かえでの本棚 -2ページ目

かえでの本棚

自由気ままに作品を書いていく
そんな私の本棚

リハーサルが終わり、とうとう残すは本番のみ。

遂に怪盗クレーと対面することになるのね………

それにこの仕事が終わったら、大事な話があるってママ言ってたし…

怖いなぁ………

 

「クレールさん、大丈夫ですか?」

 

不意にマルセルさんが私に声をかけてきた。

心配そうに私の顔を覗き込む。

 

「………ちょっと緊張するかも」

 

「大事な仕事の上に怪盗クレーも控えてますからね…

大丈夫ですよ。クレールさんのことは僕が守ります。

安心してください。」

 

マルセルさんはニッコリと笑って私の頭を撫でてくれる。

また心臓が少し跳ねた。

………気のせい気のせい。

 

「やっぱり不安だな…

どうしたんだろ…いつもはこんなに緊張しないのに…」

 

声や手が震えるのをバレないように必死に隠しながら、わざと明るくマルセルさんに話しかける。

この仕事は、私の中ではとってもとっても大事な仕事。

絶対にミスなんかできない。

それに怪盗クレーなんかにこのブレスレットを奪われるわけにはいかない…

 

「………魔法かけてあげる。

ほら、鏡見て座って?」

 

マルセルさんは私を鏡の方に向かせて座らせると、傍にあったコテで私の毛先を内側に巻き始めた。

男の人なのに、すごく慣れた手つきだ…

 

「どうしたんですか?

急にこんなこと…」

 

「んー…

何かね、僕の妹に似てるんですよ。クレールさん。

腕っぷしだけが強い僕なんかと違って、親のいいところ全部引き継いじゃったもんだから、親からの期待を全部背負っちゃってね…

最初は楽しそうに、嬉しそうに、一生懸命その期待に応えようとしてたんだけど…

多分相当なストレスを抱えててね…

ある日プツンと何かが切れちゃって…逃げ出しちゃったんだ…

僕、あの子のこと守れなかった…

だから、クレールさんのことは守ってあげたいの。

同じこと繰り返したくないんだ。

………ほら、できた。」

 

そう言って、マルセルさんは悲しそうに笑いながら私の肩に手を添えた。

あれ…髪巻くだけでこんなに変わるものだっけ…

 

「自分に正直に生きた方がいいよ。

嫌なものは嫌ってちゃんと言わなきゃ…

きっと分かってくれるよ、エミリーさんなら。」

 

そう言って、マルセルさんは私の頭を優しく撫でてニッコリ笑った。

自分に正直に………

ママ、分かってくれるかな…?

 

 

 

「では、めでたくこの街のPR大使に就任致しました、クレール・ペッシェさんに委嘱状の授与です。」

 

司会の人がそう言い、私が市長さんから委嘱状を受け取ると、眩しいフラッシュが私たちを包む。

その奥では嬉しそうに笑うエレオノールと、少し警戒態勢のエグルさんが見える。

あれ…?あの壁際にいるのって………

 

「では、続いてクレールさんから就任のスピーチをして頂きましょう。」

 

間違いない…私が見間違えるわけない…

あの人だ…

私の大好きな…大好きなあの人だ…

 

「クレールさん…?」

 

「あ、はい。えっと私は…

私が今回この街のPR大使に就任させて頂きました、クレール・ペッシェです。

えっと…今回こんな大きなお仕事を頂きまして………」

 

涙を堪えて何とか言葉を紡ごうとすると、突然照明が落ちた。

怪盗クレーの襲撃か…?

怪盗クレーの予告を知らない人たちは急に照明が落ちたことに困惑し、ザワザワと騒いでいる。

かくいう私も恐怖で足がすくんで動かない…

どうしよう…早く逃げなきゃ…

怪盗クレーにブレスレットを取られちゃう…

気持ちが焦るだけで一向に足が動かない…

助けて…パパ…ママ…マルセルさん…

恐怖で声も出ず、泣きそうになっていると、急に足が宙に浮いた。

何?誰?

もしかしてマルセルさんが私を抱き上げてくれ………

 

「暴れると落としちゃうよ。」

 

耳元で、聞いたことのない人の声が聞こえた。

恐怖で血の気が引いていく。

もしかして…この人…

私、本当に拐われちゃうの…?

声の主は私を抱き上げたまま、裏口の螺旋階段を駆け上がっていく。

 

「嫌!お願い下ろして!

私のこと連れて行かないで!」

 

「暴れると落としちゃうって言ったでしょ?

大人しくしてて。」

 

私を運ぶ声の主は、黒いスーツに黒いマントを身に着け、黒いシルクハットを深く被った私の予想通りの人物だった………