道元禅師が著した『正法眼蔵(しょうぼうげんぞう)』からの抜粋「修証義(しゅしょうぎ)」に〈光陰矢よりも迅(すみやか)なり。身命は露よりも脆(もろ)し〉という一文がある。

一般によく見聞きする「光陰矢のごとし」はこの一文が由来だが、時が刻々と過ぎ去るさまは矢よりも速く、人の一生は草に宿る朝露よりも儚いという意味だ。

「いま」はあっという間に、それこそ一瞬で飛び去ってしまう。「いまの自分」は瞬時に過去という時間に呑み込まれてしまう。その時その時、その瞬きの心の在り様や環境がどのような状態であれ、つまり良かろうが悪かろうが、順境だろうが逆境だろうが、その時どきの正味の自分を見詰めて行く以外、人生をまっとうする道は無いことを表している。

禅の生き方の柱に「即今、当処、自己」がある。即今はたった今を表し、当処は自分が居るこの場所、自己は自分自身ということで、いま、ここで、自分が心を尽くして対峙することが全てで、また禅でいう「一息(いっそく)に生きる」という、瞬間を生ききる、ひいてはその積み重ねが人生を形作っていると言われている。

確かなのは「今、此処、自分」ということだけで、それだけにひたすら意識を向ける。人は過去にも未来にも生きてはいない。

色々な解説はだいたいそのような説明でこの〈光陰矢よりも迅(すみやか)なり。身命は露よりも脆(もろ)し〉を示している。

白隠禅師の師にあたる正受(しょうじゅ)老人は「一大事と申すは、今日ただいまの心なり」と言った。

一大事は人生で最も大切なことを呼ぶが、それは今の心だと老人は言う。いちばん大切な今の心を蔑ろにしてはならないということだ。

過去にも未来にも生きてはいないということは自明でありながら、過ぎた昨日もまだ訪れない明日も暦がなだらかに繋がっているが故、過去にも未来にも心を落とすことが出来るがその錯覚に陥る瞬間は今この瞬間を蔑ろにしていることに他ならないということだろう。

色々なありがたい言葉にナルホドなあと感心しきりだが、見事に今この瞬間を常に蔑ろにし続けている。

余計な念慮を抱くことが面倒なので、過去にも未来にも心を注がないし、かと言って今この瞬間に意識を集中させ対峙しているかと言えば、全くそのような気持ちを鮮明に持つことはない。

ひたすら散漫に無自覚なまま生きている。

生きているなどと言ってしまうのはあまりにも大袈裟で、それはもうひっそりほそぼそと息をしている程度なので、立派な言葉は立派な心がけの人に任せて、救いようの無いどうしようもない私はただひっそりほそぼそと息をするのみだ。と横着きわまりないことを言ってみる。

saturday morning白湯が心地良く全身に巡り渡る。

本日も。薄く淡い。