「申し訳ありませんでした!」


キ・ゲングループの社長室に入ると

トクマンはとりあえず謝った

きっちり下げた頭は

膝についているんじゃないかと思う位だ


途中

アポイントも無しで社長に面会出来るのか?

と、思って焦っていたのに

あっさりと部屋に通された訳がわかった

入ってすぐ目についたのは

社長の横にいる

ニヤついたアイツだった

大きな湿布を頬に貼り付け

片腕は三角巾で吊っている

顔はまだしも腕?!

大袈裟なヤツだな!

そうは思っても殴った事は間違いない

ムカついたが

先に手を出してしまった事は謝るしかない


「君は何に謝ってるんだ?」

「どんな理由があれ

先に手を出してしまった事にです!」

「困っている女性に手を差し伸べただけで

君は暴力を振るうのか?」

「は?!」

「土下座しろ!土下座!」

調子に乗ったバカ息子が囃し立てる

「お前は黙っていなさい!

…私が開催するデザートフェスタは

女性に幸せな気分を味わって貰う為に

企画している

その担い手でもあるパティシエが

理由も聞かず暴力を振るうとは

由々しき問題だ!」

「手を挙げてしまった事は

申し訳ないと思っています!

しかし理由がない訳では…」

「言い訳は結構だ!

それとも君は、言い訳が通れば

フェスタへの参加が

改めて認められるとでも思っているのか?」

「そういう訳では…」

「この先

君がパティシエとしてやっていけるのか

覚悟をしておくと…」


ーピーっー


突然内線の音が部屋に響く


「何だ?!

電話?放っておけ!今は取り次ぐな!

何?!

誰からだって?!

回せっ!」

怒鳴っていた社長の顔色は

赤から青へ変わっていく


「…大変お待たせを致しました

え?!まさか!

いや…その…勘違いといいますか…

申し訳ございません…

いえ!そんな事!とんでもございません!

こちらの判断ミスでございます!

はいっ!はいっ!

是非とも今後共よろしくお願い致します!」

電話口できっちり下げた頭は

膝についているんじゃないかと思う位だ

意外と柔らかい…


「どういう事だっ?!」

電話を切った社長は

息子に詰め寄り

腕を吊っていた三角巾を取り上げた

「え?!」

「嫌がる女性を

無理矢理連れて行こうとしたのか?!」

「…なっ!」

「その様子を通行人が覚えていると

証言がある上に

お前と一緒にいた奴らも白状したらしいぞ!

しかも病院でニセの診断書を

書いて貰ったらしいな!」

「でも!殴られた事は間違いない!」

「お前は誰を相手にそんな事を言ってるんだ!

こちらはチェグループの

身内の方だと言うではないかっ!」

『えっ?!』

トクマンも思わず声を上げ

重なったが

親子喧嘩の様な状態で2人は気付かない

「すぐに調べが入ったらこの有り様だ!

お前が持って来るのは問題ばかりだ!

すぐに謝りなさい!」

「殴られた事は間違いないんだっ!」

「取引に支障が出たらどうするつもりだっ!」

「いや…あの…

身内というか関係者なだけで…

殴ってしまった事は事実で

私に非があるので…」」

「何をおっしゃる!

うちの者が申し訳なかったと

治療費に迷惑料を

こちらの言い値で払うとまで

仰られたんですよ!」

「えっ?!」

「そんな事より

デザートフェスタの出店を

是非とも頼みたい!

いやぁ〜

あなた程の立場の人がパティシエなんて

宣伝にもなりますしな!」

社長はガハハと陽気に笑い

揉てまでしている

手のひらを返した対応に

いつもは能天気なトクマンでさえも

眉間にシワが寄る


ー…これは…俺の実力じゃない…

ボスの力だ…ー


「…いえ…出店は諦めます

自分の実力はまだまだだと思い知りました」

「いやいや

バックボーンがあるのも実力の内ですよ!」

「いえ!

俺の作るデザートが食べたい

と言って貰えるように

そのケーキで出店して欲しい

と言って貰える様にならないと!

うん!これからだ!

治療費は請求してください!

何か問題があればこちらへお願いします!」


トクマンは店の方の名刺を渡すと

深々と頭を下げる

「では!申し訳ありませんでした!」


一気に捲し立てると

颯爽と部屋を出て行く

トクマンの頭の中では

すっきりまとまってしまい

バカ息子の存在はすっかり忘れていた