「初心忘るべからず」は野毛電気工業社長の佐藤 中則(さとう・なかのり)さんの座右の銘です。
佐藤中則さんは、1949年横浜市生まれ。青山学院大学経済学部卒業後、米テキサス州セントメアリー大学大学院に進み、経済学修士課程修了。1976年、野毛電気工業に入社。専務取締役を経て、1993年から現職。
                                                    (佐藤中則さん 
イメージ 1めっき・特殊加工部品、世界に大きな需要
 
日本のモノ作りを支える縁の下の力持ち的存在、それが野毛電気工業だ。横浜・金沢八景の工業団地に本社を置く半導体材料の表面処理やめっき、精密加工などのプロ集団。同社の技術なくして成り立たないエレクトロニクス製品は多い。創業60年を超える老舗企業の目にグローバル時代はどう映っているのか。次なる一手は-。 
 --電子部品の表面処理加工、プレスなどを特色にしています
 「めっき技術、特殊加工技術が当社の得意技術ですが、車のエレクトロニクス化、宇宙衛星、医療機器などいろいろな分野にも当社の技術が使われています」
 --アベノミクスの恩恵は
 「厳しい経営環境と闘いながら、何とか赤字にならないよう頑張っているという状況ですが、自動車関係がそこそこよく、宇宙関係では気象衛星向けに部品が出て行っています。後はデジタルカメラ、特に高級機種に関して、当社が加工したCCDセンサーが搭載されていますが、かなりの需要があります。世界のマーケットを考えると、もっと大きな需要があるわけですから、期待の分野であると言えますね。今後の分野としては医療もそうで、医療手術用部材の加工分野へ進出しています」
 --技術以外での会社の強み、特色は
 「求められる製品や技術への素早い対応を心がけています。クレーム対応なども早いはずです。横浜の事業部をみると、役員は私と事業部長の2人だけ。私が国内外に出張しているときでも必ず毎日、メールか携帯電話の報告が入る。だから稟議書も会議も必要なく、スピーディーに問題処理ができています」
 「新規設備の導入、増設などの問題があるときでも、われわれ役員2人とマネジャー何人かが集まって議論するのですが、やろうと方向が決まればその日のうちに発注していますね」
 --電力を使うめっき技術が柱の1つになっていますが、原発事故の影響があったのでは
 「決して小さくはありません。電力料金は15%以上アップし、知恵を絞って使用電気量の削減に取り組んでいます。エアコンは省エネ機種にすべて交換し、インバーターの導入などいろいろな節電対策をやっています。補助金を活用して工場の屋上に100キロワットの太陽光発電装置も敷設しました。日照時間の長い時はかなりの効果があります」
 --創業者からバトンを受けて20年余り。会社は、めっき乾燥システムの開発育成で科学技術長官賞を受賞し、神奈川県知事賞などももらうまでに発展しました。後継者の育成は
 「2月に(長男を)入社させました。私の場合、入社前に米国の大学に留学し、それから会社に入りましたが、息子の場合は海外大学への留学のほか、日本企業での修行も必要と思い、大手の上場企業で2年ほど勉強させてもらった。大手から見た中小企業を学ばせましたが、それは私に最も欠落していたところでした」
 --今後を展望すると、主力事業がいつまでも伸びていくかはわかりません。表面処理以外の新分野、商品なども考えていく必要があるかと思います
 「表面処理といっても塗装やめっきのほか、素材に熱をかけ特性を引き出すのも含まれます。素材にレーザーを当てて加工すると表面の材質が変わる。表面処理といってもいろいろな分野があり、市場は広いですよ」
 【家族】  妻と2男1女の5人家族。長男は後継者として会社に入り、長女と次男は医師。昨年12月、次男に初孫が誕生した。
 「孫にはじいさんではなく大兄さんと呼ばせています。じじ臭くはなりたくなく、いつまでも現役でいたいので」
 【海外旅行】  食べ歩き、飲み歩きが趣味で、時間があれば夫人同伴で海外へ。飛行機と宿だけを決めて空港に着いたらレンタカーがいつものパターン。「自由気ままな珍道中です」
 【バル巡り】  「スペインの北にあるバスク地方のバル(居酒屋)巡りは楽しかった。おつまみ2つ3つとワインの立ち飲みで、30分ほど時間を過ごし、次のバルへ。ハシゴが面白かったですね」
 【マチュピチュ】  2011年、家族で古代インカの空中都市へ。
 「ペルーには大学時代の朋友がいて、車で案内してくれたのがありがたかった」
 【駅伝】  年に2回程度、会社のチームの一員として東京での夢の島駅伝などに出場している。「走るのは3~5キロ。醜態を見せられないので昼休みに練習しています」
 【テレビ好き】 『がっちりマンデー!!』(TBS)、『出没!アド街ック天国』(テレビ東京)、『たけしの健康エンターテインメント!みんなの家庭の医学』(朝日放送)は欠かさずチェックする。「最近では、池井戸潤原作のテレビドラマに吸い寄せられ、欠かさずに見ています。ビジネスストーリーも勉強になり、元銀行マンの作家らしいリアルな切り口がいいですね」
 【ノゲデン三味訓】
  一、常に一味違う喜ばれる製品をつくろう
  一、常に一味違う物の見方、考え方をもとう
  一、常に一味違う魅力ある行動人になろう
  この三味訓は創業者である父の言葉で「座右から離せません」。
 
 
【会社メモ】 半導体・電子部品の製造加工会社。本社・横浜市金沢区。1950年11月、創業。佐藤日英雄・相談役(92)が横浜市西区境之谷で、小型抵抗ランプの製造に着手したのが始まり。50年代後半、めっき事業に参入し、同社の基盤を築いた。取引先は100社を超え、エレクトロニクス産業にはなくてはならない存在。73年に進出した熊本(現・九州事業部)は新分野の基地に。資本金9800万円、年商35億円。従業員数300人(男200人、女100人)。

MSN産経ニュース2014624日)
 
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