
長年、ヨットが欲しいと思いながら、時間的、精神的、資金的など色々踏ん切りが付かず、ただ横山晃さんの本を眺めたり、ハラショフヨットの12.5の工作本で夢想したり、池川ヨット工房さんのサイトを見たりしていた。
海外で子会社経営するはめになり諦めていたものの、帰国となってようやく「定年してからでは遅いのでは」と半分本気で探し始めた。
先進国ではどこでも、「一流の技術者」は消えて行っている。本当に品質が良いものは、「コスパの良いもの(短期)」という経済思想に駆逐されそうになっている感覚も強い。命を預けるなら、下手な船は選べない。
ガチの一流の木造艇…総チークで500万円強。保管状態も良さそう。しかし維持できないだろう。ヨットが死んでしまうし僕も休みの度にメンテメンテ、係留費用も高いだろう。定年したら時間はあるだろうけど維持費が払えないしシングルハンドも厳しい。湖では大きすぎるし腐りやすいかも。
横山晃デザインの木造艇…25フィートくらいで15万円。船外機。やはり古い木造船体の維持が不安。淡水は腐りやすいみたいだし。技術力が無い我が身では、メンテは外注しかないし…しっかりレストアするならアリだけど、喫水がたぶん1.4mくらいありそう。検討しているマリーナ2箇所でNG。船室は狭い。
ZEN24(信天翁24)…とある中古艇サイトで200万円から300万円で2台あった。20年近く前の艇で200か。どのくらいの修理や手入れが必要かは不明。喫水は1.2m、ギリギリかな。全長は8mくらい。つまり保管料金は高めになる。船体はFRPだしシングルハンドで乗れそう、湖でも荒い日本海でも大丈夫そう。池川さんがFRP船体の型を作ったらしいし、大人が立てる船室もある。
ACTUS17…5m程度のディンギーを安定させるキール付き。60万円くらい。FRP。トレーラーでどこにでも運べる。維持費は1番安いけど、船室は無い。湖なら利便性良い。日本海は無理かな…
中部で事故でご夫婦がお亡くなりになったようで、沈まない構造とは言え僕のようなビギナーには危なすぎるのかもしれない。
木造フォークボート…デザインはかなりカッコイイ。26フィートプラスアルファだから8m超かな。
フォークボートは世界を周った方がたくさんいるほど信頼性があるロングキール艇。古い木造で30万円くらいだから超安いけど、木造クリンカー張りか…湖だと腐って海だとフジツボやフナクイムシでメンテ地獄になるかな…知り合いのドイツ人古参じい様に聞いてみたら「フォークボートはかなり濡れまくるぞ」「船室は低くて狭くて」と、快適性は無いからな、とのこと。FRPがあっても濡れるのと狭いのは同じか…
ちょこちょこ問い合わせしたりしているうちに、ふと探してみた「フリッカ20」。
20フィート(約6m)しかない船体だけど、海を渡れる頑丈な船体にロングキール(船の下、真ん中くらいから後ろの舵の部分まで長い頑丈な重り、写真参照)は、何か当ててしまったり浅瀬でもダメージが少ない。喫水は1m以下。大人が立てる船室もある。船体はFRP、デッキは木造。上はかなり傷んでる。エンジンは古い船外機。
大きいほど維持費や修理費用は高いし歳を取るほど体力も無くなる。大きさでマリーナ代に限らず、部品や塗料代も加速度的に上がる。腕があってもトラック運転より軽自動車のほうが気楽なのは当たり前。
船内エンジンは故障したら単なる重石だし、船体を貫いているシャフト部分は浸水の原因にもなる。しょっちゅう乗れたり確認できる時間が無い身の上ならば、船体に穴は無い方が安心。トレーラーを入手したら車で運ぶこともできる。
なぜかTiny house Japanというキャンピングカー製作の会社が窓口。社長さんの船だったのかな…
問い合わせてみると、現在交渉中の方がいるとのこと。残念だけど縁が無かったのかもしれないですね、ご縁があればまた。
…としばらく後。
その方が辞退されるようで、何と僕に交渉権が。
劣化が酷いため、修理前提でのお話。なんと修理はプロの修復家で日本ヨット界黎明期からの超ベテランヨットマンでもある高嵜史典さん!
大先輩に恥ずかしながら自分の腕が無いことや、とにかくシンプルに、強い船体と強いデッキを最優先(長く安心して乗りたい)、船内エンジンは付けない。メンテに時間が掛けられない生活スタイル、湖と日本海で乗りたい、などなど、思いの丈を伝えたところ、素人の若造をバカにすることもなく親切に相談に乗って頂けた。
特に日本海の冬場はやばいので、強度についてはしつこく聞いたと思う。
このフリッカは有名なパシフィックシークラフト製では無かった。しかし、その昔アメリカであるヨットマンが制作し太平洋を渡ってきた船。
設計図、型から制作したものなのか、または当時の船体キットを使ったのかはわからないが、かつて読みまくった横山晃さんの著書に「アマチュアの自作は、材料の吟味も図面確認の丁寧さも、一流造船所が作るクラス1隻目に匹敵し、建造中の変形に気を配り、重量増加を防ぐなど、努力の量は玄人以上になるのが普通である。だから、自作艇が一流造船所の2隻目3隻目とのレースに勝っても不思議ではない」とあったことを思い出した。
レースではないが、6m程度の自作艇で太平洋を渡って日本に行くなどというヨットマンが、生半可な気持ちや品質で作った船のわけは無い。
しかも1970-80年くらい?には今のようなデジタル海図もGPSシステムも衛星電話も無い。
1人の男が命を賭けるに値すると信じて作った船。受け継いできたオーナー達が愛し、手を入れ想いを刻み、天への旅に出た後に何年もそれを守ってきた奥様の意志。
今それを技術力世界一の日本の一流の技術者でヨットマンの高嵜さんが再生してくれるならば、これ以上の信頼は無い。
私見ながら、高嵜さんは性能一辺倒の技術者ではなく、美的センスにも重点を置く稀な方だと感じる。過去の造船や最近レストアした船を拝見しても、「美しさ」がある船しかない(笑)
その高嵜さんの琴線に触れたフリッカは、必ず美しく強い船として再誕すると確信できる。
この船には色々な方の善意が集まった奇縁を感じる。建造して命を賭けて日本に来た初代がスタートではあるが、旦那様との想いを大切にし、動かなくなったフリッカを見捨てず、長らく継承者を探して下さっていたラトクリフ祥子さん。
朽ち果てつつある船を善意で保管に協力頂いていたマリンピアムサシの中野さん。最高のセンスと技術力を持ち経験抱負な高嵜さんの協力。そしてこの奇縁全てを結びつけ、レストア場所までご提供頂いているTiny house Japanの田上さん。
色々な糸がタイミング良く収束し、多くの人の強い想いが詰まったフリッカ20が再生し、不意に僕が継承することになる。
運命ならば、大切に引き継いでいこう。
もしや、Tiny House Japanに掲載した際の「5円」という意味は、本当にご縁がある人、という啓示だったのかもしれない…


