こま吉日記

こま吉日記

永遠のサッカー小僧‼

様々な議論が展開されそうな気もするが、あえてブログにアップしよう。

トルコの事例だが、とても興味深いことが書かれていました。

 

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学校で「やり抜く力」は育つか?

Global Economics Trends 編集委員 前田裕之

 

人間の能力の中で、学力やIQ(知能指数)テストで計測できる「認知能力」以上に、忍耐力や好奇心、「やり抜く力」といった「非認知能力」が重要だと主張する研究者が増えている。非認知能力が高いと賃金も高いと結論づけた論文もあるほどだ。

それでは、どうすれば非認知能力を育成できるのか。特に学齢期の子供たちの非認知能力を、学校で育成できるのだろうか。教育経済学が専門の中室牧子・慶応義塾大学教授は、教室の中で非認知能力を育てるプログラムの効果を測定した論文に注目している。

 

子供たちの「やり抜く力」が注目されている

 

■タイトル「失敗したならもう一度挑戦することが成功への近道だ:やり抜く力を育成する教育介入の結果から」

(Ever failed, try again, succeed better: Results from a randomized educational intervention on grit、2019年)

■著者 スール・アラン(英エセックス大学)ほか

 

【論文の概要】

将来の学力を左右する要素として、子供たちの「やり抜く力」(GRITとも呼ばれる)に注目した。

過去の研究に基づき、「やり抜く力の強い人が高い成果をあげられるのは、失敗や挫折を乗り越え、難しい課題に取り組む努力をする意欲があるためだ」という仮説を立て、ランダム化比較試験(RCT)を実施した。

2度の実験によって、生徒たちの自己申告に基づく質問票調査から、介入を受けた生徒たちのやり抜く力が大きく高まったことを証明した。加えて、難しい課題を解くとご褒美が得られるゲームをすると、介入群の生徒は、より挑戦的な目標を設定し、自分のスキルを高められるような活動を選択してスキルを高め、より高い報酬を得る確率が高いことも明らかになった。また、介入から2年半後の追跡調査では、介入群の生徒は、数学の学力テストが偏差値で2近く高かった。

【論文の手法】

トルコ・イスタンブールにある公立小学校の中で、プログラムに関心を持つ教員がいる学校を、無作為に処置群と対照群の2つに分ける「クラスターランダム化比較試験」を実施し、プログラムの効果を測定した。

2回の実験のうち、1回目の実験では処置群15校、対照群21校の合計2500人の生徒が対象となった。2回目の実験は別の学校で実施し、処置群8校、対照群8校の計1500人の小学校4年生の生徒が対象となった。

教員は子供たちに

  1. 目標を設定することが重要
  2. その目標を達成するためには努力が大切
  3. 失敗や挫折を建設的に考えることの重要性
  4. 人間の能力は決して生まれつきのものではなく、努力によって変えられること

を随所で伝えるように指示された。実際に子供たちをほめるときには、良い結果だけではなく、生徒の「努力」をほめることが推奨された。

成功における努力の役割を強調するように助言された。研修を受けた教員は、全部で10回、12週間の間に最低2時間程度でこのカリキュラムを実行した。現役の小学校教員やコンサルタント、童話作家、アーティスト、教育心理学の研究者らからなるチームが、学校で実施するためにアニメーション動画、ケーススタディー、授業内活動などで構成する特別のカリキュラムを策定。担当する教員を養成するための教員研修を実施した。カリキュラムは、特定の単元についての教材の提供にとどまらず、教員の授業の進め方を変えることで子供たちのマインドセットを変えようとした点に特徴がある。

 

【論文から何を読み取るか】

学校教育で「やり抜く力」を高めるプログラムを実行すれば、プラスの効果は大きい――

アラン氏が導き出した結論にはあまり意外性がないかもしれないが、実際にプログラムを作成・実行して効果を検証した点にこの論文の意義がある。

中室氏は、学校でRCTを実施できるトルコの環境を高く評価する。トルコ国民教育省は小学校に対して、民間・非政府組織(NGO)・国際機関などが提供する課外プロジェクトに教師の裁量で参加することを奨励している。学校は週に最大5時間をこうした講義に充てられる。

日本でも非認知能力が重要だという認識は広がりつつあるものの、いまだに多くの学校や保護者は「偏差値」という物差しで測れる認知能力に強い関心があり、非認知能力の育成を明確に目標に据えたプログラムの開発は後手に回っている印象がある、と中室氏は指摘する。

文部科学省が推進している「研究開発学校制度」はあるものの、ごく限られた一部の生徒を対象にした体系化されないプログラムが多く、アラン氏らが実施したような定量的な効果の検証もなく、他の学校にも展開できるような内容になっていない。

 

中室氏が挙げた他の参考論文は以下の通り。

■タイトル「教育での忍耐力の育成:無作為の教育介入の結果」

(Fostering patience in the classroom: Results from randomized educational intervention、2018年)

■著者 スール・アランほか

 

上記の論文と同じ設計で、トルコの小学校で、非認知能力のうち、「忍耐力・自制心」を育成する目的のプログラムの効果を検証した。アラン氏らは、忍耐力や自制心がないのは、将来に備えるために我慢ができない状況であると考え、将来に備えなかった場合の(あるいは備えた場合の)将来の帰結を想像する能力を向上させるように仕向けた。

上記の論文と同じように、教員が教室活動を通じ、子供のマインドセットを変えるような取り組みをした結果、子供たちはより将来を重視し、より忍耐強い選択をし、通知表で問題行動を指摘されることが少なくなった。この効果は、介入後3年間持続した。

 

■タイトル「認知能力を改善するために非認知能力に狙いをつける:補習による教育介入からの証拠」

(Targeting non-cognitive skills to improve cognitive outcomes: Evidence from a remedial education intervention、2014年)

■著者 ヘルナ・ホルムランド、オリモ・シルバ(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス)

 

低学力層の子供の自尊心や意欲といった非認知スキルの改善を目標にした教育プログラムの効果を検証した。それまでの研究では、子供の非認知スキルだけを対象にした教育プログラムの効果はほとんど明らかになっていなかった。英国の学校で14歳以下の子供を対象にこうした教育プログラムを実施したところ、授業の出欠へのプラス効果はあったものの、試験の成績を改善するまでの成果は観察できなかった。

 

日本の学校教育では、偏差値という目に見える指標が大手を振っている。学校や保護者が「偏差値がすべてだ」と思い込んでいるわけではなく、ほかに方法が見つからないから、偏差値に頼っているのだろう。

認知能力と非認知能力の関係は必ずしも明確ではない。非認知能力が高まると認知能力も高まるのか。

将来の賃金上昇にとって必要なのは認知能力なのか、非認知能力なのか。それとも両方必要なのか。アラン氏らの研究結果だけでは分からない点も多い。

それでも、子どもたちの「やり抜く力」や忍耐力を育成できるプログラムが存在するのなら、導入に反対する人は少ないのではないか。ただ、偏差値を伸ばすための教育に比べると、明らかに準備に時間とコストがかかる。教育の成果を確かめる作業にもかなりの労力を要する可能性が高い。アラン氏らは、実験用に特別な教材を作成し、教員にも研修を受けさせた。日本の教育現場には、新しいプログラムを作成・実行する余裕はないのが実情だ。

文部科学省と学校が一体となって教育カリキュラム全体を見直さない限り、新プログラムの導入は難しいが、日本の「やり抜く力」を底上げするためにも、試してみる価値は十分にあるはずだ。