⚪︎2024年10月3日(木) ソワレ(18:30-)  於:新国立劇場オペラパレス
ベッリーニ(Bellini)「夢遊病の女(La Sonnambula)」


新国立劇場オペラ、2024-2025シーズンの幕開けは、新国立劇場では初演となるベッリーニの代表作の一つ、「夢遊病の女」です。先日MET Live Viewingで予習😅をしてきたところですが、ベッリーニらしい流麗な音楽とベルカントの技巧が楽しめる中々の傑作でした


本公演は、新国立とテアトロ・レアル、リセウ大劇場及びパレルモ・マッシモ劇場との共同制作とのこと。最近は製作費が高騰してきて、どの劇場も苦労しているのか、このパターンが増えてきているような気がしますが、その分、国際色豊かな製作陣の仕事と演出が体験できるということで、今回も演出のバルバラ・リュックがどのような解釈をしてくるか楽しみです

加えて、タイトルロール?の「夢遊病の女」ことアミーナを演じる予定だったローザ・フェオラが、自分の声質がアミーナ役に合わなくなってきたという「芸術上の理由」により降板、代わって最近注目されているイタリアの若手歌手、クラウディア・ムスキノが本邦初登場ということで、その辺りも楽しみに行ってまいりました

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〇キャスト等:
指揮 マウリツィオ・ベニーニ(Maurizio Benini)
演出 バルバラ・リュック(Barbara Lluch)

アミーナ(S) クラウディア・ムスキオ(Claudia Muschio)
エルヴィーノ(T) アントニーノ・シラグーザ(Antonino Siragusa)
ロドルフォ伯爵(B) 妻屋秀和
テレーザ(Ms) 谷口睦美
リーザ(S) 伊藤晴
アレッシオ(Br) 近藤圭
公証人(T) 渡辺正親

合唱指揮 三澤洋史
合唱 新国立劇場合唱団
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団

 



IMG_8514〇感想:
 いやー、素晴らしかったと思います
 演出面では賛否あろうかと思いますが、美術面はすっきりとしたシンプルな作りながら、センスを感じるもの。1幕は舞台中央奥にぽつんと立つ杉のようなヒノキのような大木の上部に、粗末な男女の人形がくくりつけられているだけ、2幕前半は蒸気機関と水車?が組み合わされたような構造物がおかれた中で、2幕後半は方形の教会風の木造っぽい建築物の周辺で、お芝居が進行します。

1幕及び2幕冒頭でダンサーが10人ほど登場し、アミーナの周りで夢魔のような感じで彼女を揺さぶりつつ踊るシーンが数分あるのですが、音楽が始まる前はそうでもないのですが、音楽が始まってしまっていると、時折ダンサーの足が床をする音が大きく響いてちょっと邪魔に感じましたまあ、意図はわからなくもないのですが(^^;

一番感心したのは、ネタバレになるので詳しく書きませんが、演出のバルバラ・リュックが単なるハッピーエンドの喜劇にしたくないと言っていたのは、こういう意味かと腑に落ちたラストシーンの演出でした

さて、キャストの感想ですが、まずはお目当てのアミーナ役のクラウディア・ムスキオ、期待どおりだったと思います日本人とさほど変わらぬ細身の体形(しかもなかなかの美貌(^^;))で、圧倒的な声量という訳ではありませんが、落ち着いたやや暗めの響きのソプラノで自然で力みのない発声、とにかく声が美しくずっと聴いていたい感じ冒頭のアリアも良かったですが、何といっても2幕ラストの長大なアリアが素晴らしかったです歌だけでなく夢遊病のさなかの忘我の表情もなかなかリアルでした
イタリア出身で、現在はシュトゥットガルト州立劇場の専属歌手ということですが、まだ28歳と若く、つい先日同劇場でこのアミーナ役を演じて絶賛されたとのこと。今日もカーテンコールでは大きな歓声を受けていました。新国デビューも成功裡に終わり(まだ公演は残っていますが)、今後国際的にも活躍してくれそうですし、日本にもまた来てもらいたいものです

そしてエルヴィーノのアントニーノ・シラグーザ、こちらは好対照のやや細めの底抜けに明るい実に若々しい歌声で、声がピカピカ輝いている感じ大体テノールはちょっと単純で行動がおバカというか軽率で悲劇を招く役柄が多い気がしますが(^^;そんな役回りにピッタリでした(皮肉や嫌味ではありません笑)
10月5日が還暦を迎える誕生日とのこと、幕間にホワイエでメッセージを募っていましたが、カーテンコールでは、突然オケと合唱陣がハッピーバースディを演奏しだすサプライズ演出で、本人は大感激、観客も大盛り上がりでした

ロドルフォの妻屋さんはいつもながら安定の出来、テレーザの谷口さん、リーザの伊藤さんら日本人キャストも好演、今日は素晴らしい歌をたっぷり楽しみことができました

指揮やオケの巧拙については正直語る能力はありませんが、ベニーニはゆっくりめのテンポでたっぷりと歌わせていた感じ。歌手陣は気持ちよく歌えたのではないでしょうか

ということで、今日は個人的に非常に満足度の高い公演でしたが、お客さんの反応も良く、カーテンコールはブラーヴォが飛び交い大変盛り上がっていました
ただ、残念なのはシーズン開幕で初上演作品、新制作にもかかわらず、平日ソワレということもあってか、お客さんの入りはいまいち2階席S席はガラガラ状態で、全体で6-7割前後の入りでしょうか?公演のクオリティを考えるともったいない話です
余談ですが、(A席で)隣に座っていたイタリア人と思われる壮年のご夫婦が2幕になっていなくなったなあと思っていたら、ちゃっかり前方の空いていたS席に座っておられました
列車の指定席でも向こうの人たちは空いていたら構わず座るんですよね。ま、誰にも迷惑かけていないだろうってな感じですね(^^;

とういことで、まだ4公演残っていますので、次公演の日曜からは満席になることを願いつつ、劇場を後にした次第です。

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〇評価:☆☆☆☆★ 

⚪︎2024年9月22日(日) 英国ロイヤルオペラハウス シネマシーズン2023/2024
ジョルダーノ「アンドレア・シェニエ(Andrea Chenier)」(上演日2024年6月11日) 
於:TOHOシネマズ日本橋 スクリーン5 (14:45-)


ROHシネマシーズン2023/2024の掉尾を飾るとともに、アントニオ・パッパーノのROH音楽監督として最後の指揮となるのは、ジョルダーノの代表作「アンドレア・シェニエ」。
もちろん実演は見たことがなく💦ジョルダーノのオペラ自体、昨年3月METライブビューイングで観た「フェドーラ」以来2回目の鑑賞となります

現代最高のテノールの1人、タイトル・ロールのヨナス・カウフマンは映像で「カルメン」のドン・ホセ役を観たことがあるだけ、ヒロインのソンドラ・ラドヴァノスキーは、今年のロイヤル・オペラ来日公演でトゥーランドット役を観るはずが急遽降板したため、こちらは全くの初見となります。

上述の「フェドーラ」より本作の方がジョルダーノの傑作とされ上演機会も多く、そこそこ有名なアリアもあるようなのでキャスト同様楽しみに行ってまいりました。

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⚪︎キャスト等:
指揮 アントニオ・パッパーノ
演出 デイヴィッド・マクヴィカー

アンドレア・シェニエ(T)  ヨナス・カウフマン
マッダレーナ・ディ・コワニー(S)  ソンドラ・ラドヴァノフスキー
カルロ・ジェラール(Br)  アマルトゥブシン・エンクバート
ベルシ(Ms)  カティア・ルドゥー
コワニー伯爵夫人(Ms)  ロザリンド・プロウライト
マデロン(Ms)  エレナ・ツィリオ
ルーシェ(Br)  アシュリー・リッチーズ
密偵(T)  アレクサンドル・クラヴェツ


ロイヤルオペラ合唱団(合唱指揮 ウィリアム・スポールディング)
ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団

⚪︎感想:
いやー、カウフマン、ええ声してますね

お話自体は、実在の詩人、アンドレア・シェニエの残した詩を手がかりに、そこからヒロインや恋敵を創り上げ、フランス革命前夜から革命後、シェニエが断頭台の露と消えるまで(これは史実)の波乱に満ちた半生を描いたフイクションで、非常にドラマチックな筋立て。ラスト、マッダレーナが他人の身代わりとなってシェニエとともに断頭台に向かうところは、同じフランス革命を背景としたディケンズの「二都物語」を思い出しました。
マクヴィカーの演出は本物にこだわったもので、衣装も下着まで当時使われていた麻を用いるほどの凝りよう1幕のコワニー伯爵家の大邸宅の広間は中々豪華に再現されていました

さて問題のキャストですが、上述のようにカウフマンの逞しく男性的なテノールに圧倒されましたテノールでもあんな声が出せるんですね驚きです。ただ声が逞しくパンチが重いだけでなく、輝かしく美しい響きを持っているところが素晴らしかったです
対するヒロイン、マッダレーナのソンドラ・ラドヴァノフスキーですが、素晴らしく上手いとは思うのですが、どうにも貫禄がありすぎて容姿も(失礼!😅)声質も設定上の令嬢というイメージに合わず、違和感が付き纏ってしまいました💦どちらかというと侍女のベルシ役のカティア・ルドーの方が、メゾですが歌唱は令嬢に聞こえました

カウフマンも素晴らしかったのですが、今日一番感心したのはジェラール役のアマルトゥブシン・エンクバートで、昨年9月のローマ歌劇場来日公演「椿姫」のジェルモン役で観ていますが、その時と同様、とにかく圧倒的な響きと声量で、こちらも普通のバリトンを超えるバス並みのエネルギー量とバリトンの音域と軽快さを兼ね備えた歌唱で、カウフマンを喰う存在感カーテンコールでは、やはり一番歓声が大きかったです

ということで個々の歌手の素晴らしさも実感でき、いくつかの素晴らしいアリアも含めジョルダーノのドラマチックな音楽もそこそこ堪能したのですが、こちらの体調がイマイチだったせいか、全体としての印象はまあまあな感じ😅ふと気づくと2幕のラストの方は、うつらうつらしていました

とはいうものの、今日のROHシネマは、連休の中日でそもそも人出が多いせいか、上演が比較的珍しい演目のせいか、珍しくかなり(7割程度?)お客さんが入っており、びっくりしました

来シーズンも「ワルキューレ」(パッパーノが早速客演で振るとか笑)、「ホフマン物語」、「トゥーランドット」(ソンドラ・ラドヴァノフスキーがタイトル・ロール)など注目作が目白押し(個人的にはバレエ部門の「アリス・イン・ワンダーランド」が必見😅)のROHシネマ、できるだけ観たいと考えています。

⚪︎評価:☆☆☆

⚪︎2024年9月21日(土) マチネ(14:00- ) 東京芸術劇場シアター・オペラVol.18 
 ジャコモ・プッチーニ/歌劇「ラ・ボエーム」(新制作) 
 全4幕イタリア語上演 日本語・英語字幕付き


 本年末の引退までカウントダウンが始まっている井上道義氏が最後に振るオペラ、「ラ・ボエーム」。永遠の青二才を自称、希求する氏に相応しいと、自他ともに認める演目、ということでしょうか
 もちろん個人的にも大好きな作品で、実演は去年3月の小澤征爾音楽塾による演奏同じく7月の新国立劇場以来、いずれも良い出来で楽しんだ記憶があります

今回はマエストロの白鳥の歌であること、森山開次による演出・振り付け・美術・衣装の新制作版、さらに招聘組を含めて若手の実力者を集めたキャスティング、加えてコンサートホールでの上演ということで、興味津々で行ってまいりました

IMG_8483⚪︎キャスト等:
指揮 井上道義
演出・振付・美術・衣装 森山開次

ミミ(S)  ルザン・マンタシャン(Ruzan Mantashyan)
ロドルフォ(T)  工藤和真
マルチェッロ(Br)  池内響
ムゼッタ(S)  イローナ・レヴォルスカヤ(Ilona Revolskaya)
コッリーネ(B)  スタニスラフ・ヴォロビョフ(Stanislav Vorobyov)
ショナール(Br) 高橋洋介
ベノア(B) 晴雅彦
アルチンドロ(B)  仲田尋一
パルピニョール(T) 谷口耕平
ダンサー 梶田留以、水島晃太郎、南帆乃佳、小川莉伯
合唱
ザ・オペラ・クワイア、世田谷ジュニア合唱団
管弦楽 読売日本交響楽団
バンダ ベル・ラ・ボエーム

IMG_8485⚪︎感想:
楽しめました
コンサートホールゆえ、プロセニアムがないので中々「舞台」の空間を形づくるのは難しいと思いますが、ステージ上に3段程度のごく低い段差の高低差を設け、仮想的に室内と室外を区分する構想。大きな構造物は設けずに、小道具や背景、プロジェクトマッピング、さらには衣装も含めて、各幕の場面をイメージしていく手法は中々考えられていたと思います

他方、4人のダンサー(芸術の精みたいなものをイメージしているとか)が時折舞台の四隅で踊るシーンは暗がりでよく見えないことも効果がよく分からず😅また、藤田嗣治に重ねたらしく、おかっぱの黒髪に丸メガネ、チョビ髭姿のマルチェロにはちょっと違和感がありました
2幕冒頭の無音のピエロのコント風のパントマイムとともに、演出意図がよく分からない部分が結構あり、意欲的ではあるのですがちょっと空回りの感がありました

キャストに関しては、まずミミのルザン・マンタシャンが素晴らしかったと思います何というか非常に自然で無理のない発声、癖のない声質で、どの音域も聴いていて非常に心地よくスムーズな感じ。個人的には今まで聴いたミミの中で一番しっくりきました演技は比較的あっさりめだったかもしれませんが、自然な歌唱が楽曲の持てる魅力を十分に引き出してくれるので、とりわけ4幕は感動的、久しぶりに泣きそうになりました💦今後の活躍に期待です

ロドフルフォの工藤さんも良かったと思います響きの美しい伸びのある声で、1幕のロドルフォのアリア「冷たい手を」では、バッチリHigh Cを決めてくれました後半、高音部でちょっとハラハラするところもありましたが、最後まで頑張っていました

マルチェロの池内さんも良い声してますこちらは最初から最後まで鉄板の安定感で声量も十分藤田風の仮装?も意外にお似合いでした(笑)

コッリーネのスタニスラフ・ヴォロビョフも堂々とした体格からの重厚で朗々とした歌声で不満は全くなかったのですが、招聘組でちょっと物足りなかったのがムゼッタのイローナ・レヴォルスカヤ。やや喉が閉まったような硬い声で、ミミのルザン・マンタシャンとの差が歴然としており、少なくとも個人的には好みの声ではなかったのが残念でした

そのほかショナールの高橋洋介さん、ベノアの晴雅彦さんなども安定の出来で、マエストロ井上の振る読響も、少し鳴らし過ぎの部分もありましたが、全体として音楽が自然に流れており、4幕を通して違和感なくお芝居を楽しむことができました

マエストロは一見お元気そうで、カーテンコールではショーマンシップを発揮していましたが、指揮台に慎重に歩を進める感じを見ると、やはり肉体的な衰えというか、病の影響は隠せない感じ。引退は残念ですが、残る公演を無事にやり切っていただくことを願うばかりです

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⚪︎評価:☆☆☆☆

⚪︎2024年9月16日(月) マチネ(15:00-) 東京・春・音楽祭 於:オーチャード・ホール
 リッカルド・ムーティ指揮 ヴェルディ「アッティラ」
    演奏会形式 プロローグ付き全3幕字幕付き (Live Streamingで視聴)

 東京春祭の番外編?イタリア・オペラ・アカデミーin 東京vol.4で再びムーティ御大が来日、若手への指導と併せて演奏を披露する趣向です。演目はヴェルディ初期の作品「アッティラ」、傑作「マクベス」の直前に書かれた作品のようですが、当然聞いたことはなく😅ムーティが振ることもあり、聴きたのいのはやまやまだったのですが、一昨日のミョンフンの「マクベス」をはじめ3連休は連続してお出かけとなり、この日も午前中は美術館に行っていたため、体力的な部分を考慮して断念(チケットも高額でしたし🥵)、大人しく家でストリーミング(1,800円)で楽しむことにした次第です

スマホからの4K画像をテレビに繋ぎ、さらにサウンドバーを併用しても、音響はリアルのコンサートホールとは比較にならないので、今日の視聴はあくまで参考レベル、どんな作品かお勉強のつもりでの鑑賞となりました


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⚪︎キャスト等:
指揮 リッカルド・ムーティ(Riccardo Muti) 

アッティラ(B) イルダール・アブドラザコフ(Ildar Abdrazakov)
エツィオ(Br) フランチェスコ・ランドルフィ(Francesco Landolfi)
オダベッラ(S) アンナ・ピロッツィ(Anna Pirozzi)
フォレスト(T) フランチェスコ・メーリ(Francesco Meli)
ウルディーノ(T) 大槻孝志
レオーネ(B.Br) 水島正樹

管弦楽 東京春祭オーケストラ
合唱 東京オペラシンガーズ
合唱指揮 仲田淳也


⚪︎感想:
ストリーム配信なので評価は難しいのでごく簡単に。全体の印象としては、中々重厚な良い作品だったと思います特にヴェルディらしく合唱の比重が高く、勇壮な雰囲気は「ナブッコ」を彷彿とさせるところもあり、聞き応えがありました

本日の公演は文字通りの演奏会形式で特に演出面での小細工はなし(笑)
指揮台の直下、ムーティを囲むようにソリストが陣取り、譜面台もあって、歌手は演技なしで歌に専心。全てをコントロールする帝王の前で一切ミスは許されません😅
そのムーティ御大、御歳83歳と感じさせないエネルギッシュ、かつ、弱音から強音まで一音たりとも揺るがせにしない細かで繊細な指揮ぶりが圧倒的で、その指揮に応えてオケもソリストも極めてダイナミックレンジの広い迫力あるサウンドを紡いでいた、ように聴こえました😅

個々のキャストの評価も生ではないので難しいのですが、まずタイトル・ロールのイルダール・アブドラザコフはバスらしく堂々とした体躯から押し出しの良い、響きの深い声でフン族の王らしい威厳のあるところを見せ、好演オダベッラのアンナ・ピロッツィは相当強靭なソプラノで、声量も十分に見受けられ、これも役どころにピッタリな感じ、フォレスト役のメーリは冒頭こそ抑え気味だったのか高音が少し本調子でないような気もしましたが、徐々に全開となりこれまた英雄らしい勇壮なテノールを聴かせてくれました
エツィオのフランチェスコ・ランドルフィは、上記3人に並ぶとちょっと地味目でしたが、悪くはなく脇役としてはこれぐらいの渋めの声で丁度いい感じでした😅

ということで、まだまだヴェルディには聴くべき作品が多いことがわかった視聴でしたが、一昨日のミョンフンと同じく、演奏会形式も良いのですが、ムーティの振るフルステージのオペラ公演も是非見てみたいと思った次第です
 

⚪︎2024年9月15日(日) 15:00- チョン・ミョンフン指揮/東京フィルハーモニー交響楽団 第1004回オーチャード定期演奏会 於:オーチャード・ホール

 ジュゼッペ・ヴェルディ:歌劇「マクベス」 

演奏会形式 全4幕 日本語字幕付き原語(イタリア語)上演

 御大ミョンフンが定期演奏会の一環として取り上げてくれるオペラ演目、一昨年は「ファルスタッフ」、昨年は「オテロ」、今年はこの「マクベス」でヴェルディのシェイクスピア・シリーズ?が完結となります
演奏会形式ながら充実した内容とお手頃な観劇料金でコスパの極めて高いこのシリーズ、一昨年の「ファルスタッフ」は大いに楽しんだのですが、昨年はコロナに感染して泣く泣くチケットを手放す結果に
今年はその雪辱を果たすべく、残暑厳しい中、体調を整えての参戦となりました

個人的にはマクベスの実演版を観るのは、昨年のニッセイ・オペラに続いて2回目となりますが、元々がシェイクスピアの4大悲劇とされるだけあって、緊迫感とスピード感溢れる筋だてに、劇的かつ美しいヴェルディの音楽が加わっているので、これで面白くならないわけがありません
今回、マクベス役は一昨年の「ファルスタッフ」でもタイトル・ロールを演じたセバスティアン・カターナが再び主役を演じるということで、ミョンフン御大の信頼の厚いことが伺われますし、その他のキャストも実力者揃いということで、大いに楽しみに行ってまいりました

IMG_8468⚪︎キャスト等:
指揮 チョン・ミョンフン

マクベス(Br) セバスティアン・カターナ(Sebastian Catana)
マクベス夫人(S) ヴィットリア・イェオ(Vittoria Yeo)
バンクォー(B) アルベルト・ペーゼンドルファー(Albert Pesendorfer)
マクダフ(T) ステファノ・セッコ(Stefano Secco)
マルコム(T) 小原啓楼
マクベス夫人の侍女(Ms) 但馬由香
医者(B) 伊藤貴之
マクベスの従者、刺客、伝令(Br) 市川宥一郎
第一の幻影(Br) 山本竜介
第二の幻影(S) 北原瑠美
第三の幻影(S) 吉田桃子

合唱 新国立劇場合唱団(合唱指揮 冨平恭平)
 
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⚪︎感想:
期待どおりで大変良かったと思います
演奏会形式ということで椅子とソファ程度の小道具、あとは照明を場面場面で工夫する程度の演出でしたが、歌手陣は譜面を見ずにしっかり演技をつけ、時には舞台の端から端までを使っての歌唱でした

キャストの感想ですが、まずタイトル・ロールのセバスティアン・カターナ、今回もしっかりと響きと輝きを持った豊かで美しいバリトンで聞かせてくれました本演目では、マクベスのソロの聞かせどころは実は少ないのですが、第4幕でのロマンツァ、「哀れみも、名誉も、愛も」では盛大な拍手と歓声(ブラーヴォ)が上がっていました

そして影の、というより物語を動かすという意味で実質的に主役に近いマクベス夫人を演じたヴィットリア・イェオ、彼女が想像以上に素晴らしかったです強く豊かな響きを持ったドラマティコ・ソプラノで歌唱も良かったですし、演技も気持ちが入っていました2幕の「光は衰え、灯火も消え」と4幕の「まだここに血の染みがひとつ」(夢遊の場)の二つのアリアでは今日一番の盛大な喝采が送られていました

バンクォーを演じたアルベルト・ペーゼンドルファーも、カターナを上回る長身巨体と地を揺るがすようなど迫力の歌唱で存在感は今日一番ワーグナーも得意としているようですがさもありなんです😅

それに比してどうしてもこの演目ではスケールが小さく見えてしまうテノール陣、マクダフのステファノ・セッコとマルコムの小原啓楼氏も悪くなかったのですが、音の密度と迫力で上記3人に水を開けられ、ちょっと存在感は薄めでした💦

ファルスタッフでは少しおふざけも入っていたミョンフン御大も、今日は悲劇とあってか指揮に専心😅御大の振る東京フィルはメリハリ、緩急の効いた演奏でダイナミックレンジも大きく、こちらも見事な演奏黒っぽい衣装で、舞台前方で魔女の合唱を半ば踊りながら演じた女声合唱陣も健闘していて、中々面白い演出でした

ということでB席6,300円という極めて高いコスパを考慮すると、否それを別にしても、非常にレベルの高い公演だったと思います
是非来年も東京フィルとミョンフン御大にはオペラ演目を取り上げて演奏してもらいたいのですが、どこかでマエストロによるフルのオペラ公演も観てみたいな、と思いながらオーチャードホールを後にしたしだいです

⚪︎評価:☆☆☆☆ 

⚪︎2024年8月31日(土) 10:30- MET ライブビューイング アンコール2024
 ベッリーニ「夢遊病の女(La Sonnambula)」 (イタリア語) 於:東劇
  (上演日:2009年3月21日 午後1時~) 


毎年この時期に東劇で上映される「METライブビューイング アンコール」、魅力的な演目が再上映されるのですが、見に行くのは今年が初めて😅
今年も観たい演目が目白押しながら、日時と上演時間を考慮して選んだのがこの「夢遊病の女」
未見かつ今シーズンの新国立劇場オペラの幕明け演目ということ、現代最高のソプラノ(の1人)とされながら、2013年にオペラからのリタイアを表明し(さらに2025年限りでクラシック界からも引退するとか)、舞台上でお目にかかることのできなくなったナタリー・デセイが主演ということで、天候不順の中、東銀座まで行ってまいりました


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⚪︎キャスト等:
指揮 エヴェリーノ・ピド(Evelino Pido)
演出 メアリー・ジマーマン(Mary Zimmerman)

アミーナ(S)  ナタリー・デセイ(Natlie Dessay)
エルヴィーノ(T)  ファン・ディエゴ・フローレス(Juan Diego Florez)
ロドルフォ(B)  ミケーレ・ペルトゥージ(Michele Pertusi)
リーザ(S)  ジェニファー・ブラック(Jennifer Black)
テレーザ(Ms)  ジェーン・ブンネル(Jane Bunnel)
アレッシオ(B)  ジェレミー・ガリョン(Jeremy Galyon)

⚪︎感想:
なかなか面白かったです
「ノルマ」を書いたベッリーニの作品であることや、タイトルからはやや重たい筋を想像していましたが、
「村の富裕な地主エルヴィーノと婚約したばかりの、村一番の可憐な娘アミーナが実は夢遊病で、その発作?のために、数十年ぶりに村を訪れた領主のロドルフォが泊まった宿の一室に迷い込んでしまい、それを宿の女主人リーザに目撃される。ロドルフォはアミーナが口走る言葉から事態を察し、静かに部屋を去るが、アミーナはそのまま伯爵の部屋で寝入ってしまう。エルヴィーノに気のあるリーザは、宿にエルヴィーノや村人を呼び込みアミーナの寝姿を見せる。誤解したエルヴィーノは激怒のあまり、婚約解消を宣言し、アミーナに与えた指輪まで取り上げてしまうが...」
みたいな感じで、最後はハッピーエンドの軽めの喜劇。音楽もそれに相応しく、軽快で明るい色調のものでした

原作(オリジナル)では、舞台は19世紀初め、スイスの山村ということですが、本公演では、現代のオペラカンパニーの練習スタジオが舞台。その中で劇中劇たる「夢遊病の女」が演じられるという想定のようですが、一体どうやって虚構と現実の折り合いをつけるのかと思っていたら、特にひねりはなく、ラストのみ全員がスイスの民族衣装風の衣装でダンスとなる(笑)以外は、舞台セットが現代風というだけでした😅
ただし、練習スタジオ自体は小物も含めて極めてリアルで精巧、大掛かりなものでした

肝心のキャストのパフォーマンスについてですが、本公演は一言で言って“ファン・ディエゴ・フローレス祭り“(笑)どの音程でもスムーズで輝かしい響き、爽快なまでに超高音も難なくキメまくる超絶技巧に圧倒されました「ああ、何故君を嫌いになれないのだろう(Ah,perche non posso odiarti」には観客も大喝采でショーストップ現代最高のベルカントテノールと言われるのも納得です終幕で和解したアミーナとダンスを踊るシーンの不器用な感じもご愛嬌と言ったところ😅今年来日して、プリティ・イェンデとのデュオ・コンサートがあったのですが、多少無理をしてでも行けば良かったと激しく後悔した次第です💦

主役アミーナのナタリー・デセイですが、こちらはやや本調子でなかったのか、故障と手術を繰り返した後で全盛期を過ぎていたためか中低音域でちょっと声がハスキーというか、カスカスした感じなのが気になりましたしかし、聴かせどころのアリアでは流石のテクニックと力みのない自在な歌唱を披露特に最後の「ああ、これ以上ない喜び(Ah! non giunge uman pensiero) 」は素晴らしかったと思います

脇ではロドルフォのミケーレ・ペルトゥージがこれまた美しいベルカントで流石の存在感、リーザ、テレーザの女声陣も悪くなかったです

ということで、ベルカントオペラの魅力がたっぷりと詰まった本作、重厚な「ノルマ」も良いですが軽快なこの作品も中々のもので、10月のシーズン幕開けの新国立劇場での公演が楽しみになりました


⚪︎評価:☆☆☆ ★


⚪︎2024年8月17日(日) 16:00-  於:サントリー・ホール
 第53回サントリー音楽賞受賞記念コンサート
 濱田芳通 指揮・リコーダー ヘンデル/オペラ「リナルド(Rinaldo)」
    (セミステージ形式 全3幕イタリア語上演・日本語字幕付き) 

 およそ1ヶ月ぶりのオペラ観劇はヘンデルの傑作オペラ「リナルド」と言っても実演を聴くのは初めてで、超有名なアリア「私を泣かせてください(Lascia ch'io pianga)」は知っていましたが、耳馴染みなのはそれくらい😅 CDでも全曲を通して聴いたのは1、2回程度です

同様に指揮・リコーダーの濱田芳通さんも寡聞にしてこれまで存じ上げませんでしたが、どうやらその世界では著名な方のようで、彼の率いる古楽アンサンブルのアントネッロともども、一体どんな音を聴かせてくれるのか、台風一過の猛暑の中、楽しみに行ってまいりました

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⚪︎キャスト等:
指揮・リコーダー 濱田芳通
演出 中村敬一

リナルド 弥勒忠史(カウンター・テナー)
アルミレーナ 中川詩歩(ソプラノ)
ゴッフレード 中嶋俊晴(カウンター・テナー)
アルミーダ 中山美紀(ソプラノ)
エウスタツィオ 新田壮人(カウンター・テナー)
アルガンテ 黒田祐貴(バリトン)
魔法使い/ドンナ 眞弓創一(カウンター・テナー)
伝令/セイレーン1 中嶋克彦(テノール)
セイレーン2 山際きみ佳(メゾ・ソプラノ)

舞踊 西川一右

管弦楽 アントネッロ



⚪︎感想:
感想の前に補記として。
今日はHPにセキュリティ・チェックがあるので早めに入場して欲しいと書いてあったので、どなたか皇族がお見えになるのであろう、もしかして陛下かな?と思っていたら、案の定、天皇陛下がご観覧でした
お付きの人たち数人と現れ、RBの9番あたりにお座りになり、最後までご覧になられていました
雅な響きのバロック・オペラ、しかもヘンデルがイギリスに渡って、貴族らの要請を受けて最初に書いたオペラ、ハノーヴァー朝のジョージ1世を歓迎し、その正統性を補強するかのような筋立てということで、皇族の方がご覧になるのに相応しいオペラということでしょうか?

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閑話休題


いやー、面白かったです
プログラムのノートに濱田氏が書いていたように、かなり喜劇色強めの演出で、そこかしこで笑いを誘うような演技と歌唱で楽しませてくれました

セミステージながら、衣装をつけ、小編成の良さを活かして?舞台後方に扇形に盛り上がったステージとオケの前方の両方のスペースを使って演技をする構成。背景(P席側)にはプロジェクトマッピングを使って、影絵風のイメージ画を投影、黙役として西川一右さんが時折登場して歌舞伎風の踊り?ダンス?をしつつ他の出演者に絡むという趣向でした。

管弦楽のアントネッロは小規模編成ながら、サントリーホールの音響の良さもあり音量的にも問題なし。今日はカウンター・テナーが4人という歌手陣ですが、カウンター・テナーの声はアタックが弱いというか、基本ホワホワした優しい響き😅なので、チェンバロ、オルガン、グロッケン?、リュートやリコーダーなど古楽器?の控えめな響きとマッチしていい感じでした。
指揮者の濱田さんも、途中1箇所で小さなリコーダーで鳥の声を模したような演奏をしながらの弾き振りを披露、これが実に美しい音色でうっとりしました

筋立ては単純で、
「聖地エルサレムを巡る十字軍とイスラム勢力の戦いの中、勇士リナルドは、将軍ゴッフレードの娘である恋人アルミレーナを、イスラム勢力側の敵将アルガンテと魔女アルミーダに奪われ、これを奪い返さんとするが、自身もアルミーダの操るセイレーンによって囚われの身となる。ところが、アルガンテはアルミレーナに、アルミーダはリナルドに惚れてしまい、各々求愛するが叶わず、怒ったアルミーダはアルミレーナを殺そうとするが...」という感じで、最後は敗れたアルガンテ、アルミーダが改悛してキリスト教に改宗するという、かなりおめでたいお話です😅

という軽い内容なので見ている方もお気楽に歌を楽しむ感じで、まさにバロック・オペラらしく、登場人物がかわるがわる歌っては引っ込み、登場してきてはまた歌い、という歌合戦状態(笑)
ほとんど重唱らしい重唱もなく(全幕でデュエットが3回程度?と最後の合唱のみ)、高速のアジリタや装飾音、カデンツァなど歌手の技量の披露の場となっていましたが、それもまた良しという感じです

キャストでは、何と言っても4人のカウンター・テナーが秀逸でした。当たり前ですが、それぞれ声質が違うところが面白く、主役のリナルドを演じた弥勒忠史さんはリリコ・レッジェーロのような軽く澄んだ声で、可愛らしいとさえ言える感じ、ゴッフレードの中嶋俊晴さんは女声で言えばメゾかアルトのような深い響き、エウスタツィオの新田壮人さんは抜けの良い華やかな声、ドンナの眞弓創一さんは残る3人の中間?😅とそれぞれ個性があって楽しめました

このほか、ヒロイン、ダーク・ヒロイン💦の両ソプラノ(中川詩歩さん、中山美紀さん)、アルガンテの黒田裕貴さんも前述の4人同様、歌唱、演技とも頑張っていましたし、その他のキャストも素晴らしかったと思います

ということで、中々に楽しい演奏会で終演時には大きな拍手と歓声が送られていました
濱田氏とアントネッロは、来年2月には神奈川県立音楽堂で現存する最古(に近い)オペラ、モンテヴェルディの「オルフェオ」を上演するとのこと、俄然楽しみになってきましたちょっと予定が立て込んでいますが、何とか行って見たいと思っています

⚪︎評価:☆☆☆☆

⚪︎2024年7月28日(日) 14:00- 

令和6年度新国立劇場オペラストゥディオ サマー・リサイタル 2024

 於:新国立劇場小劇場  

原語上演/日本語字幕付き

新国立劇場オペラ研修所で学ぶ研修生の中間発表?の場であるサマー・リサイタル 
普段はオムニバスのコンサート形式のリサイタルはそれほど行かない(行けない)のですが、同研修所の今年3月の修了公演“「カルメル会修道女の対話」が素晴らしい出来だったこともあり、酷暑の中少し迷いましたが思い切って出かけてきました
古今のオペラから選りすぐりの10シーンを聴かせてくれるということで、若手の溌剌とした歌唱と演技に期待していってまいりました


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⚪︎キャスト等:
指揮 キャスリーン・ケリー
演技指導・演出 タラ・フェアクロス
ピアノ 石野真穂 高田絢子
ヴァイオリン 増田加寿子

第25期生
大竹悠生(S)
冨永春菜(S)
永尾渓一郎(T)
野口真湖(S)
松浦宗梧(Br)

 

 

第26期生
後藤真菜美(Ms)
谷菜々子(S)
中尾奎吾(Br)
渡邊美沙季(S)

第27期生
有吉琴美(S)
小野田佳佑(Br)
島袋萌香(S)
牧羽裕子(Ms)
矢澤遼(T)

⚪︎セットリスト:
1.モーツァルト「魔笛」より
侍女Ⅰ:有吉琴美 侍女Ⅱ:島袋萌香 侍女Ⅲ:牧羽裕子 タミーノ:矢澤遼 パパゲーノ:小野田佳祐

2.E.カールマン「伯爵令嬢マリツァ」より
タシロ:松浦宗梧 合唱:研修生 ヴァイオリン:増田加寿子

3.O.ニコライ「ウィンザーの陽気な女房たち」より
シューベルリヒ:永尾渓一郎 カーユス博士:中尾奎吾 フェントン:矢澤遼 アンナ:渡邊美沙季

4.R.シュトラウス「ばらの騎士」より
元帥夫人:大竹悠生 オクダヴィアン:後藤真菜実 ゾフィー:冨永春菜 ファーニナル:小野田佳祐

休憩
5.チャイコフスキー「イオランタ」より
イオランタ:野口真湖 ヴァイオリン:増田加寿子

6.チャイコフスキー「エウゲニ・オネーギン」より
オネーギン:中尾奎吾 タチヤーナ:冨永春菜 女性合唱:研修生

7.M.F.カバリェーロ「アフリカの女」の二重唱
アントネッリ:谷菜々子 ジウッセピーニ:永尾渓一郎

8.J.へギー「スリー・ディセンバーズ」より
ビー:野口真湖 チャーリー:松浦宗梧

9.M.アダモ「若草物語」
ジョー:後藤真菜実 メグ:牧羽裕子 ベス:島袋萌香 エイミー:谷菜々子

10.J.シュトラウスⅡ世「こうもり」より
オルロフスキー公爵:後藤真菜実 アデーレ:渡邊美沙季 アイゼンシュタイン:松浦宗梧 フランク:中尾奎吾
ファルケ博士:小野田佳祐 ロザリンデ:有吉琴美 イーダ:谷菜々子 合唱:研修生


⚪︎感想:
中々よかったです楽しませてもらいました
セットリストでいうと、2、3、5、7、8、9が初見でしたが、曲目が古典から現代までヴァラエティに富んでおり、飽きさせない構成も良かったです
特に7のカバリェーロは、スペインのオペラ(オペレッタ?)である“サルスエラ“の作曲家ということで、色彩感とリズム感が独特の音楽、8のJ.ヘギーはMETでも上演された「デッドマン・ウォーキング」の作曲家(残念ながら見てません😅)ということで、現代的なテーマに相応しい響きでした。
意外に感動したのはこちらも現代オペラのM.アダモの「若草物語」で、主人公のジョーが、姉妹がそれぞれの道を歩むことを受け入れ、自らも未来へ向かう決意を語るラストシーンでの美しくもpoignantな四重唱が印象的でした

キャストの印象としては、やはり上級生?の出来が良く(出番も多い)、9以外では、5の「ばらの騎士」での女声三重唱、大竹悠生さん、後藤真菜実さん、冨永春菜さんがそれぞれ素晴らしかったのと、5、8の野口真湖さん、6でタチヤーナを演じた冨永春菜さん、9の後藤真菜実さんが印象に残りました。
個人的には、メゾの後藤真菜実さん、声量はそれほど大きくはないですが、落ち着いた響きでビブラートも安定しており、好みの声でずっと聴いていたい感じ

また、今年3月の「カルメル会」では病気療養中で降板となっていた大竹悠生さんが復活して素晴らしい歌声を聴かせてくれたのは本当によかったです

ということで今日も満足度の高い公演となりました来年春の修了公演は「フィガロの結婚」とのこと、今日の出演者の方も何らかの形で出演されると思いますが、その成長ぶりを楽しみにしたいと思います

⚪︎評価:☆☆☆★

⚪︎2024年7月20日(土)   二期会/プッチーニ「蝶々夫人」(Madama Butterfly)  

於:東京文化会館大ホール 全3幕 日本語及び英語字幕付き原語(イタリア語)上演

「蝶々夫人」に関しては、いずれもアスミク・グリゴリアンがタイトル・ロールを演じて評判となったMETライブ・ビューイングROHイン・シネマの映像が記憶に新しいところ
彼女の絶唱もあって、個人的には、プッチーニのオペラの中でのお気に入りが「トスカ」から「蝶々夫人」になりつつあります😅が、実はフルの実演舞台を生で見るのは今回が初めてそれまではピアノ伴奏による抜粋版や映像のみでの鑑賞でした💦
ということで、満を持してのナマ“蝶々夫人“、二期会と海外の劇場との共同制作(の再演)のようですが、キャストは全て日本人、演出はミュージカルで知られた宮本亜門、衣装は数年前に亡くなった高田賢三ということで、果たしてどんな「蝶々夫人」となっているのか、少なくともヘンテコな“日本“を見せられることはないだろうと思いつつ、行ってまいりました


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⚪︎キャスト等:
指揮 ダン・エッティンガー(Dan Ettinger)
演出 宮本亜門
衣装 高田賢三

蝶々夫人(S) 大村博美
ピンカートン(T) 城宏憲
シャープレス(Br) 今井俊輔
スズキ(Ms) 花房英里子
ゴロー(T) 近藤圭
ヤマドリ(T) 杉浦隆太
ボンゾ(B) 金子宏
ケート(Ms) 杉山由紀
神官(Br)  大井哲也

子ども(黙役) 大塚稜久
青年(黙役) Chion
合唱 二期会合唱団
管弦楽 東京フィルハーモニー合唱団

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⚪︎感想:
うーん、ひとことで言って演出が感心しませんでした💦

(以下ネタバレ注意)



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まず幕が上がると、病室らしきものが現れ、白衣の医師、着物姿の老女、洋装の中年女性がベッドに横たわる白髪の高齢の男性を見守っている模様。そのまま音楽なして黙劇が進行し、臨終の近い高齢男性が、病室に駆け込んできた息子と思しき青年に、今際の言葉?をかけ、さらに手紙のようなものを渡すと、それを読んだ青年は驚愕の表情を浮かべ、そこから音楽が始まり、以降はお馴染みのストーリーが展開して行きます。

実は青年は、ケートとともに引き取った蝶々さんとの間にできた息子が成長した姿で、ピンカートンが死ぬ間際に、何が起こったか、家族の秘密をその息子に告げるという、元々の台本にはないお話をくっつけたもの。

さらに、手紙を読んだ青年は、過去に起こったことを頭中で再現しているのか、それとも時空を超えて過去に飛んだのかわかりませんが、蝶々夫人のお輿入れから自死までの場面の全てに臨場し、目撃することになります。

ということでこの青年(黙役)は、最初から最後まで蝶々夫人以上に文字どおりの出ずっぱり💦それだけでも嫌でも注意が行ってしまうのですが、舞台をちょろちょろとあちこち走り回って、誰それのところへと駆け寄ったり、慨嘆したり憤ったりと忙しいので、見ている方としては気が散ってしょうがありませんし、バタバタと足音もするので音楽の邪魔にもなっていました
(幕間でも、他のお客さんからの「あれうざいわよね」という声が聞こえました💦頑張って演じている青年役の方には申し訳ありませんが)

気になったのはそれだけでなく、例えば、ピンカートンの人間性に少し共感を持たせようという趣旨かわかりませんが、彼が蝶々夫人の元を去った後、従軍の際負傷したという語り(テロップ)を入れて、再度日本に現れた際は松葉杖をつかせるという演出、さらには、蝶々夫人が自死した後、再び病室のシーンが現れ、ピンカートンが死の淵から蝶々さんの名前を呼んでいるかのようなシーン、加えて幕が降りる直前、婚礼衣装姿の蝶々夫人と軍服姿の若きピンカートンが仲良く腕を組んで去っていく後ろ姿が描かれるという、謎のハッピーエンドシーン😅で終幕となりました💦
これは何だったのでしょう、青年(息子)の錯乱だったのか、願望だったのか、はたまた神の救済だったのか....。

「蝶々夫人」は確かに救いのないお話ですが、救いのない話であること、そう感じさせるお話しであることに意味があると思うのですが…。

正直、宮本亜門の演出は、ミュージカルでいくつか見ていますが、どれも感心したことはありません
いつも言うことですが、傑作は(基本、本も音楽も良いはずなので)下手にいじる必要はないので、普通にやってほしいです

というか、いじって面白くなる(良くなる)ケースは個人的にはかなり稀なように思います。

舞台美術に関しては、ほぼ納得のいくもので、プロジェクトマッピングを使った背景なども美しく見応えのあるもの不満と言えば、蝶々さんの家はせいぜい3メートル四方の正方形のミニマムな作りでしたが、病室など必要ないので、そちらにもう少しお金を使って、大きめのものにして欲しかったかなという程度でした。

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キャストに関しては、皆さん頑張っていたと思います。
タイトル・ロールの大村博美さんに関しては、フォルテ部分では個人的にはもう少し突き抜けた強さが欲しかったですが、さすが世界各地で蝶々夫人を演じてきただけに安定の出来でしたし、何より演技が素晴らしかったです個人的には「ある晴れた日に」より、「坊やの母さんは」と「さよなら坊や」の方が好みなのですが、今日もその2箇所はグッときました

対するピンカートンの城宏憲氏、相変わらずのイケメンボイスですが、こちらもやや線が細い感じ。ただ、善人性を強調する?演出の意図からするとこれぐらいで丁度いいのかも😅
ピンカートンは(少なくとも1幕は)もっと自信たっぷり、余裕たっぷりのイケすかない好男子として存在して欲しいのですが、演出もあってか、城ピンカートンはやや神経質で、シャープレスの忠告にもイラつく感じ。加えて、城さん、腕や体の使い方など演技はあまりお上手ではなく(あくまで個人的見解です😅)、全体としてちょっとバタバタというかワチャワチャした感じでした💦

脇を固めるスズキの花房さんとシャープレスの今井さんは、二人とも声がよく通っていて、とても良かったと思いますカーテンコールでは主役の二人に勝るとも劣らぬ声援が飛んでいました

ということで、元々の音楽が素晴らしいだけに、疑問符だらけの演出を除けば大きな不満はなく(ヘンテコな日本を見せられることもなく😅)、そこそこ楽しめました来シーズンの新国立でも「蝶々夫人」がかかるらしい(タイトルロールは小林厚子さん)ので、演出面も含め、どんな舞台になっているのか楽しみにしたいと思います

⚪︎評価:☆☆☆★ 

⚪︎2024年7月13日(土)ソワレ(18:00-)   

ザ・ミュージカル「ムーラン・ルージュ」   於 : 帝国劇場

2019年にブロードウェイで上演され、2020年のトニー賞では作品賞、主演男優賞など10部門を獲得したメガヒットミュージカル昨年帝劇でも上演され、こちらも評判を呼び大ヒットしっかりチケットを確保して待ち構えていたら痛恨のコロナ感染やむなくチケットを手放し見れずじまいでした
本年早速の再演ということで、リベンジすべしと勇んで行ってまいりました
帝劇はかなり久しぶり、調べてみたら2年前に観た「ミス・サイゴン」以来でした

プリンシパルキャストは昨年同様のダブルキャスト、本当は井上芳雄のクリスチャンで見たかったのですが当然の如く早々と売り切れ若手のホープ甲斐翔真くんで、サティーンは望海風斗さんとの間で迷いましたが、とりあえずまずは歌姫、平原綾香さんを選択しての鑑賞となりました

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IMG_8280⚪︎キャスト:サティーン 平原綾香
クリスチャン 甲斐翔真
ジドラー 松村雄基
ロートレック 上川一哉
モンロース公爵 伊礼彼方
サンティアゴ 中河内雅貴
ニニ 藤森蓮華
ラ・ショコラ 菅谷真理恵
アラビア 磯部杏莉
ベイビードール 大音智海


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⚪︎感想:
いやー中々良かったです 
ニコール・キッドマンとユアン・マクレガーによる映画版もBlu-rayで見ており、よくできたミューカルであることはわかっていましたが、舞台版も素晴らしかったと思います
映画版のストーリーは忘れてしまいましたが💦舞台版では時折青年クリスチャンのモノローグが挟まれ、彼のサティーンへの純愛物語であると同時に、彼自身の成長の物語としての側面がより強調されている気がしました。
音楽面でも、当然ながら映画版よりたくさんの曲が使われており(70曲とか)、シグニチャー・ソングの「ユア・ソング」はもちろん、比較的新しめのシーアの「シャンデリア」とかレディ・ガガの「バッド・ロマンス」なども印象に残りました
全体のテンポも良く、中弛みのない展開、休憩時間を含めて約3時間があっという間でした

しかし、なんと言っても売りは豪華は舞台美術でしょうか赤を基本にしド派手な舞台の脇に大きな風車と象の模型が置かれ、照明も赤を基調に冒頭から妖しげなムードを醸し出し、観客をキャバレー「ムーラン・ルージュ」の内部に誘い込む感じ。しかしシーンが変われば、一転してパリの街並みや役者が稽古をするスタジオに転換するなど、中々作り込んでいました

キャストに関しては、まずサティーンの平原さんはもはや貫禄としか言いようのない抜群の存在感とにかく鼻腔共鳴の使い方が尋常ではなく、恐ろしく声が響くのですが時々やりすぎて何を歌っているか歌詞がわからない😅超個性的な唱法なのですが上手いのは確かです💦
そして結構大胆な衣装とダンスシーンもそれなりにあるのですが、見事にこなしておられました。今やミュージカル界の大女優ですね

クリスチャンの甲斐くんは予想以上に歌えていてびっくり😅歌は井上芳雄には一歩譲るかもしれませんが、若さと8頭身(9頭身?)のイケメンぶりでは勝っている感じ(芳雄のファンの方、ごめんなさい)ダンスシーンも軽々とこなしており、海宝くんに続くミュージカル界のプリンス登場という感じ今後どんどん良い役が回ってくるでしょう

モンロース公爵の伊礼彼方さんは、傲岸で自信満々のイケすかない男性役がピッタリ😅「ミス・サイゴン」でのエンジニアといい、朝ドラ「らんまん」での新興貴族役といい、イケメンで歌もお上手なのにこの方は一癖も二癖もある役が似合いますね(褒めてます💦)。

その他のプリンシパル、アンサンブルの方も(ダンスを含め)皆お上手でしたが、今日一番感心したのは、ロートレックを演じた元劇団四季の上川一哉くん。滑舌も発声もよく、セリフも歌詞も一番良く内容がわかりましたさすが母音法で鍛えられた元四季組です歌のソロもあり結構重要な役回りを立派に務めており、これも将来が楽しみです

1点だけ残念だったのは、本演目のシグニチャー・ソングのエルトン・ジョンの「ユア・ソング」の歌詞でしょうか💦あの有名な、I hope you don't mind, I hope you don't mindの繰り返しのところ、なんと歌っていたか忘れましたが😅どうもしっくりこなかったです💦この歌、松任谷由美が訳詞を提供したらしいのですが、原曲のリズムとか節回しを壊さないのは至難の業、いっそ原語で歌って欲しかったというのが正直なところです💦それぐらい、このミュージカルでこの歌は重要な位置付けにあると思っているので(というかこの一曲でこのお話が成り立っている)メラメラ

まあそれはともかく、非常に出来の良いミュージカル、良質のエンターテインメントに仕上がっているのは確かで、文字通り満員御礼のお客さんのノリの良さは特筆もの。かなりのリピーターがいることが推測されます
最近オペラづいていて久しぶりにミュージカルらしいミュージカルを見た気がしますが、オペラ並みの料金レベル(S席18,500円)でもこれだけお客さんを呼べるのですから、もう少しオペラ界も工夫や努力が必要かもと思いながら劇場を後にした次第です。

⚪︎評価:☆☆☆☆
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