走るたびに揺れる重い装備が傷にさわった。
今、自分がどこを走っているのかすら分からない。だが、止まるという選択肢など少女には存在しなかった。
少し耳を済ませば自分の荒い吐息に紛れて大量の足音や機械音が後方から聞こえ、少女の耳を刺激させた。
止まれば死ぬ。
幼いながら少女はそれをよく理解していた。それは、少女が今まで培ってきた経験から来るものだと思われるが。
目を閉じれば思い出されるのは、優しい両親、いなくなってしまった友達、そして嘗ての仲間たちの顔。少女は託されたのだ。たくさんの人からその希望を。渇望を。
そして、今現在孤独になってしまった少女は痛みすら感じなくなった足を引きずってまで何を思うのか。
敵の武装兵は約三十人ほど。
状況は最悪だった。
少女は何故こんなにも執拗に自分が追われるのかを知っていた。
自分が殺戮に特化した能力を生まれ持ってしまったからだ。
このままでは埒があかない。
そう考えた少女はこの大勢を相手に応戦することを決めた。
走りながら、イヤーカフのように耳に取り付けた『小型連絡装置──通称コンタクター──』を起動させた。
恐る恐ると少女は口を開いた。
「こちら攻撃特化部隊です。至急、戦闘許可をお願いします。対象はイギリス兵。能力者は確認したところ一人。事態は非常に難しく、部隊の半数が壊滅しました。至急、戦闘許可を!!」
部隊の半数以上が壊滅。それはつまり、少女にとって仲間の死を意味していた。
暫く、間があり機械的な声が少女の脳内へ直接語るかのように聞こえてきた。
「戦闘を許可します。但し、イギリス兵の殲滅が絶対条件です。────ブツッ」
荒々しく、通信が切られた。
少女の年齢はまだ十一だ。
そんな少女にと大人のしかも能力者の殲滅が能力を使っていい条件だなんてなんて理不尽で無慈悲なものだろうか。
だが、それほどまでに日本の状況が、非常に不味いのであるのだからしょうがないのである。それを、理由に幼子に人を殺す命令を下していいことにはならないが。
少女の申請が常任されると、彼女の首にまるで見えない鎖のように異様な存在感を放つ鉄のチョーカーのランプの色が赤から緑へとピッという音と共に変わった。
この鉄のチョーカーは所謂能力の制御装置のようなものだ。
ランプが赤いまま能力を使用すると、たちまち微弱な電流が流れ失神をしてしまうという、日本政府が作り上げた恐ろしい逸品だ。そして、それに耐えたとしても電流が十秒以上続くとチョーカーが爆発する仕組みである。別名──死の首輪。
能力者にとって自由に能力の使用ができないのは彼らにとっては死を意味させる。
なぜなら、彼らの能力の大半が攻撃に特化し一人いれば百人の部隊と同等の力を持つと言われ、全世界の国からその莫大な攻撃力故、四六時中狙われている。
いつ、死ぬか分からないこの状況下、咄嗟に能力を使えば失神してしまうなど彼らには言語道断。
気づかぬうちに、敵の本拠地に連れられ実験体となるか、死ぬまで戦場の最前線で戦わされるかの二つだけ。
実際、この制御装置の電流のせいで連れ去られた能力者の数は後を絶たなかった。
「……任務を遂行します」
形だけの言葉を並べ、少女は立ち止まり後ろを振り返った。