「…うわぁ、積もりましたね」
アパートを出て一面の銀世界に思わず息を呑む。
昨日から降り出した雪は見事に街中の色を白へと変え、
雲の切れ間から出た朝日を浴びて、チラチラと輝いていた。
雪を踏む靴裏に、
ギュッギュッとくぐもった音を感じる。
「もうちくと、寝とってもええんじゃぞ?」
「いえ、オレも朝から講義がありますし。それに…」
“龍馬さんと一緒に歩きたかったから…”
その言葉はなんだか恥ずかしくて、言うのをヤメた。
『一緒に、暮らさんか?』
さっき貰った思いがけないセリフが、木霊のように響いて蘇る。
『そうすれば、おまんに寂しい想いをさせんで済むき』
龍馬さんはオレの髪を優しく梳きながら、
『わしの帰る場所になってくれ、翔太。…おまんがわしの
“居場所”じゃ』
そう言って笑みを深めたのだった。
「……また降ってきましたね」
ふわりふわりと舞い落ちる、
花のように柔らかな白い雪。
「…お、いかん、
忘れる所じゃった!」
すると突然、
隣りを歩いていた龍馬さんがその場に立ち止まり、
なにやらデカイ鞄の中をゴソゴソと漁り出した。
「…あっ、いけね、そう言えばオレも…っ!」
同じく鞄の中をかき回し出すオレ。
そして、
お互いに見つけ出したモノを目の前の相手へと差し出す。
「翔太、めりーくりすますっ!」
「龍馬さん、メリークリスマスッ!」
それは銀と緑のふたつの包み。
互いに“おねだり”し合っていた、
クリスマスプレゼントだ。
「……ぶはっ!」
「………ぷっ!」
同時に吹き出して、
相手に送るプレゼントの包みをカサカサと解く。
それから取り出したモノを相手の首へと丁寧に巻きつけた。
「よく、似合ってます」
「翔太もじゃ」
オレ達はくすくすと幸せな笑みを漏らして、
互いの存在を一番近くに感じ合った。
![雪の中で550.jpg](https://stat.ameba.jp/user_images/20140406/22/k-otoha-1005/c6/29/j/t02200165_0550041212900489394.jpg?caw=800)
「…翔太の髪にまた六つ花が咲いとるぞ」
あの日と変わらない、愛おしそうな眼差し。
『一緒に、暮らさんか?』
その答えは、
あの時から決まっていたのかも知れない。
六つ花とひだまりに、約束されて……。
『…………はい』
完