小説「新・人間革命」 暁鐘 三十二 山本伸一
聖教新聞2017年10月7日
六月一日午前、山本伸一は宿舎のホテルでローマクラブのアウレリオ・ペッチェイ会長と会談した。会長は、前日にロンドンからローマの自宅に戻り、朝、ローマを発ち、自ら車を運転して、四時間がかりで訪ねて来たのである。七十二歳にして疲れも見せず、精力的に動く姿に、伸一は感嘆した。理想に向かい、信念をもって行動する人は若々しい。
二人の間では、対談集発刊の準備が進んでおり、この日も、指導者論などをテーマに語り合い、対談集の構成等の検討も行われた。
ペッチェイ会長との会談を終えた伸一は、青年たちの代表と、ダンテの家へ向かった。
家は石造りの四階建てで、博物館になっており、外壁には彼の胸像が飾られていた。
ダンテは、ヨーロッパ中世イタリアの最高の哲人・詩人であった。
一二六五年、フィレンツェに生まれ、三十歳の時、祖国のために尽くそうと政治家になり、頭角を現していく。しかし、政争と嫉妬の渦に巻き込まれ、無実の罪で祖国を永久追放される。
彼の胸には、虚言、捏造、陰謀によって、正義が邪悪とされ、
邪悪が正義とされる転倒を正さねばならぬとの、怒りが燃えていた。そして、『神曲』の執筆に着手し、キリスト教に基づく死後の世界を描き出していった。
そこでは、虚飾や偽りは、一切、通用せず、誰もが生前の行為によって厳たる報いを受ける。人気を博した政治家も、著名な学者も、勲功の将軍も、聖職者たちも、皆、冷徹に容赦なく裁かれ、地獄に落ちていく。
彼は死後の世界を描くことで、人は、いかに生きるべきかを突きつけたのである。
仏法は、三世を貫く生命の因果の理法である。
この法に則り、日々、広宣流布という極善の道を行くわれらは、
三世永遠に、崩れざる幸福境涯を確立できることは間違いない。
日蓮大聖人は、「い(生)きてをはしき時は生の仏・今は死の仏・生死ともに仏なり」(御書一五〇四ページ)と仰せである。
使命に生き、勇み戦う歓喜の境涯は永遠であり、
死して後もまた、われらの生命は歓喜に燃え輝く。
小説「新・人間革命」聖教新聞「SEIKYO ONLINE」
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小説「新・人間革命」 暁鐘 三十三 山本伸一
聖教新聞2017年10月9日
ダンテの『神曲』は、神の審判という尺度をもって、嫉妬、欺瞞、傲慢、暴力、噓、裏切りなどがもたらす、死後の世界の無残な結果を描き出した。それは、いわば、人間を不幸にする諸悪との闘争の書といえよう。
人間は、いくら地位や、名声や、財産を得ても、「死」という問題が解決できなければ、真実の生き方の確立も、幸福もない。現代の歪みは、人間にとって一番大事な「死」の問題を避け、目先の欲望ばかりを追い求めてきた帰結といえよう。
山本伸一は、人びとが仏法という永遠の生命の大法に目覚めてこそ、新しき生命のルネサンスがあるとの確信を強くいだいていた。
彼は、さらに青年たちと、フィレンツェ郊外にあるフィエーゾレの丘に足を運び、語らいのひと時をもった。
「仏法は、対話を重視しているんです。
それは、宗教の権威、権力によって人を服従させることとは、対極にあります。
釈尊も対話によって法を説き、日蓮大聖人も対話を最重要視されています。学会の座談会も、その精神を受け継いでいるんです。さあ、聞きたいことがあれば、なんでも質問してください」
青年たちは、瞳を輝かせて伸一に尋ねた。話は、ダンテ論、依正不二論、因果俱時論などに及んだ。質問が一段落すると、伸一は彼方に広がる市街地を眺めながら語った。
「やがて、ここから見える、たくさんの家々の窓に、妙法の灯がともる日が必ず来ます。広宣流布の時は来ている。今こそ、皆が勇気をもって一人立つことです。
戸田先生が第二代会長に就任された時、同志は三千人ほどにすぎなかった。しかし、師弟共戦の使命に目覚めた青年たちが立ち上がり、七年を待たずに、学会は先生の生涯の願業であった会員七十五万世帯を達成します。
それは、果敢な対話の勝利でした。私たちには、仏法への大確信があった。皆が教学に励み、理路整然と明快に法理を語っていった。そして、ほとばしる情熱があった。対話は心を結び、時代を創る力となります」
小説『新・人間革命』語句の解説
・依正不二とは、生命活動を営む主体である正報と、その身がよりどころとする環境・国土である依報が不二であること。
・因果俱時とは、一念の生命に、因と果が同時に具足し、先後の別がないこと。また、仏因(九界)と仏果(仏界)とが、ともに衆生の一念にそなわることをいう。
小説「新・人間革命」聖教新聞「SEIKYO ONLINE」
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