鈍獣 in メルパルクホール福岡

7年振りの生瀬さん。楽しみにしていたけれど、ガツンとやられた。

ストーリー:ある日、小説家の凸川が謎の失踪。編集者の静は彼を探すべく、とあるホストクラブへ行く。そこには凸川の幼馴染たち、江田と岡本、クラブのママで江田の愛人である順子に、ホステスのノラがいた。凸川の書く小説が実は江田と岡本を題材にした物で、二人はこれが気に入らなかった。ついには凸川殺害計画を幾度となく実行するが、なぜか死なない。更に凸川は「小説なんか書いてない」と言い出す始末。そんな時、男3人のある過去がよみがえる。それは、「凸やん」が二人いることだった。今の凸やんは中学時代に「凸」とあだ名を付けられた2代目で、初代凸やんは江田と岡本のせいで電車にひかれたものの、死体は見つかっていなかったのだ。いくらひどい目にあって死なず、小説を書いているのは、本当に2代目の凸やんなのか?そして、まだ凸川は生きているのか?


わかりにくいストーリーですいません。

さて、クドカン脚本・河原雅彦演出の話題作。彼らの作品を舞台で見たのは初めてだった。まず、話の展開はクドカン節炸裂。ときに時間が入り混じるけど、わかりやすい。が、ストーリーはグロい。和歌山カレー事件とか、フィリピン妻の保険金殺害事件、スーフリなど、見え隠れするテーマが醜いものばかり。何度殺されても死なない不死身さや、昔のことを話しても「覚えてない」の一点張りで、何でもなかったように振舞う凸やんの「鈍さ」に恐怖を覚えた。

池田成志さんは、本当に上手い役者だ。今まで「弱い悪」な役どころしか観たことがなかったので、新しい面を観れて嬉しかった。
江田は支配的で、でも女を寄せ付けるフェロモンたっぷりで。古田新太さんは、やっぱりモテ男が似合う。
だめ~な男岡本は生瀬さんが演じたのだけど、この人のだめ男っぷりもいい。江田の言う通りにしか行動できず、「凸やんが電車でひかれたのは、お前のせいだぞ」と言われれば真に受けてしまう。隠し事が出来ずに「知らない。………知ってる」と言うあの間!絶妙。って、あまり演技について述べるのはおこがましいので、控えます。生瀬さん、なかなか気持ち悪かった。凸やんを演じたら、もっと怖かっただろうな。

 河原さんの演出は、彼もマジックを持ってるのか、役者のハケ方に特徴がある。(ストーリー上は)意味がないけど、それを違和感なくさせてしまうところ(段取り上は、人数も少ないので必要なハケですから)。女性陣も初舞台・2度目組みにしては良かった。ただ、ずっと観るのは辛いから、時々箸休めみたいな出方を選んだのには納得。

 しかしこの話、結局小説を書いていたのが誰かはっきりしない。ましてラストで凸やんは電車にひかれるんだけど、片腕片足を失ってもまたホストクラブに現れて酒を飲む。どこまでも胃のムカつく話で、後味がめちゃくちゃ悪い。一応、褒めるべき所は褒めたが、「面白かった」の一言では片付けられない部分がある。カーテンコールでスタンディングオベーションをする人もいたが、それは笑いが多かったせいだろうと思う。プロローグのKIOSKの場面で、個性はおばちゃん3人組を古田・池田・生瀬の三人が演じ、「笑ってもいい芝居ですよ」と印象付ける。初っ端からドカドカうけてて、私は興ざめ。確かに笑えるけど、それを引きずって裏に怖い意味を持つ台詞でもがつがつ笑うのは、話を理解してないんじゃない?どんな毒を盛っても、凸川は死なないんだよ?「もうおしまい?」と言いながらクラブに戻って来るとこは、いい加減笑えないよ。「まだやってるよ」と江田が言えば、店も開けてるし毒だって盛るんだから。気持ち悪がってよ。なるしーが毒で物をいろいろ吐くのが嫌だとか、殴られたら血が飛び散るのがヤダとか、視覚的な事ばかり言わずに。不快な余韻が今回のテーマなら、大成功だよ、ほんと。

例えるなら、映画のブレアウィッチみたいな感じ。(私、あれが今一わからないんだよな。昔観た記憶でしかないけど)

今回は生瀬さんとかなるしーとか好きな俳優がそろった芝居だったからかなりいい評価してるけど、どっかの知らない人がやってたら、酷評するかもしれない。とにかく、後味悪し。一度で十分、おなかいっぱい。


余談:行き返りの電車でカフカを読んでいたけれど、どっちも鈍い話なので、ドッと疲れが出てしまった。