『市川染五郎と歌舞伎に行こう!』 市川染五郎 編

旬報社まんぼうシリーズ 1,680円 2000年1月発行 ISBN4-8451-0614-0

http://www.junposha.co.jp/guide/5shu/manbo/mb05_some.htm



歌舞伎見人(かぶきみるひと)


■出版社の案内文


「歌舞伎は難しい伝統芸能」というイメージが一変します。カラー写真とイラストを多用し、染五郎が歌舞伎の世界にあなたをご案内します。


■著者からのメッセージ


「歌舞伎」というと、わかりにくい伝統芸能のひとつ、というイメージが強いと思います。

たしかに台詞は普段しゃべっている言葉と同じではないので、理解しづらいかもしれませんし、

芝居の上でのいろいろな約束事や、繰り返し観なければ理解しにくい事柄もないわけではありませんから、

それがそのまま皆さんから観て、敷居の高いものという印象につながってしまっている場合もあるでしょう。


 でも、歌舞伎を劇場で実際に観ていただければ、絢爛豪華な衣裳の色彩、多彩な仕掛け、

ストーリーの奥深さなど、観ている人間を惹きつける要素にあふれたものであることは、

わかっていただけると思います。


 なにを隠そう、私もその魅力に惹きつけられたひとりです。


 この本では、そんな歌舞伎の魅力の一端を、できるだけわかりやすくまとめてみました。

300年以上の歴史に培われた歌舞伎は、先人たちの知恵と努力が積み重ねられたものですから、

まだまだ数えきれないほどの驚きと魅力に満ち溢れています。舞台全体から発散するその魅惑的なパワーは、

やはりライブでしか味わえないものです。

自分の目で実際に歌舞伎を観て、あなた自身が感じる歌舞伎の素晴らしさを見つけてください。


 歌舞伎は知れば知るほど、その魅力の虜になる奥の深い世界で、飽きることがありません。


 さぁ、私が歌舞伎の世界をご案内いたします。


■目次


第1章 役者・市川染五郎
  梨園の家に生まれて/初舞台/誇り高き小学生/稽古と青春の日々/生涯の敵、松本幸四郎/

  日常生活/これから/染五郎への20の質問 

  幕の内コラム【若旦那のこと】


第2章 歌舞伎LIVEに行こう!
  歌舞伎座って、こんなところ/チケットを買うために/舞台構造/歌舞伎の舞台裏をのぞいてみよう/

  歌舞伎座周辺食事ガイド/歌舞伎を楽しむヒント

  幕の内コラム【チョン!で始まる歌舞伎ライブ】


第3章 演目解説
  演目の種類

  歌舞伎の作者たち

  知っておきたい作品20

  幕の内コラム【幕にもいろいろありまして】


第4章 あでやかに魅せてこそ花
  義経千本桜―大物浦の場から役者のこしらえを探る

  平知盛の顔ができるまで/隈取り解説

  平知盛のかつら/かつらの解説

  平知盛の衣裳/衣裳と役柄について

  歌舞伎の色

  幕の内コラム【役者の化粧】


第5章 歌舞伎役者
  高麗屋のこと/五代目松本幸四郎/現代役者名鑑:伊達なつめ/屋号と紋のはなし

  幕の内コラム【歌舞伎役者への道】


第6章 観劇いろは
  舞台の仕組み・仕掛け/歌舞伎の音楽/芝居小屋紹介

  幕の内コラム【高麗屋ッ!!って言ってみたい】


用語解説


■歌舞伎見人メモ (抜き書きの部分もあれば、まとめた部分もあります)


・生まれたとき、目と鼻から生まれてきたようだといわれるくらい目鼻が大きかったらしい


・初舞台は6歳のとき。白塗りをして見得をきったりするものだと思っていたのに、口上だけでまったく汗も

 かかないのには少し、不満はあった。だから、同じときにかかっていた『どんつく』という舞踊の出し物で

 その踊りが踊れたら最後の総踊りの場面で出してやると言われ、すんなり踊れたので急遽だしてもらうことに

 なり、ちょっと機嫌がよくなった


・小学校のころは野球が大好きで、大の巨人ファン。将来はプロ野球選手と歌舞伎役者の二足のわらじをはこう

 と真剣に考えていた。4月から10月は野球、オフシーズンになったら舞台に立てばできるかもって。


・学校の勉強もちゃんとやっていたが、高校一年のときに見たい芝居と学校の試験の日程が重なってしまい、

 「明日は試験だからまた後でいいや」と思っていたら、結局見損なってしまって、ずいぶん悔しい思いをした。

 このときをさかいに”勉強ができて芝居ができないより、芝居ができて勉強ができないほうがいい”、と

 強烈に芝居への気持ちが強くなった。それからは「とにかく芝居優先」。


・役者にはスポーツ選手のように引退はない。生涯現役だから、父親とは一生、敵同士だ。父親だからといって

 甘えられない。父親を抜くことが逆に親孝行にあたるわけだから、芝居の世界は本当に恐ろしい。家族で

 役者同士っていうのは、本当に凄まじいことだ。


・将来の目標は、芝居小屋も含めて、歌舞伎を作ること。その芝居専用の空間を作って新しい歌舞伎を作りたい。

 僕の考える新しい歌舞伎は、たとえばコギャルの会話に歌舞伎が出てくるようにしたい。渋谷の街角に

 しゃがんで「『暫』がさぁ~」とか「『助六』が格好よくてさぁ~」なんていうコギャルの会話を聞いてみたい。

 何より、彼女たちは一番感覚的だからだ。


・舞台の前の準備運動はしない。たとえしたって、本番の支度に3~40分かかってしまうので、何にもならないから。


・芝居の出演依頼を受けるとき、いくつかの中から選ぶとしたら自分のイメージとは正反対の役柄を選ぶ


・「高坏」は、六代目尾上菊五郎が宝塚歌劇の作者・久松一聲に依頼して、当時流行しはじめていたタップダンス

 を取り入れた舞踊劇を書き下ろさせたもの


・いわゆる「白浪五人男」では、浜松屋でのゆすりの場面と、稲瀬川での勢揃いだけを上演する場合は

 『弁天娘女男白浪』といい、全編を上演する場合は『青砥稿花紅彩画』という


・義経千本桜の平知盛が白装束で源氏との戦いに挑むのは、源氏の旗の白に紛れて義経をねらう意図による


・二代目幸四郎、三代目幸四郎は、後にそれぞれ四代目と五代目の団十郎になっている人で、このように

 松本家は、荒事を創始した市川家と近い家だったので、芸についても、荒事系の役者が多い


・曾祖父がやってきた芝居は、やはりほかの芝居以上に好きだが、自分自身は、家の芸であるそうした骨太な

 人間の役はあまりしていないし、自分の柄や個性から考えても「ちょっと違うかなぁ」という気もするので、

 正直なところ、どうしたもんかと思っている。昔から古いお弟子さんやまわりの人にも、「弁慶(のタイプ)じゃ

 ないねえ」とか、「女形のほうがいいんじゃない?」とよく言われていた


・『鑑獅子』は、今までうちでは父も祖父もやった者がいない演目で、前半の女形がする平打ち(簪の一種)を

 家の紋を彫って自前で作る慣例になっているが、女形をやらない我が家には、平打ちなんてありはしないので、

 高麗屋で初めて、平打ちを作ることになった


・高麗屋の紋は四つ花菱だが、僕は祖父の白鸚の追善興行の時から、染五郎の紋として三つ銀杏を使っている。

 もともと高麗屋は三つ銀杏で、四つ花菱が替え紋だったらしいが、いつしか逆になっていた


・このごろは、昔ほど『勧進帳』の弁慶をやりたいとは思わなくなった。覚えておきたいというのはあるが、まぁ

 やるべき人がやればいいんじゃないか、という程度に考えている


・五代目は、自分の役者としての個性をよくわかっていて、自分はこの個性でできるものをやる、これを武器に

 してゆこうと思いきって、生涯それを貫き通したのでは。五代目のこういう精神を、自分も身につけたい


・型を残すというのにも憧れるが、いまはまだ、自分の個性は単なる癖だと思っているので、なるべく正統に

 やることを心がけている