今回はChatGPTに血液ガスの解釈をさせてみました。症例は1),2)から一部改変して引用させていただきました。

 

[症例1]

23歳女性、胸部絞扼感とふらつきにて救急外来を受診。 手指・口唇周囲のしびれも訴えている。 普段は抗不安薬を内服しているが、数日前に飲みきってしまったとのこと。電解質と血液ガスは以下の通りであった。

pH 7.56, PaCO2 20mmHg, PaO2 116mmHg, HCO3 22mEq/L Na 137mEq/L, CL 102mEq/L

血液ガスの解釈と推定される疾患を述べて下さい。

ChatGPT

患者の症状と血液ガスの結果を考慮に入れると、換気過多症候群(特に低炭酸ガス血症)が疑われます。これは通常、強い不安やストレス反応によって引き起こされます。

血液ガス分析の結果について詳しく見ていきましょう:

  • pH 7.56: 正常範囲(7.35-7.45)よりも高く、アルカローシスを示しています(血液が過度にアルカリ性になっている状態)。

  • PaCO2 20 mmHg: 正常範囲(35-45 mmHg)よりも低く、換気過多による低炭酸ガス血症を示しています。

  • PaO2 116 mmHg: 正常範囲(75-100 mmHg)よりも高く、酸素の取り込みが適切であることを示しています。

  • HCO3 22 mEq/L: 正常範囲(22-28 mEq/L)にあるため、代償性の代謝性アシドーシスは考えにくい。

患者は抗不安薬を服用していましたが、数日前にその薬を飲み切ってしまったとのことです。そのため、現在の症状は不安の増加やパニック攻撃によるものである可能性が高く、これが換気過多を引き起こし、低炭酸ガス血症と代謝性アルカローシスを引き起こした可能性が考えられます。

総合的に見て、この23歳の女性はおそらく急性の換気過多症候群を経験していると考えられます。症状の管理として、彼女が落ち着き、正常な呼吸パターンを取り戻すのを助けるための対症療法が推奨されます。更に抗不安薬の再評価や精神科の専門的な評価が必要かもしれません。


筆者補足

 過換気による呼吸性アルカローシスを呈している症例です。一応アニオンギャップを計算すると137-102-22=13と正常域、PaCO2が約20mmHg低下に対してHCO3の低下が約2mEq/Lと少し少ないですが、まあそれほど異常ではありません。

 

[症例2]

38歳、女性。

【主訴】 呼吸苦,両手足のしびれ 【既往歴】 特記なし

【現病歴】 2年前からのダイエットで体重を20kg以上減量した。最近疲れやすく気力が起こらない 夜寝る前に息苦しく, 手足もしびれてきたので夫に連れられて受診した。夫によると患者は以前過換気症候群になったことがあり、症状が似ているとのこと。

【バイタルサイン】 血圧: 90/50mmHg, 脈拍: 60/, 呼吸回数: 24/,体温: 35.5℃, SpO2 : 100% (室内気). 意識混濁状態で, すぐに傾眠傾向になる.

【身体所見】 特記すべき異常なし

血液ガス検査(室内気) pH7.35, PO2 110mmHg, PCO2 20mmHg, HCO3 15mEq/L, 

Na 145mEq/L, K 4.5mEq/L, Cl 105mEq/L

血液ガスの解釈と推定される疾患を述べて下さい。

 

ChatGPT

この患者の血液ガス分析を解釈します:

  • pH 7.35:これは正常範囲(7.35-7.45)の下限で、中性またはわずかなアシドーシスを示しています。

  • PCO2 20 mmHg:これは正常範囲(35-45 mmHg)よりも低く、呼吸性アルカローシスを示しています。

  • PO2 110 mmHg:これは正常範囲(75-100 mmHg)よりも高く、適切な酸素飽和度を示しています。

  • HCO3- 15 mEq/L:これは正常範囲(22-28 mEq/L)よりも低く、代謝性アシドーシスを示しています。

したがって、この患者は混合性の酸塩基バランス異常、具体的には呼吸性アルカローシスと代謝性アシドーシスを呈しています。

病歴から、患者は大量の体重を失い、過去に過換気症候群になったことがあると述べています。過換気症候群は、過度の呼吸により二酸化炭素が体から排出され、血液中の二酸化炭素濃度が低下する状態です。これは呼吸性アルカローシスの原因となります。

一方、体重の大幅な減少と疲労は、栄養不足や電解質の不均衡を示しており、これが代謝性アシドーシスの原因となっている可能性があります。例えば、ケトーシスやラクティックアシドーシスなどが考えられます。

これらの情報を基に、患者の病状は、過換気症候群による呼吸性アルカローシスと、栄養不足に起因する代謝性アシドーシスである可能性があります。しかし、この患者は呼吸や栄養状態に関してさらに詳細な評価と追跡が必要です。また、栄養補給、適切なダイエット指導、そして呼吸法の指導が必要かもしれません。

 

追加の情報を提示します。

 ダイエットについて詳しく問診してみると、最近はサラダしか口にしない日が何週間も続いているとのことでした。 膝蓋腱反射は完全に消失していました

最終診断と対応: 脚気 Wernicke脳症 ただちにチアミン(ビタミンBi) 100mgの静脈注射を行いました

 

ChatGPT

 追加情報と症状から、患者さんがビタミンB1(チアミン)不足による脚気とWernicke脳症を発症しているという診断は理解できます。これらの疾患は両方ともビタミンB1の欠乏により起こり、特に栄養状態が悪い人々や極度のダイエットを行っている人々に見られます。

 脚気の主な症状は神経症状(しびれや感覚異常)、筋肉の弱さ、膝蓋腱反射の欠如などです。また、Wernicke脳症は急性の神経学的疾患で、主に運動失調、眼球運動障害、意識障害の三徴(Wernickeの三徴)を特徴とします。この患者さんの意識混濁と傾眠傾向はWernicke脳症の症状である可能性があります。

 治療としては、ビタミンB1補給が主です。静脈注射は迅速な補給を可能にします。継続的な補給と食事療法(栄養バランスの改善)が必要です。また、Wernicke脳症の場合、治療が遅れるとKorsakoff症候群と呼ばれる永続的な記憶障害を引き起こす可能性があるため、早急な対応が必要です。

 ただし、脚気とWernicke脳症は非常に重篤な疾患であり、一度発症すると後遺症が残る可能性もあるため、極度のダイエットによる栄養失調は絶対に避けるべきです。ダイエットをする場合は適切な栄養摂取を心掛け、必要に応じて栄養士や医師のアドバイスを求めることが重要です。

 

筆者補足

 ビタミンB1はピルビン酸からアセチルCoAへの脱炭素反応の補酵素として働きます。ビタミンB1が欠乏するとピルビン酸からアセチルCoAへの変換が阻害されるため、体内にピルビン酸やその還元物である乳酸が蓄積し、代謝性アシドーシスを引き起こします。また、アセチルCoAが産生されないことにより、TCA回路が作動せずブドウ糖代謝が阻害されます。これにより代替エネルギーとして脂肪が分解され、ケトン体が増加します。このことも代謝性アシドーシスの原因となります

「呼吸が荒いけど酸素飽和度が100%なら過換気症候群なので大丈夫」と思っていると落とし穴に嵌ります。敗血症やDKAなど、代謝性アシドーシスによる過換気も似た症状になります。これは炭酸ガスを排出してアシドーシスを緩和しようと体が頑張っているのです。

 

[症例3]

22歳女性 23日前からのひどい下痢を主訴に救急外来を受診強い嘔気もあるた め、ここ数日間は経口摂取がほとんどできていません。 電解質と血液ガスは以下の通りでした。 Na 134mEq/L, CL 105mEq/L PH7.32, PaCO2 36mmHg, PaO2 96mmHg, HCO3 18mEq/L 血液ガスの解釈、アニオンギャップ、そして考えられる原因を述べてください

ChatGPT

この患者の血液ガス分析を見ると次のことがわかります:

  • pH 7.32:これは正常範囲(7.35-7.45)よりも低く、アシドーシスを示しています。

  • PaCO2 36 mmHg:これは正常範囲(35-45 mmHg)で、呼吸アシドーシスまたはアルカローシスはないと示しています。

  • HCO3- 18 mEq/L:これは正常範囲(22-28 mEq/L)よりも低く、代謝性アシドーシスを示しています。

したがって、この患者は代謝性アシドーシスを示しています。

アニオンギャップ(AG)は、主に血液中のナトリウムと塩素および重炭酸による電荷の差を計算することで得られます。公式は次のとおりです:AG = [Na+] - ([Cl-] + [HCO3-])。この患者の場合、AG = 134 - (105 + 18) = 11 mEq/Lとなり、これは正常範囲(通常、8-16 mEq/L)です。

病歴から、患者は数日間にわたりひどい下痢を経験しており、ほとんど飲食ができていないとのことです。下痢による大量の糞便喪失は、特に腸管からの二酸化炭素と水の喪失によるアシドーシス(具体的には非ギャップ性代謝性アシドーシス)を引き起こす可能性があります。腸管から排出される糞便は一般に、酸性であるため、その喪失は体液の酸性度(pH)を下げる可能性があります。

したがって、この患者の病状は、おそらく下痢による脱水と代謝性アシドーシスを引き起こしています。治療は脱水と電解質異常の修正、そして下痢の原因を特定して治療することが重要です。

 

腸管から排出される糞便は一般に、酸性であるため、その喪失は体液の酸性度(pH)を下げる可能性があります、とのことですが、酸を失えば体はアルカリに傾くのではないですか。胃からの嘔吐はH+を失うので身体はアルカリに傾きますが、下痢による腸液の喪失は重炭酸イオンを失うので身体は酸性に傾くのではないですか。

 

ChatGPT

すみません、その説明は間違いでした。ご指摘の通り、腸管から排出される糞便は、主に酸性の二酸化炭素と共に大量の重炭酸イオン(HCO3-)を含んでいます。したがって、下痢を起こすと、大量の重炭酸イオンが失われ、それにより体は酸性に傾きます。このことは代謝性アシドーシスの一因となります。私の先程の説明は誤りでしたので、申し訳ありません。

そのため、この患者の病状は、下痢による代謝性アシドーシスを引き起こしている可能性が高いです。大量の下痢によって排出される重炭酸イオンは、体液のアシドーシス(pH低下)を引き起こします。その結果、血液中の重炭酸イオン濃度が低下し、これが代謝性アシドーシスにつながります。

治療は、脱水と電解質異常の修正、そして下痢の原因を特定し治療することが重要です。

 

筆者補足

外来で「下痢だけ」の症例に血ガスを取るというのはないと思いますが、下痢が激しい場合は腸液に含まれる重炭酸イオンが大量に失われるので、代謝性アシドーシスを引き起こす可能性があります。この場合、重炭酸イオンが減った分は塩素イオンが補填します。有機酸が体内に増えているわけではないので、アニオンギャップは正常です。

 嘔吐の場合はこの逆で、胃液中の水素イオンが失われるので、代謝性アルカローシスとなります。

 

総評 

 あらゆる症例を試したわけではありませんが、数値から状態を解釈する精度は、かなり高いように思えます。症例1は過換気症候群、症例2は一見すると過換気症候群に見える(ビタミンB1欠乏による)代謝性アシドーシス、症例3は下痢によるアニオンギャップ正常の代謝性アシドーシスでした。それほど難しい症例ではありませんでしたが、病歴と合わせての病態の解析はなかなか正確に出来ています。ChatGPT恐るべし。

 今回の例だけ見ると、ChatGPTは数値を解釈して文章を作るのは得意のようです。

 反対に、数学の文章題のような問題から数式を作って解くのは意外にも苦手としています。小学生のつるかめ算や、中学生の方程式の文章題程度なら正解しますが、高校レベルの数学の文章題は結構間違えます(うちの子の宿題をやらせてみましたが、間違えてばかりなので子供は怒っていました)。それでもGPT-3.5ではつるかめ算でもよく間違えていたので、GPT-4になってから文章解釈がかなり進歩しているように見えます。

 

 ただ今回も、もっともらしい嘘(ハルシネーション)がさらっと混じっていました。その点を追及すると正確な解釈を出力しましたが、それなら最初から出して欲しいものです。まあ診断用に特化したAIではなく、汎用の大規模言語モデルだからと言われればそれまでですが。

 

 このようにChatGPTは時々嘘も出力するので、出て来た文章のチェックは必須です。極端なことを言えばChatGPTに本当のことを聞いてはいけない」といいます。ニューヨークの弁護士が、ChatGPTで調べた判例を書類にコピペして裁判所に提出したら、そのうち6例が架空の判例だったという話がニュースになっていました。これはChatGPTの間違った使い方です(この使い方ならgoogleの方がいいはずです)

 今の段階では物書きの補助として使うのがベストだと思います。綺麗な文章が短時間で出て来るので、非常に便利です。


 

参考文献

1)田中竜馬著 竜馬先生の血液ガス白熱講義150分 中外医学社

2)千代孝夫編 救急外来「まさか!」の症例53 羊土社