12月の読書メーター
読んだ本の数:36
読んだページ数:8731
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日本人の耳をひらく 聴覚がもっている不思議な力日本人の耳をひらく 聴覚がもっている不思議な力感想
音楽好きの友人に薦められ、著者のお名前は存じていたが そういえば読んでないなと。著者氏は1947年生まれのクラリネット奏者で、聴覚認知・オーディオ・音響学あたりから音楽教育の在り方までの所感を軽い比較文化論的に述べている。どうも「傳田式」とかいうシステムがあって それの販売と通じるようで、一番肝心の所がわざと書いてない…というのが明白に感じられる箇所があり、故に途中で一瞬腰が折れかけたが、ミレニアム世代の生徒さんへのレッスンには もうこの本にあるような心配は、それ程には要らない時代になってきてるかとも…。
読了日:12月01日 著者:傳田文夫
日本を愛したユダヤ人ピアニスト レオ・シロタ日本を愛したユダヤ人ピアニスト レオ・シロタ感想
自分の この一年半越しの、日欧の近代化と音楽にみる精神文化の歴史を辿る追求には、最適な一冊だった。レオ・シロタという ブゾーニの愛弟子であり欧州での天才的演奏家としての華やかなキャリアを脇に、1929年の来日公演からそのまま戦後1946年までを日本のピアノ教育に注ぎ、日本の文化・音楽界が大きな恩を受けたことを知っているべき人なのだが、意外にその重要性には未だに目が向けられているとはいえない。ブゾーニからの学び、ユダヤ人、二つの世界戦争を通じて、何故そうなったのか にまで筆者の筆は考察を向けていく。
読了日:12月02日 著者:山本 尚志
ノスタルジア食堂 東欧旧社会主義国のレシピ63ノスタルジア食堂 東欧旧社会主義国のレシピ63感想
以前チェコもの読書をしていた頃に、読み友さんの紹介で興味を持って入手し 以来パラパラと読んでいたのだが、今回ロシアものを読むにつけ 頭から通読してみた。残念ながら家人が玉葱を受け付けない体質なので、ここにあるレシピを再現することが不可能…それほどに、玉葱は全ての料理で使われている。いかにも東的料理のあのピンク色のはビーツ。またヨーグルトも様々な料理で使われる。オールカラーで 労働者層が愛用した当時の食器類、今も敢えて残され稼働している食堂なども紹介されており、読めば 行って食べてみたくなること請け合い。
読了日:12月03日 著者:イスクラ
カラー版 シベリア動物誌 (岩波新書)カラー版 シベリア動物誌 (岩波新書)感想
22寅猫本イベントに。極東タイガ、千島とサハリン、カムチャッカ、ヤクート、ヴランゲリ島 以上五地域の野生動物を始めとする自然環境と人との関わりを、美しい写真と共にコンパクトに紹介。ビキン川の景観は絵本『よあけ』を想起、火山が人知れず温泉を提供していたり、動物界がいかに風向きを重要視しているか、マンモスが三千年前までいた地、北極熊の海象狩りに迫真… 何れも非常に印象的。
読了日:12月05日 著者:福田 俊司
おれは ねこだぜ (講談社の創作絵本)おれは ねこだぜ (講談社の創作絵本)感想
エルケ・ハイデンライヒ『黒猫ネロの帰郷』がドイツでベストセラーならば、『100万回生きたねこ』が日本で対応する作品じゃないだろうか。同じ佐野洋子氏…谷川俊太郎の妻、というだけで、自分的には あぁ!!と正面的に腑に落ちたりするのだが…の此方の作品は読友さんのご紹介で初知り&読み。カフカ的な不条理の展開も備えつつ、百万回の方はカントなんだよ…とまた此処で別の読友さんに教えられ、これまた あぁ…!と別口の腑に落ちて、鯖が入る胃袋とデザートの入る胃袋は果たして本当に違うのか?とか考えてしまうのだ…w
読了日:12月06日 著者:佐野 洋子
「完璧」はなぜ「完ぺき」と書くのか―これでいいのか?交ぜ書き語「完璧」はなぜ「完ぺき」と書くのか―これでいいのか?交ぜ書き語感想
『大漢和辞典』などを編纂してきた著者による苦言提起の一冊。1946年の内閣訓令・告示による当用漢字表の"これしか使うな"であった1850字が、1981年改訂となり「常用漢字表」1945字"使用の目安"になるのだが、現状「人名漢字別表」が2928字にまで増加しているのに比し、人名地名にOKな字が何故常用指定ではないのか、「難しい字」の基準の不明さ、交ぜ書きによる同音異字の判断のしづらさや 漢字であることによる「意味」の文化的喪失という危険も孕みながら、制限の命令はないのに未だ使用するとはこれ如何に?
読了日:12月06日 著者:田部井 文雄
ブラックウッド怪談集 (講談社文庫)ブラックウッド怪談集 (講談社文庫)感想
イギリスロマン派後期の怪奇短編集。いずれの作品も、もたせる、もたせる!精神がギリギリまで張り詰め 幽玄の境目が覚束なくなる その瞬間まで、時間と共に増す川面のように、闇が迫る日没の背景のように、突然止む風のように、キッカリジワジワと… 顛末の 突き放したような不穏な余韻も、丁寧で 強力な程に冷静な西洋的判断力を据えた その描写の"張り"に由来していると感じる。作者ブラックウッドは漱石の二つ年下。日本には芥川龍之介によって紹介されたらしい。西洋に舞台精神を持ちながら、不思議と東洋の怪談の香りも漂う。
読了日:12月07日 著者:ブラックウッド
戦争と平和(四) (新潮文庫)戦争と平和(四) (新潮文庫)感想
12月初旬に読んで…今年明けて20日なので、読後ひと月以上経ってしまったが、この作品はその後も色々他の作品を読んでいても、あるいは 人間の歴史とか歴史学とか…つまり いずれ教科書にも載るような戦争とか事件とかの日々のニュース諸々を 日常視点から意識して生活を捉えようとしてみたりすると、本当に毎日毎日連続性をもって伝わってくるものがあって、英雄がとか国家の代表がとか政治が、じゃなくて、やっぱり「一人・一人」なんだよな、とか…考える方が先だってしまって 今更レビューにしようがない。やっぱりトルストイ凄いよ。
読了日:12月08日 著者:トルストイ
黒猫ネロの帰郷黒猫ネロの帰郷感想
イタリアの農園で生まれ ドイツで生活することまでを経験した とある黒猫ネロの物語。ルール、とは何か…的な話ではあるから、単純な物語としてササっとも読めるし、気になりだせばキリがない処で寓話的に猫を主人公に置く展開から そこが緩和されていたりもする。クヴィント・ブーフホルツの挿画の美しさを想うと 表紙の後ろの猫の表情が妙なことに気付くと思うが、なんとこの猫ローザは斜視…だとすると、なるほど…。作者エルケ・ハイデンライヒとは他にも魅力的な作品があるが、今回は二作品を続けて22寅猫本イベントに掛けてこちらから。
読了日:12月09日 著者:エルケ ハイデンライヒ
ペンギンの音楽会ペンギンの音楽会感想
『ヌレエフの犬』『黒猫ネロの帰郷』に続き、エルケ・ハイデンライヒ作品はこれが3作目の読書。3作とも向きは其々に組んでいる挿画家が異なることも含め 違う。この作品は『黒猫ネロ…』と組んだクヴィント氏との共作で、あえて画家である氏の方に 向きを作ってもらったものらしい。…三大テノール、といっても令和のこの時代 若い人たちには「?」かもしれないが、我々の世代にとっては南極ペンギンの世界と三大テノールの共演を描く物語、ときたら気になる方も多いのでは? 裏切りません…何度か、笑いが声に漏れてしまいます…。
読了日:12月09日 著者:エルケ ハイデンライヒ
ドクトル・ジバゴ 1ドクトル・ジバゴ 1感想
前日までトルストイの『戦争と平和』を読んでいた関係もあり、構成上・思考上(「歴史」とは何なのか)共に それを意識した上で、相似形とも言える中でこその近い何かが 書かれようとしていることを感じる。故に比較する思考が嫌でも働いてしまい、人物造形の表現不足から夫々の人物が何故ここでこういう展開に至るのか…という起-承部分としての説明不足的に対し、物語だけが次々展開されることに違和感を覚えたが、後半 革命とその後の都市市民生活からの避難という山場を迎え、作者の「個」が後半どう展開されるかに期待も見え始めて次巻へ。
読了日:12月10日 著者:ボリス・パステルナーク,江川 卓,Boris Leonidovich Pasternak
旅猫リポート旅猫リポート感想
22寅猫本イベントに掛け、村上勉の表紙ということにも食指が動き、数年積み本消化。COOLで論理家、理知的で気遣い万全の 元野良猫ナナと飼い主青年サトルの青春譚。感動する、泣けるというレビューが多いのは知っていたので、どう書くと感動のツボに入るのか?に視点を置いて読んでみた。
読了日:12月11日 著者:有川 浩
猫のいる日々: 〈新装版〉 (徳間文庫)猫のいる日々: 〈新装版〉 (徳間文庫)感想
22寅猫本イベント。大佛次郎作品 何とこの本が初読み…というのは若干間違ってる気もするけれど…(汗) 百閒先生の『ノラや』など猫エッセイ日記を集めたものと十二分に匹敵する内容なれど、そして猫という習性が著者によって変わる訳ではないのだが、二人の作家の夫々のキャラクターは、猫というフレームから よりクリアにみられる処があるのは確かなような気がしてくる…。
読了日:12月12日 著者:大佛 次郎
ステンカ・ラージン―自由なロシアを求めて (ヒストリア)ステンカ・ラージン―自由なロシアを求めて (ヒストリア)感想
ロシア文学を探るにつけ、あるいはその歴史を考えるに"コサック"の存在をある程度解っている必要性から手にした。ロシア人にとっての『自由』が意味する処とは?という問いかけから、ドン川のコサック…ドン・コサックの成立を追い、農民の反乱一揆 という面と 逃亡農民という出自を抜け出て 小さな独立社会集団としての存在感の両面とその影響を解説。勿論、歌謡の『ステンカ・ラージン』にもたっぷり触れてくれる。良書!
読了日:12月13日 著者:土肥 恒之
ボリス・ゴドゥノフ (岩波文庫)ボリス・ゴドゥノフ (岩波文庫)感想
ボリス・ゴドゥノフ(1551-1605)なる実在したロシア皇帝の皇位いざこざを描いた戯曲…ロシア文学では頻出だろう イワン雷帝の幼い王子の変死説と、それにまつわる実は生きてた説 から湧いて出た僭称者グリゴーリーの物語。1825年に完成するも、そりゃこの内容じゃ皇帝による検閲はパスせずよね…で、改作の上1831年発表可能となるも、上演は結局40年後だそうだ。当時の周辺国との関係や民衆思想文化なども見えてきて、短い作品なのだがロシアのかなり広範囲の背景が汲み取れ、また英国の舞台文学との繋がりも強く連想される。
読了日:12月14日 著者:プーシキン
スペードの女王・ベールキン物語 (岩波文庫)スペードの女王・ベールキン物語 (岩波文庫)感想
ロシアものを読むなら、まずプーシキン!ということで、先に詩を読んだが、恋愛詩の内容にはあまり興味が無いのと、初期はこんな風だったんだなぁ…というロマン派的な印象が強かったのに対し、此方は近代へ向かう印象へと変化が明らかなのだが、それこそ未だベートーヴェンかシューベルトの時代に、今でいう”短編”なるスタイルや ポー(1809-49)的な怪奇ものが、突如 と言っていいほどロシアの地にポーンと生まれてきたわけで…。ワッと楽しんでサっと消えてしまうくらいの この軽妙洒脱さが持つ濃い技術と感性は、すごい、としか…。
読了日:12月14日 著者:プーシキン
雪の女王雪の女王感想
'22クリスマス。先日メンデルスゾーンとアンデルセンの関係本『芸術家たちの秘めた恋 』(中野京子)を読んだばかりだが、こちらは『新童話集 (1843-1848)』に入る中期の作品。エンデなど後の作家にも影響を与えただろうこと、一般的には児童作家に分類されるだろうが 綴り字に誤りもある作者のこと、口承的な感性も強かったろうか…詩の要素も覚え、この作品でも詩的寓意が多く込められているように思う。切り紙細工を得意としたアンデルセンに、フィンランドのアーティスト アンナ・アンヌッカの挿画がピタリと嵌っている。
読了日:12月14日 著者:ハンス・クリスチャン アンデルセン
ドクトル・ジバゴ 2ドクトル・ジバゴ 2感想
読手の視点と書き手の視点が 完全に同一化される読書環境をベースに置く(つまりパステルナークは当時のロシア人に書いている)…これを今の日本の作家&読者は基本事項のように 自然に捉えて 自然故にほぼ何も考えずに臨むだろうが、この作品は、西側により映画にまでなったけど、…多分 違う。何かが、捩れ、おかしい。これは…私のとても個人的な結論だけど…。力がある作家がギリギリで変に剃り落としをして、多様性ある読み方を誘いつつ… しかしそれでは本音は隠されたまで、それを作者は解っている。そんな、気がする。
読了日:12月16日 著者:ボリス・パステルナーク,江川 卓,Boris Leonidovich Pasternak
紙の動物園 (ケン・リュウ短篇傑作集1)紙の動物園 (ケン・リュウ短篇傑作集1)感想
22寅猫本イベントに掛けて、長らく気になっていた一冊。こーれは面白かった!癖も強めではあるけれど、取っ付き良い面白さに そこは必携の要素だろうし、作者さん自身の人生経験が直接的に影響しているだろうことから、嫌味がない。3000近い登録があるのも頷ける。SF的であり、ファンタジー系であり、社会派。
読了日:12月18日 著者:ケン リュウ
ルドルフとイッパイアッテナルドルフとイッパイアッテナ感想
斉藤洋さん+杉浦範茂さんのデュオを体験してみたく、22寅猫本イベントに掛けて初読み。漱石の猫やホフマンの猫同様 読み書き技術まで取得する猫君の物語。児童書侮るべからずの内容の深みと 時にフフっと笑ってしまう語りのキュートさ、素直なコメディ感が両立する魅力。アニメ映画化もしたらしい。
読了日:12月19日 著者:斉藤 洋
世界詩人全集〈第5〉 (1969年)世界詩人全集〈第5〉 (1969年)感想
ロシア文学は小説以前に詩!そして誰よりまずプーシキン!という声に従うべく手にした(長年読んでみたかった『バフチサライの泉』もこの版には入っている)。プーシキン1799-1837、レールモントフ1814-1841、マヤコフスキー1893-1930 三者の詩のあり方の変化は、彼ら各々の時代背景をそのまま映し出していることを思う。西洋の中のロシア、の変遷の道程を辿るようだった。
読了日:12月19日 著者:
ルドルフ ともだち ひとりだち (児童文学創作シリーズ)ルドルフ ともだち ひとりだち (児童文学創作シリーズ)感想
22寅猫本イベントに。猫主人公のビルドゥングスローマン(笑) シリーズ続編まだまだあるみたいだけれど、無事にアドルフ君が岐阜まで帰郷旅…猫的修学旅行?も出来たし、これから立派な成長を見せてくれるだろうことも想像がつくので、今回は一旦ここまで(笑)
読了日:12月20日 著者:斉藤 洋
偉大なる王(ワン) (中公文庫)偉大なる王(ワン) (中公文庫)感想
22寅猫本イベント+ロシア満州もの。著者ニコライ・バイコフ氏は1872ー1958 ゴーリキー世代のキエフ出身。極東国境警備の将校として 満州の自然環境調査をしていたが、ロシア革命でそのまま満州亡命、という経歴の方。大佛次郎氏が実際に会って、この素晴らしい動物記の主人公"王ワン"の巨大頭部剥製も見ている。シベリアタイガが人に荒らされるまでの その豊かさを偲ぶ 名作だと思う。
読了日:12月21日 著者:ニコライ・A. バイコフ
青銅の騎士 (ロシア名作ライブラリー)青銅の騎士 (ロシア名作ライブラリー)感想
プーシキン連続時代順読書4冊目。うーむ。。。上手い!軽妙でありながらふっと重く鋭く、全体は芳醇。そうだよ…モーツァルトに似ている。『小さな悲劇』連作4短編は形の上では詩から離れたようで、戯曲という世界の中でダ・ポンテ的な世界からギリギリまで余剰を削除した上で、それ以上の詩的な風合いを醸し出しているし、物語詩『青銅の騎士』では訳詩だというのに、竪琴を伴って歌いたくなるような抒情味溢れる叙事詩だ。やっぱり、天才というのは 特別な存在だなぁ…とため息つきつつ想う。
読了日:12月22日 著者:アレクサンドル・セルゲーエヴィチ プーシキン
オネーギン (岩波文庫 赤604-1)オネーギン (岩波文庫 赤604-1)感想
プーシキン時代順読書5冊目。実は過去にも読んでいるのだが、プーシキンの上手さ故の問題が 自分にあるとすれば、唯一つ、その内容をごくアッサリと忘れがちだということ。上手いし面白いし軽妙なので うわぁっと読んで、暫くすると、えぇとどんな内容だっけ?…今回も 読後たったひと月なのに、韻文小説って凄い!、非常に面白い、という件と、チャイルド・ハロルド風主人公でバイロンの影響が強い、ということしか記憶に無い…。『大尉の娘』も読みたいので&バイロンを若干ながら読了したので、この際オペラ動画(コメ欄)観て思い出し。
読了日:12月23日 著者:プーシキン
1945年のクリスマス―日本国憲法に「男女平等」を書いた女性の自伝1945年のクリスマス―日本国憲法に「男女平等」を書いた女性の自伝感想
ユダヤ系名ピアニスト 父 レオ・シロタの伝記に続いて、彼の一人娘であるベアテ嬢の伝記。生前にご本人が語るテープを編集者が起こしたものなので、溌剌とした彼女の言動から戦中-戦後の日米の精神文化背景のギャップなども含め いい意味で全てが生々しく、中でも GHQが当時の内閣に提示した日本国憲法の草案が どのような制作過程を経たのか、どのように日本政府と折り合いをつけ合ったのか、が 日記のように詳しく書かれ、真に迫って伝わってくる。後半部は 彼女が米国で努めた日米文化交流の記録…戦後のアジア文化が垣間見れる。
読了日:12月23日 著者:ベアテ・シロタ ゴードン
小天使ブリュッセルをゆく…小天使ブリュッセルをゆく…感想
ブリュッセル、とくれば"しょんべん小僧"? クリスマスに天使を感じなかったら損じゃない?などと考える非クリスチャンでありつつ西洋音楽を仕事にする自分。ベタに似非キリスト教感性を覚えるこの季節に、こんなに質実素直なバンサンのデッサンでクリスマスを迎えられたこと&事実天使が沢山集った後の宵に読めたことは、そういう自分にとって僥倖だ。『天国はおおさわぎ』の主人公天使君が、ブリュッセルの町の天使たち須らく誘ってのクリスマス!でも、その後天に戻ったらお仕置きなの… ここで褒めてもらえない処が またいかにも西洋的?
読了日:12月24日 著者:ガブリエル バンサン
クリスマスの猫クリスマスの猫感想
22寅猫本+クリスマス。作者ロバート氏の作品読書は2作目。先に読んだWW2戦時下のイギリスの猫旅ドキュメンタリー『猫の帰還』に比べると、こちらはウェストール氏が児童文学者であることがより鮮明。舞台はイギリスの漁師町、マルクス主義が貧困労働者層の口端に上る時代。孫を前にした老女の語りとして、牧師である叔父の元で暮らした 女学生時代の冬休みの思い出…その時代性を直截背負って生きた人々との 出会いと、少女の成長が描かれる。社会階層というのが 今も問題となるイギリスでは 現代も紡がれる意味の強い題材なのだろう。
読了日:12月26日 著者:ロバート ウェストール
草原の祝祭―ヤンのヨールカ草原の祝祭―ヤンのヨールカ感想
22寅猫本+ロシア+クリスマス。ロシア革命に掛かるこの町田氏のヤンのシリーズは これで4冊目の読書となるが、この作品は特に哲学的。パステルナークの詩「冬の祝祭の日々」にオマージュされ、1900ー1921という限定された時制の中の 数回のクリスマスと 特定の土地と樅の木 をベースに物語られる。猫に原罪は無く、人のそれを淡々と問うシビアさが、冬の零下の舞い上がる雪と カント的に天に突くように瞬く星空に込められ、胸がその冷気の明けらかさに スンとする…。
読了日:12月26日 著者:町田 純
窮地に生きた信仰―ヨセフ物語、ダビデ物語、ダニエル書による説教窮地に生きた信仰―ヨセフ物語、ダビデ物語、ダニエル書による説教感想
22クリスマス。牧師さんによる’91ヨセフ(~創世記)、’93ダニエル(ダニエル書)、’01-02ダビデ(サムエル記)の説教原稿をまとめたもの。西洋の文化精神(そこに残る中近東の香りも含め)を少しでも体に直接受け止めるには…クリスチャンなら必ずする聖書通読が未だ敵わず+説教を教会で聞く機会が無い…を多少とも打破したく。メルケル首相や遠藤周作氏の本も併読しつつ、神の世界を知ることは 人を謙虚にする、という感性を共通項に覚える。愛の反対は無関心と忘却、シャロームの概念、礼拝-信仰に在る 形式-心の繋がり。
読了日:12月27日 著者:近藤 勝彦
本屋さんのルビねこ本屋さんのルビねこ感想
読むなりフニャフニャになる…主人公たる「ルビ」の名を得た猫君が可愛すぎるのだ…出自が本棚の埃とあっては…本好きにとってのっぴきならぬ存在だ。でも、物語はその可愛さと由来に頼り切ることなく、毅然と進むw 舞台は ドラマに好まれる湘南辺り?あるいは…?いや、海外かもしれない…フィッシュ&チップスをくれるお友達も未だいるような、半世紀前的穏やかな、そして富裕でもない、けれども宗教道徳理念が美しく残されている…そんな、人情残す楽園的町場。通年 猫本を通して思う…猫物語の似合う背景とは、自由たる掟が適う町だな、と。
読了日:12月27日 著者:野中 柊
巨匠とマルガリータ(上) (岩波文庫)巨匠とマルガリータ(上) (岩波文庫)感想
22寅猫本イベント+ロシア。とても面白い。メフィストを描くこと、即ち、キリストという宗教を描くこと。…即ち、作者ブルガーコフ(1891ー1940)と革命後のソビエトという国との距離感は 同世代のパステルナーク(1890ー1960)やプロコフィエフ(1891ー1953)に通じて然るべき…だろう、この時代の作家作品は出版年と執筆年が直接対応しないように…。ポーやルイス・キャロル、そして勿論プーシキン始めとする前世代ロシア文学の有り様を再確認しつつ 時勢を問い、次世代を模索する匂いを覚える。
読了日:12月27日 著者:ブルガーコフ
ミュージック・ツリーミュージック・ツリー感想
22寅猫本の 絵本作品のラスト〆に。ふわふわしたカラフルな毛糸が絡まったような、ほんわりと暖かい絵、その絵と本当に相性のいい 長閑で優しい物語は、アルジェリア生まれのアンドレ・ダーハン氏(1935-)の作品。奏でる音を、大切なお友達が集めて、芽を出し、鳥が集まって、そしてまた苗になり、再びそれがまた大切なお友達へのプレゼントになり… なんて素敵な循環なんだろう!!これは 音楽家にとっては かなり憧れる状況だと思う…。私の音を拾うのは、今は私だけだからなぁ…って家庭菜園か!(笑)
読了日:12月28日 著者:アンドレ・ダーハン
ヒトラーはなぜ猫が嫌いだったのか (コア新書)ヒトラーはなぜ猫が嫌いだったのか (コア新書)感想
全体二部構成。前半は特にヒトラー政権時での ドイツの精神文化の基盤となる"森-王者狼"という君主文化を背景にしたドイツのロマン主義的哲学観をヘルムート・プレスラーの論をベースにして説き、そこからその「犬性」を定義(ヒトラーは猫を嫌ったというより黙殺、西洋はそもそも猫を尊ばないという話でもある)。後半は 武家政権以降の日本史を 江戸~明治;猫性社会/戦時~'95;犬性社会/'95以降脱企業社会;猫性社会の三期に分け、その文化が時期ごとの社会にどう影響を受けて 猫-犬-猫という変遷結果に映るのか を読み解く。
読了日:12月30日 著者:古谷 経衡
巨匠とマルガリータ(下) (岩波文庫)巨匠とマルガリータ(下) (岩波文庫)感想
22寅猫本。プロコフィエフ、パステルナークとほぼ同級生世代のロシア文学。展開も結末も形式に綺麗に沿った整った物語なので ツラーっと読めてしまう上に、最初に悪魔の手にかかる死者が”ベルリオーズ”氏であることを想えば、展開部で楽しまされる悪魔と魔女の狂宴は"幻想交響曲"そのものの 可笑しくなるほどに派手な山場を見せてくれる。しかしこの作品にあるパッションとメフィストの交差による笑いは、当然素直なものではなく、ショスタコーヴィチのシンフォニーにあるような 宗教と社会へ向けた投げ遣りな程の苦痛の哄笑だろう。
読了日:12月31日 著者:ブルガーコフ
猫のつもりが虎猫のつもりが虎感想
22寅猫本…今年のシメの一冊。丸谷氏の和田誠と組んだエッセイ集で、大正14年生まれの人らしい古い仮名綴りもそのままに、味わいあって大晦日に暖かな部屋で冷酒飲みつつノンビリ読むには悪くない選書だった。食にまつわる話題が多いが(懐石料理でも最初からご飯があると嬉しいのに…とか非常に共感w)、ベルトと呪術の関り、評論家が存在することの芸術にとっての意味、ガルボ実は男性?、文学研究における古典文学の本歌探しの苦心、クレオパトラって実はギリシャ人なのにアフリカ妖艶系美女認識されちゃってるよね…等々、どれも面白い。
読了日:12月31日 著者:丸谷 才一

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