小股潜りの又市は、足力按摩の宅悦に、民谷又左衛門の娘、岩の仲人口を頼まれる。娘を手ごめにされた薬種問屋の依頼を受け、御先手組与力の伊東喜兵衛に直談判した際、窮地に立たされた又市らを救ったのが又左衛門だった。不慮の事故で隠居を余儀なくされた又左衛門は、家名断絶の危機にあるというのだ。しかし、疱瘡(ほうそう)を患う岩の顔は崩れ、髪も抜け落ち、腰も曲がるほど醜くなっていた。又市は、喜兵衛の1件で助っ人を頼んだ浪人、境野伊右衛門を民谷家の婿に斡旋するが…。
これのもとの話って、前テレビでやってたような・・・程度で詳しく知らないので、先入観はほぼなかった。
そのせいか、登場人物の言動、感情がストレートに入ってきて、とにかく痛かった。
裏側の欲望と邪念が深ければ深いほど、二人の愛情が際立って感じられる。
お互いを想い合うために擦れ違う、というのはごろごろあるけど、この物語はまったく安っぽくない。
悪役もただの引き立て役ではなくて、憎しみの描写にはものすごいリアリティがある。
多くの人物がいて、その一人ひとりの物語を細かく書きながら、すべてを伊右衛門と岩の悲恋に収斂した作者が怖いくらい。
妖怪は出てこなくても、こっちのほうが怖い・・・
結末はなんとなく分かるけど、「頼むからそうはならないで・・・」と思いながら読んだ。
でもあのラストが良かったのかもしれない。
四谷怪談が本当はこんな物語だったならな、と思った。