待てば海路の日和あり」はオリックス銀行社長の潮 明夫(うしお・あきお)さんの座右の銘です。
若い人にアドバイスするとき、時々使うことがある。「あきらめないでやっていれば、そのうち事態は好転していくものです。本当にうまくいかないと思っていても、多くのことは時間が解決してくれる」
                                                     (潮 明夫さん
イメージ 1潮 明夫さんは、1950年東京都生まれ。1972年東大法学部を卒業し、大蔵省(当時)証券局企業財務第一課へ。国税庁長官官房総務課長、広島国税局長、人事院事務総局公平審査局長などをへて2004年電源開発取締役。2008年オリックス信託銀行(現オリックス銀行)取締役兼常務執行役員。2009年同代表取締役兼執行役員社長に就任した。 
定期預金金利イチ番!窓口持たず機能シンプルに 
ネット銀行にして信託業を兼営する異色の銀行だ。設立20年と歴史は浅いが、数々の特徴をもった型破りの金融機関でもある。銀行としての店舗は持たず、顧客との取引は主にインターネットを通じての取引。そして何よりの特徴は、定期預金の金利が金融界最高の水準にあることだ。
 ──米大リーグ、ヤンキースのイチロー選手を使ったCMが印象的ですが、どんな銀行ですか
 「店舗を持たずインターネットを通じてお客さまから預金をお預かりするという面ではネット銀行ですが、住宅ローンや法人融資については、必ず営業マンがお客さまと顔を合わせてご提案を行っています。一口にネット銀行といってもATM網を使いそのサービスに特化している銀行、決済機能を重視している銀行など、いろいろなタイプの銀行があります」
 ──定期預金「eダイレクト預金」の金利が高い銀行として評判になったこともある
 「少し前までは1年ものの定期預金金利が0・3%台でしたが、だんだん落ちてきて、いまは0・27%(2013年7月末時点)になってますが、高水準であることには変わりありません。これも窓口を持たず、機能をシンプルにすることで、システム投資も抑えてきたことからできたことだと思っています。コストをなるべく低く抑えて、その分お客さまに還元していく。それが当社のポリシーです」
 ──御社は1997年に自主廃業した山一証券の子会社、山一信託銀行を前身とし、98年にオリックス信託銀行として再スタートを切りました。その後、信託の名が消えてしまったようですが
 「いまでも信託事業は継続してますが、銀行業務の方が事業ウエート面で資産規模1兆円を超えた時期でもあり、2011年に社名から信託の文字を取りました。ただ、今年5月から『eダイレクト金銭信託』の取り扱いを開始し、信託事業に新しいパワーを吹き込んでいます」
 ──何が狙いですか
 「アベノミクスで景気が上向きになってきた今、若干のリスクを取って預金より高いリターンを求める層も増えてきているのではないかと判断し、新しい金銭信託メニューを提案してみたわけです。預金より高いリターンを志向される方に好評いただいています」
 ──13年3月期は、4期連続の増収増益と好調な決算でした
 「純利益が60億円と、07年3月期の62億円に次ぐ好決算でした。理由の一つは主力である不動産投資ローンが相変わらず堅調だったことにある。もう一つは信用コスト(不渡り、貸し倒れなどに対するコスト)が少額で済んだことです」
 ──不動産投資ローンとは
 「ワンルームマンションやアパートなど投資用物件などへの融資です。10年以上も前から力を入れてきましたが、これらの住居は女性の職場進出もあるのか、近年急速に需要が高まりつつある。指紋でなければ入れないなどセキュリティーも完備し、需要が高まっているのでしょうか。それを投資用として購入されている方が増えている。4年前からは法人融資も本格化させてます」
 ──最近、カードローンも始めた。パソコンを開けると広告が目に飛び込んできます
 「12年3月から始めています。3年前、改正貸金業法が完全施行され、総量規制が行われることになった。その結果、貸金業者の融資が大幅に減少、市場は縮小していった。一方、それを機に銀行は本格的にこの貸金業、すなわち無担保融資分野へ進出したわけですが、われわれも銀行の使命として、あるいは一つのビジネスチャンスと見て、この分野への参入を決めました」
 ──この無担保融資分野へ出ていくのには、ノウハウが必要なのでは
 「その点、当グループにはオリックス・クレジットという無担保金融を手がけてきたグループ企業があります。そこのノウハウ、言い換えれば顧客に対する審査能力ですね。それを十分活用させていただいている。事業は順調に進み、スタート1年強で、200億円ほどの融資残高を積み上げています」
 
 
 【家族】 妻と1男1女の4人家族。年に1度家族で旅行を楽しんでいる。
 【健康法】 「土日はよくジムへ行っています。走ったり泳いだり。ほぼ毎週。そのおかげか体調は良好です」
 【アルコール】 「付き合い程度に、普通に飲みます。日本酒が多いかな。基本的に好きなんだけれど、そう強くもないですね」
 【好きな人物】 大久保利通、正岡子規。「大久保利通はその粘り強さにひかれる。正岡子規はその博覧強記ぶりに頭が下がる。近代日本語の父といってもいいのではないですか。『墨汁一滴』『病牀六尺』などを読むと、その博識ぶりと病気にも負けない偉さがわかります」
 【テレビ】 「実は、映画以外はあまり見ません」
 【プロ野球】 「もちろんパ・リーグはオリックス。年に数回は球場に行き、(交流戦では)横浜スタジアムにも足を運びました。オリックスは調子を上げつつあるので、楽しみです」。セ・リーグはヤクルトのファン。
 【最近読んだ本】 「池井戸潤のファンで、企業小説、サラリーマン小説にはまっています。『空飛ぶタイヤ』『下町ロケット』『ルーズヴェベルト・ゲーム』、ドラマ・半沢直樹の原作など片っ端から読破しています。自身も銀行マンだったそうですが、とにかく面白い」
 
 【会社メモ】本社・東京都港区。1993年8月、山一信託銀行として設立。98年4月、オリックスグループに入り、同8月、オリックス信託銀行に社名変更。2001年、ネット取引専用定期預金「eダイレクト預金」を商品化し、09年には同預金の法人向け取り扱いを始めた。11年3月、預金残高1兆円を達成。同10月から現社名に。12年「オリックス銀行カードローン」、今年「eダイレクト金銭信託」の取り扱いも始めた。資本金450億円、従業員数617人(派遣・アルバイト含む)。13年3月期、経常収益320億円、純利益60億円(4年連続増収増益)。

 MSN産経ニュース2013618日)
 
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