どこ吹く風だとか余裕綽々だとか涼しい顔をしてだとかいつも我関せずだとか何でも他人事だとか気の無い顔をしてだとか、始終言われる。

余程、傍から見れば無関心で適当なのだろうし、その通りだろうなと思う。

果ては優雅だとか言われるが、それこそ決して褒め言葉や羨望とかでは無く、何の危機感も無いことをオブラートに包んだ、いわば批判というか親切な警告、或いは皮肉だろう。

何にも興味を示さない訳では無いし向ける関心事が無い訳でも無いが深追いをしない。

色々なことに徹底的に着地点を見いだして興味や関心事を帰結させるような意識が薄い。

危機感に関して言えば、何としても災害から逃げ切るとか乗り切るとか生き残るという強い意志が無いので想定して備えるという心掛けも心構えも無い。

かといってどうにかなるなどとも思っていないし、強いて言えば、嗚呼其処までなのかなと思うだけだ。

其処までとは、生命とやらが断絶される瞬間とでも言おうか、終了する瞬間とでも言おうか。

意思を超えた禍福を運命と呼ぶがそのようなものとは思わないし、命が有る間の寿命とやらの終わりだとも思わない。

生きていることの実体も死んでしまうことの実体もどちらも同じように曖昧で稀薄だ。それを思うとどちらに自分が居てもあまり大差無いように思っている。

仏教の教え「諸行無常」と並ぶもうひとつの大きな柱に「諸法無我」という考え方がある。「法」は「氵」に「去る」と書く。さんずいは水に関する部首である通り、水が高いところから低いところに流れることを意味している。この流れの方向はいつの時代であろうとどこの地域であろうとも変わらないことから「真理」を表す。従って「法＝真理」で、加えて言うなら「仏の説いた法」が「仏法」、その教えが「仏教」ということで、「諸法」とは全ての真理を意味することになる。

また「無我」とは実体が無いことを指す。「我」という概念は有るが、単体では存在し得ないとされ、関係性の中に存在していると言う意味だ。

枡野俊明氏の何かの著書に、この「諸法無我」について、その人の周囲には親兄弟、友人知人、住む場所やその地域、社会生活の中で関わる場所や様々な人々、身を包む衣服や靴、あらゆる持ち物、そして、必要とする物を買う店等々、限り無く、あらゆる人々とあらゆるモノ、コトと関わり合い、生きている。つまり、ひとりひとりにそのように宇宙のような輪が有り、関係性の中で複雑に重なり合って生きていることに他ならないというような記述が有る。

関係性の中で、自分が此処に、或いは其処に存在していることを認識している。言い換えればその関係性でしか確かに今此処に居ることさえ認識出来ない。その認識すら頭蓋骨に収まっている脳がそのような状態を感知しているだけで実に脆弱な認識だと思ってしまう。

雨上がりの昨朝。

時折通り抜ける公園で、木の幹や木柵などにしっかりと脚を噛ませた蝉の脱け殻を三つほど見付けた。

四本の指と親指で雨に濡れて柔らかくなった脱け殻をそっと包むようにして、噛ませた六つの脚を外す。

先日来バッグには小さなプラスチックケースを用意しているので、すっかり柔らかくなった脱け殻をケースに入れる。あっという間に三つのヌケボウを見付けた。

蓋はせずにバッグにも仕舞わずにケースを手にしたまま、公園の出口とも入口ともなる場所に近付いた。

待機した車がいつもにも増して艶やかに見えるのは雨上がりのせいなのだろうか。

ほぼ同時に「おはようございます」とドライヴァーと挨拶を交わして車に乗り込む。

三つのヌケボウを右手の平に乗せ、膝に小さなケースを置いて左手でティッシュに拭い、更に新たにティッシュを小さく畳んでケースの底に敷いて、三つのヌケボウを置いた。そして、蓋を閉めたところで、車が静かに動き出したのはドライヴァーが気を遣ってくれていたからだろう。

雨上がりのしっとりとした朝。

濡れた三つの蝉の脱け殻が唯一今この瞬間に居る自分が認識出来ている。と、都合良く思った。

車で移動していることとかはまるで他人事、むしろ、曖昧でしか無く、今、確かなのはケースの中の脱け殻が雨ですっかり柔らかくなっていることだけだった。

そして、良い一日が始まったとだけ思った。

thursday morning白湯が心地良く全身に巡り渡る。

本日も。淡い。