母には妹と弟がいる。

特に妹とは仲がよく、発病してからもよく長電話をしていた。

その妹も白血病で一時は、命が危ぶまれたが今は奇跡的に元気になった。


気分のいいときに会ってほしいと母の容態を従姉妹である、おばの娘に知らせた。

やはり、直接知らせるのは勇気がいったから、叔母の様子に合わせて話してほしいと願った。


叔母はすぐに母を見舞いたいと言ってくれた。

叔母たちと待ち合わせ、母の病室へ行くと母はすごく喜んで、面会室へ行こうと言い出した。

思ったより元気そうに点滴を引きずりながら、廊下を歩き面会室でお茶を飲んだ。

父を病室へ迎えに行くと、こちらも機嫌よく参加してくれた。

面接室では、久しぶりに両親が並んで腰かけ、親戚の集まりができあがった。


なんと平和な風景だろう

元気なうちにこんな集まりがもてれば、どれだけよかったろうと思うと、なんだか寂しい。

母は私が持っていったカットフルーツを父の前でパクついた。

糖尿で食べられない父は、うらやましそうにそれを見ている。

母は最後の一切れを父に指し出し、父は嬉しそうに食べる。

そして、父は「私たちは、もう、こうだから」と言って手で山を作る。すると、母も「こうやもんね」と言って笑った。

もう、先が細いと言う意味らしかったが、夫婦して言うもんだからかわいらしく感じられた。


叔母と一緒に電車に乗って帰ったが、叔母はすこぶる元気で電車に乗っている間中しゃべり続けた。

叔母の話は、人生を楽しまなきゃという姿勢がどんどん表現され、あれはいやこれはいや、あれがしたいとその屈託ない遠慮なさがとても希望に満ちているように感じられた。


母と言えば、何もいらない、何もしたくないと掴まえ所のないようだ。

それでも、笑顔を絶やさず、のんびりと何かを悟ったような様子は、やはり母だなと思う。