて私には苦痛だった。それこそ好きな人ができたのを勘付かれただけで相手をしらみつぶしに調べあげ、あの手この手で引き離そうとするのだ。
〝叔父さま。私もう一人でも平気です〝
多少の蓄えはある。
少しくらい生活が苦しくても詮索されずに済む。
そんな叔父からの束縛から逃れられたのは18歳の頃だった。
手を振るきみが
愛しくて3
「土方課長なら今朝から出張ですよ」
「えっ」
「お戻りは明日です」
仕事するフリして適当な資料を手にオフィスに寄ったのだけれど、今日から出張だと言われてしまった。昨日そう言ってくれたら準備したのに…なんて考え始めて気が付いた。
彼はしっかりしてるから何でもできてしまう。
だから一人で生きていけるひと。
「千鶴ちゃん久しぶりだね」
「沖田さん」
「土方さんならいないよ?」
「そのようですね。この翻訳置いて帰ります」
沖田さんは飄々としながらも、人間観察が並々ならないから迂闊に肩を落とす仕草すらできない。
持ち前の営業スマイルで交そうとオフィスのノブに手を伸ばすけど。
「君といい土方さんといい、今朝から変だね」
ぐっとドアノブごと手を掴まれて痛い。思わず見上げると、言葉とは似つかない、気にかけると言うより面白いがるような薄い笑み。沖田さんに隠し事はできないのだ。
◇◆◇
今朝はお弁当を作る気になれなくてちょうどどこかでランチする予定でいた。口止め料じゃないけど、沖田さんのパスタも私が注文する。トマトベースのそれは食欲を誘う香り。戴きます、と両手を合わせた彼の口にどんどん運ばれていった。
「今頃凹んでるかもね」
「…やめてくださいその言い方」
「結婚を先延ばしとかさ、程のいい破談みたいなもんじゃない」
「ち!違います!!」
ガタリと椅子から立ち上がる。
勢いつきすぎて周りが一瞬シンとした。またタイミングよく私の注文したパスタが届き、恥ずかしさを隠したくて黙って腰掛けた。
破談だなんて、そこまで考えてないのに。
私はただ不安だった。
「…土方課長のような方に嫁ぐのはまだ早すぎると」
「どうしてさ」
「釣り合うのかな、…と」
口に出して後悔した。泣きそうだ。声が震えて、自分の両手で顔を覆った。カツ、と正面に座る沖田さんが静かにフォークをお皿に置いた。
「大事なのはもっと他にあるんじゃないかな」
それってどういう意味だろう。真意を確かめたくても、溢れ出るそれを抑えられなくて私は俯くことしかできない。
「とにかくそこまで思いつめる必要ないって」
「…どういう…ことですか」
「君は土方歳三と一緒になるんでしょ。土方家と結婚するわけじゃないし」
始めこそ冷たく引き離すような冷静な口調が、徐々に優しさの孕んだ穏やかな声色に変わる。昼間からこんな場所で泣くわけにはいかないのだ。
ただ、沖田さんの言うことは決して間違いじゃない。そんな上っ面だけのお付き合いじゃないのだと胸を張らなきゃ。
「明日帰ってこられたら、ちゃんと土方課長と話します」
今更ながら、自分の自身のなさに愕然とする。
だけどこれまでの関係を無かったことになんかしたくなかった。
どんなに格好悪くても

