(佐藤 健さん)
平成生まれも態度で示す“昭和の男” 美学は「自己アピールしない」
押しも押されもせぬ人気俳優が、次に挑んだのは、6月1日公開の映画「リアル~完全なる首長竜の日~」だ。
「今までにないくらい、ずっと不安を抱えながら撮影しました。この作品では、芝居に正解がないからです」
監督は黒沢清氏。原作は乾緑郎(ろくろう)氏による「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。
佐藤扮する主人公・浩一は、自殺未遂で昏睡状態に陥った恋人(綾瀬はるか)を目覚めさせるために、センシングという医療を使って、彼女の意識下に入っていく。佐藤は、「現実でもセンシングしてみたい」と話す。
「女の人の意識をのぞいてみたいですね。女性が何を考えているのか、本当に分からないです。
男は分からないですよ、女心というのは…」 肩の力が抜けた柔らかな笑顔を見せた。
芸能界に入ったのは、高校生のときに東京・原宿でスカウトされたのがきっかけだった。
「スカウトって女の子にしかしないと思っていたので、男でもあるんだと驚きました」
当時から俳優の仕事に興味はあった。
「ドラマや映画を見るのも好きでしたし、ドラマのNG集で、制作の裏側を見ていて、役者っていいなって思っていたんです」
17歳のときにドラマ「プリンセス・プリンセスD」で、準主役でデビュー。続いて「仮面ライダー電王」(ともにテレビ朝日系)で初主演を果たし、甘いマスクでたちまちブレークした。
NHK大河ドラマ「龍馬伝」では“人斬り以蔵”として知られる岡田以蔵を演じ、弱々しい土佐郷士が狂犬化する豹変ぶりが絶賛された。
今ではすっかり主役を張れる俳優だ。
「責任を持てる仕事をだんだん任せてもらえるようになって、やりがいを感じます。せっかくやるのであれば、男だったらやはり上に行きたいですしね」
人気が出るにつれ取り巻く環境も変わったが、そこに戸惑いはない。
「変化を楽しんでいます。生きづらくなることももちろんありますが、うれしいことですし、今は今で順応しています」
座右の銘は〈臨機応変〉。俳優としても一番大切にしていることだという。
「何事にもとらわれないで、その場で最善の判断をして、全力を尽くすようにしています」
順応しつつも流されない。「自分の判断をきちんと持つ」という軸を大切にしている。平成元年生まれの24歳とは思えない落ち着きに驚きさえ感じる。
「常に平常心を保つように心がけています。それは、自分の中の美学なんですよ。あまり感情的になって、ワーッとなりたくない。理性的でいたいというのがあるんです」
イライラしたときも、平常心を保つ。
「大抵のことは考え方を変えることで解決できるようになりました。たとえば、理不尽なことを言われたら、『相手は理不尽な人なんだ』と考えることで、同じ土俵に乗る必要はないし、自分は相手に影響を受ける必要はないんだと思います」
美学として心がけているのが〈自己アピールをしない〉こと。
「ガツガツ行くのが、好きではないんです。男に言葉はいらない、態度で示せ、と思っています」
CMなどでは今どきの「チャラ男」を演じることもあり、力みのない様子を「草食男子」「ゆとり世代」と誤解する人も少なくない。だが、熱い思いを抱きながらも涼しい顔でいる彼を目の前にすると、むしろ“昭和の男”を感じる。
「昭和の男って、大好きです!」
自分を律して修行僧のような雰囲気さえ漂わせる男が、笑顔を見せた。