DROPS
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成田さんに抱かれた後、家に帰ると、彼はお風呂から上がったところだった。
「お帰り。遅かったな」私はバレてしまうんじゃないかとドキドキだった。彼の目を見る事ができない…

「俺明日から出張やから準備するわ」気付いていないみたい。ホッとした私は「お風呂入って来る」と背中を向けた。

お風呂の中で成田さんとのリアル過ぎる時間が甦り、私はバスタブに潜った。
忘れよう、一晩の過ちってやつなんだから…と自分に言い聞かせながら。
リビングへ戻ると彼は荷造りを終え、一服していた。
「ナオ」彼は私のバスタオルを少し乱暴に取り、抱きしめた。いつものキス…成田さんとは全然違うキス。
「今日はもう疲れちゃったから」私は彼から無意識で離れようとした。
「何や、俺やって疲れてるで」彼は悪戯な笑みを浮かべ、私を抱きしめる。
慣れた指が私の身体中の力を奪ってしまう。彼を受け入れてしまう。
さっき他の男の人に抱かれてきたのに…私ってどうかしてる。でも逆らえないし、バレたくない。彼のいつもの愛し方は、成田さんのそれとは全然違う。彼のキスに安心すると同時に、比べている私。
こんな事が平気でできる女だと、自分でも知らなかった私。
いつの間にか、彼と一緒に絶頂を迎えた。腕枕が何だか切なかった。
成田さんも、今頃奥さんと?と思ってしまった。

スヤスヤ眠る彼の寝顔を見ながら、私はまた罪悪感でいっぱいになった。

とにかく今は眠ろう。

雷でパニックになって、夢を見ただけなんだと、私は自分に言い聞かせた。

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それからも何度か成田さんとご飯を食べに行き、色々な話をした。


季節は春、ううん夏の一歩手前になったある日…

いつものように成田さんと別れ、お互いの車に乗り込んだ直後、突然雷が鳴った。
私は何より雷が苦手だ。暫く我慢していたが、一向に止む気配がない。私は軽いパニック状態になってしまった。
そして電話をしたのは彼ではなく、私より一足先に出発した成田さんだった。
何て話したかはよく覚えていないが、尋常じゃない私の様子に驚いた成田さんは「そこにいな!今助けに行くから 」と言い数分で私の車の後ろに到着した。

「大丈夫か?」成田さんは私の車の助手席に乗り込んだ。全然大丈夫じゃない私は、耳を塞ぎ体を震わせていた。

成田さんは「もう大丈夫、落ち着いて」と私の頭を撫でた。頭を撫でていた手が私の両頬を包み、目を開けた時成田さんの唇が重なった。びっくりした私は動く事ができず、目を開いたままキスを…受け入れていた。気付いたら、成田さんに抱き寄せられていた。

優しいキスは雷を忘れさせてくれた。成田さんの手は私のシャツのボタンを外し、震えていた身体中にキスをし始めた。雷とは違う衝撃に私の身体は動けなくなった。
「おいで、俺の車に乗りなよ」私は人形のように成田さんのワゴン車に引き込まれた。彼の顔が一瞬浮かんで消えた。成田さんの奥さんの事が頭をよぎった。

フルフラットのシートに私の身体を横たえ、成田さんはいつのまにか私を全裸にしていた。嫌なのか嬉しいのか解らないけど、私は涙が止まらなかった。

でも優しいキスは心地好く、いつの間にか成田さんを受け入れていた。

雷と大雨が私の声を掻き消した。もう快楽に身を任せるしかなかった。私も成田さんも…ブレーキが壊れていた。
どれ位の時間抱き合っていたんだろう?雨も雷も止んでいた。「後藤さんは俺の事好きなの?」成田さんは言った。
私は答えた「嫌いじゃないよ。お兄さんみたいに思ってるよ」成田さんは騙って唇を重ねた。

正直解らなかった。なぜ成田さんと?でも嬉しかった。そして彼への罪悪感でいっぱいになった私は「今夜だけ、今日だけ!大人同士なんだから、ねっ」と強がった。

「俺は好きだよ」成田さんは私を抱きしめて言った。「俺は家族はいるけど、恋愛は別だと思ってるから。後藤さんが負い目を感じる事はないよ」

抱きしめていた手を離すと「もう大丈夫だろ?」とオデコにキスをした。
「じゃあ帰るね、何かごめんね!」私は車を降りた。
「いつでも守るから、いつでも呼べよ、ナオ」成田さんは初めて私の名前を呼んだ。
そして何もなかったように、手を振って車をスタートさせた。

一度きり、それなら不倫じゃないと、私は自分に言い聞かせた。

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成田さんにメールのやり方を2時間程かけて、教えた。ものすごく必死。
「練習用にいつでもいいからメールしてくださいね」と言うと苦笑い。

でもこうして成田さんと私はメル友になった。

成田さんは毎日たどたどしいメールを送るようになった。最新は2行の文章だったのに、1ヶ月後には他の人にもメールができる迄上達した。

中村君は「車の整備はパーフェクトなのに、何でメールできないんすか?」とバカにしてたけど、昭和37年以上生まれの彼には、未知の世界だったに違いない。
おかげで車の修理代をオマケしてもらえて私はラッキーだった。

ある日成田さんから「今度一緒にご飯に行きませんか?」とメールがきた。何だか微笑ましくて、私はすぐOKと返事をした。
最近は絵文字も使えるようになっていた成田さん。

私はよくボード仲間の男の子達とご飯に行く。成田さんとの食事も同じノリだった。
居酒屋、焼鳥屋、焼き肉…彼の選ぶ店はオヤジチックだったが、楽しい時間だった。話題はボードの話中心で盛り上がった。
私は4年程前の夏からボディボードにハマっていた。成田さんは20歳位からサーフィンをしている、と少し自慢気に言った。
私も海外旅行で何度かサーフィンに挑戦した事はあったが、成田さんは大会にも出場していたセミプロ。すごいなぁと言うと「後藤さん、夏になったら一緒に行きませんか?」と成田さんが言った。「喜んで!」私は即答した。

気付いたら成田さんとの食事の回数は、週3回になっていた。でも楽しい時間だった。私の同僚はインドア派が多かったので、山海仲間が増えた事が嬉しかった。
季節は春になっていた。そろそろボードも終了。この日も成田さんと居酒屋にいた。私達はいつの間にか旧友みたいに仲良くなっていた。食事をする回数は週5回に増えた。
成田さんが「俺来月誕生日なんだ。36歳になっちゃうよ」と笑って言った。「誕生日は何日?」と聞くと免許証を出し「4月25日」と言った。
嘘でしょ…私は呟いて免許証を出した。私も全く同じ誕生日だったから、本当に驚いた。成田さんも同じだった。
「何か鳥肌立ったよ、今迄同じ誕生日の人に会った事ないぜ」私もだった。
成田さんは笑って「運命かも」と言った。私もそうかもね、と笑った。

帰り道、何だかいつもと違う空気が流れた。手を繋ぎたい、と不覚にも思ってしまった私。成田さんも同じ気持ちなのか、時々手が触れ合う。

でも繋げなかった。

成田さんには家庭がある。私には彼氏がいる。
でもこの日、私は自分の気持ちが揺れ始めた事に気付いてしまった。
彼氏と過ごす時間より、成田さんとの時間の方が楽しいと思っていた。

でもそれを言葉にしたら、この心地好い関係が終わってしまいそうで、私は両手をポケットに入れて歩き出した。
成田さんは不思議そうな顔で私を見たけど、「じゃあまたメールするよ」と手を振って別れた。

家に帰ると彼氏は相変わらずゲームに夢中だった。
私は彼の背中に抱き着いた。「どうしたん、何かあったか?」ゲームを止めて、彼は私に向き直り両手で頬を挟んだ。それから何も言わずに抱きしめてくれた。ゴメン、私は心の中で呟いた。
DROPSの缶詰がカランコロンと鳴る音が聞こえた気がした。
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