「一」を辞典で引く
一という文字は、生活経験を通じて知り、その意味を理解しています。そのためか、「一」について、わざわざ辞典を引くことなど普段は考えません。ふと、「一」を辞典ではどう説明しているのだろう、と思いました。そこで、手元の辞典を開いてみることに・・・・・・。辞書を読むこと自体がおもしろいということを実感できます。辞典を対比して読むのはおもしろい! 「一」からあらためて得たひと言です。手元にある辞典でどのように説明されているかを、説明にあたっての事例は略し、説明の幹部分を抽出して引用します。その事例にあたるものを、ちょっと推測してみてください。頭の運動にもなるでしょう。☆ 新明解国語辞典 第5版 三省堂 2000年12月1日 第27刷 いち【一】<一>最小の自然数を表わす数詞(和語では、ひと(つ)。大字は壱) ①[基数詞としての用法] ②〔序数詞としての用法〕(強調表現は 第一)A.物事の最初 B.最上。最高。 <二> ①(←一の糸)三味線のいとのうち、調子の最も低いもの。 ②[野球で」[一塁手〕の略 この辞典では、〔字音語の造語成分]として、別枠で次の説明があります。 [一]<一> ①どれも同じ。②そのグループ全体。<二>①ある。②わずかの 〔壱]<一>数字一の大字。<二>(略)壱岐国。☆ 現代国語例解辞典 第二版 小学館 1994年2月10日 第二版第五刷 【いち 一・壱】<1>数の名。最初の基本数。また、いくつかに分けたもののひ とつ。 <2>物事の始め。最初。第一番目。<3>最もすぐれていること。一番。 →金額や年月日など重要な数量を記す場合、改竄を防ぐため「壱」を 用いることが多い。☆ 広辞苑 初版 岩波書店 昭和41年3月1日 第一版第十九刷 いち【一・壱】《名》①数の名。ひとつ。ひと。いつ。②最もすぐれたこと。 また、そのもの。第一。首位。最上。一等。最善。③最初。④三味線の 糸の中の最も太いもの。いちのいと。⑤髷の元結から後方に出た部分。 《副》最も。一番。いっち。 《接頭》①成語に冠して、確定しない或事・或物を指す。②成語に 冠して「すべて」「全体」の意を示す語。③成語に冠して全く同じ意を あらわす語。☆ 大辞林 三省堂 1989年1月20日 第三刷 いち【一・壱】[下にカ・サ・タ・ハ行の音がきて、一語のように用いられると 「いっ」となる]①数の名。自然数の第一番目の数。ひとつ。②(ア) 順序の最初。(イ)物事の初め。最初。(ウ)最高。最上。一番。 漢字のいちの説明が別枠で載っています。 【一】 ①ひとつ。②(ア)順序の最初。(イ)最高。最上。③(ア)同じ 同じものとしてまとまる。(イ)まとまりのある全体・総体。(ウ) もっぱらひたすらに。④ある一つの。別の。不確定の。⑤とるにたら ぬ。⑥ちょっと。すこし。⑦意味を強めたり明確にしたりする。 ⑧・・・したり、・・・したり。あるいは。 【壱】 ①数字「一」の大字。金銭証券・書類などに用いる。②「壱岐」の 略。☆ 日本語大辞典 講談社 1989年11月6日 第一刷 イチ【一】①はじめ。また二・三・・・・・十に対する、ひとつ。②おなじ。みんな。 すっかり。③最上。すぐれている。④もっぱら。⑤意味を強めたり、いい よくしたりする慣用的な用法。「ある」「ちょっと」などの意になること もある。 イチ【壱】①ひとつ。ひとたび。もっぱら。②受取や小切手や証券などで、金額を 書くときに、「一」の代わりに用いる文字。③壱岐国のこと。☆ 学研全訳古語辞典 改訂第二版 学研 2014年2月10日発行 いち【一・壱】《名》①一つ。ひとつ。②(順位の)一番。第一。③最もすぐれて いる事や物。第一。最高。最上。 《副》最も。☆ 角川新字源 角川書店 1993年12月10日 341版 本文の最初が「一部」で始まり、冒頭が「一」です。 「一部」の解説に、横線一本で「ひとつ」、ひいて数のはじめの意を表す。これを もとにして、二、三、百、千なども数を表す字ができている、と記されています。 【一】イツ(漢)/ イチ(呉) ひと/ひとつ 意味①ひとつ。(ア)ひとつの物または事。(イ)ひとつの。(ウ)ひと たび。一度。(エ)たったひとつ、または一度。②はじめ。(ア)第一。 (イ)最初。(ウ)最上。③おなじ。(ア)ひとつに合わせる。(イ)同じ (ウ)ひとしい。(エ)いっしょ。④みな。すべて。⑤もっぱら。⑥まこと。 ⑦もし。ひとたび。⑧あるいは。一方。⑨わずか。⑩いつに。⑪いったい。☆ 角川漢和中辞典 角川書店 昭和34年4月1日 初版 こちらも同様に、本文の最初は「一部」で「一」から始まります。 【一】イチ(呉)、イツ(漢)、ひとつ <解字> 指事。横に引いた一本の線で、一つの意味を示した。一は数のは じめであるから、はじめを意味することにもなる。 <字義>①ひとつ。②はじめ。数の初め。物事の初め。③ひとたび。いち ど。もし。④かず(数)。⑤おなじ(同)。ひとしい。⑥まこと(誠)。 ⑦もっぱら。⑧まじりけがない。⑨ある(或)。⑩すべて。⑪わずか。 ⑫意味を強める語。 こうして読み継いでみますと、「一」という字は、自然数の一の意味と序数詞としての一という使い方の他に、一に様々な意味を持たせて使っていることを再認識します。何気なく会話や文のなかで、一を含む語句を使っているのです、上記の辞典の意味合いで。 何気なく、すごい使い分けを経験を通して了解しながらやっているんだ・・・・とあらためて気づきます。コミュニケーションしあえているのです。 同一、一様、均一、純一、統一、専一、誠一、一握、一朝、春の一日、一方、一面、一国などなど。日ごろでも使っていますよね。 漢和辞典を引きますと、熟語や成句が数多く列挙されています。国語辞典にも用例がかなり載っています。『角川漢和中辞典』から四字熟語を抽出してみました。 例えば「一」を含む四字熟語が、けっこうあるんだなぁ・・・・・と改めて気づきました。 一切衆生 一心不乱 一日千秋 一世一代 一目瞭然 一天万乗 一天四海 一目十行 一言一行 一経博士 一石二鳥 一気呵成 一言居士 一挙一動 一部始終 一期一会 一朝一夕 一刀両断 一刀三礼 一汁一菜 一朝之患 一朝富貴 一五一十 一文不通 一字之師 一子相伝 一生懸命 一所懸命 一字千金 一衣帯水 一牛鳴地 一狐之腋 一歩一喘 一栄一落 一殺多生 一所不住 一炊之夢 一進一退 一望千里 一視同仁 一知半解 一心法界 一紙半銭 一張一弛 一酔千日 一喜一憂 一敗塗地 一粒万倍 一陽来復 一網打尽 まだほかにも載っていますが、この辺で止めておきましょう。 この中だけでも、どれくらい馴染みがありますか。どれを自分で使ったり、会話の中で聞いたり、文章の中で読んだことがありますか。(辞典での掲載順ではありません) 証書などで、一を壱と書くことは知っていましたが、一を「大字」ということを初めてしりました。 三味線の演奏は、歌舞伎や浄瑠璃、京都の都をどりの観劇で見聞した経験はありますが、一の糸ということと、その糸は「調子の最も低いもの」であり「三味線の糸の中の最も太いもの」であることを初めて知った次第。複数の辞典を読み合わせることで知識が少し広がりました。「髷の元結から後方に出た部分」を「一」と呼ぶんだ・・・・・と学んだ次第。 おとぎ話の最後には、「一が栄える」というフレーズが決まり文句の一つに使われるそうです。 めでたし、めでたし、一が栄える「市が栄える」「一期栄える」というフレーズも使われるとか。(日本語大辞典より)この辺りで終わります。