乙葉BOX -2ページ目

乙葉BOX

風のように、月のように。



 
「…うわぁ、積もりましたね」


アパートを出て一面の銀世界に思わず息を呑む。


昨日から降り出した雪は見事に街中の色を白へと変え、

雲の切れ間から出た朝日を浴びて、チラチラと輝いていた。


雪を踏む靴裏に、
ギュッギュッとくぐもった音を感じる。



「もうちくと、寝とってもええんじゃぞ?」


「いえ、オレも朝から講義がありますし。それに…」



“龍馬さんと一緒に歩きたかったから…”

その言葉はなんだか恥ずかしくて、言うのをヤメた。



『一緒に、暮らさんか?』


さっき貰った思いがけないセリフが、木霊のように響いて蘇る。



『そうすれば、おまんに寂しい想いをさせんで済むき』


龍馬さんはオレの髪を優しく梳きながら、



『わしの帰る場所になってくれ、翔太。…おまんがわしの
“居場所”じゃ』


そう言って笑みを深めたのだった。




「……また降ってきましたね」


ふわりふわりと舞い落ちる、
花のように柔らかな白い雪。



「…お、いかん、
忘れる所じゃった!」


すると突然、
隣りを歩いていた龍馬さんがその場に立ち止まり、

なにやらデカイ鞄の中をゴソゴソと漁り出した。



「…あっ、いけね、そう言えばオレも…っ!」


同じく鞄の中をかき回し出すオレ。


そして、
お互いに見つけ出したモノを目の前の相手へと差し出す。



「翔太、めりーくりすますっ!」


「龍馬さん、メリークリスマスッ!」


それは銀と緑のふたつの包み。


互いに“おねだり”し合っていた、
クリスマスプレゼントだ。



「……ぶはっ!」


「………ぷっ!」


同時に吹き出して、
相手に送るプレゼントの包みをカサカサと解く。


それから取り出したモノを相手の首へと丁寧に巻きつけた。



「よく、似合ってます」


「翔太もじゃ」


オレ達はくすくすと幸せな笑みを漏らして、

互いの存在を一番近くに感じ合った。



   雪の中で550.jpg



「…翔太の髪にまた六つ花が咲いとるぞ」


あの日と変わらない、愛おしそうな眼差し。



『一緒に、暮らさんか?』


その答えは、
あの時から決まっていたのかも知れない。


六つ花とひだまりに、約束されて……。




『…………はい』



        完